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友坂勇輝、ベッドから起き上がる

ーーーやべえ


 友坂勇輝はベッドに横になりながらスマホを眺めています。


ーーー上がれよ、上がれよ!


 とスマホの画面を見ながら力なく思います。

 仕事を辞めてひと月。辞めて数日で昼夜逆転、朝5時に寝て起きるのは夕方3時。ゴロゴロ起き上がれず夕方4時に。なんとか起き上がって買い物、そして飯を食う。そのあとは何をするわけでもなく動画をだらだら見たりとにかくスマホをいじる毎日。もう働きたくない。そんな時あるスレで見た大きく金を儲ける方法。FX。もちろん負けもあるだろう。だけど一攫千金の夢がある。なんとか起き上がりFX口座を作る。下がった時に買って、上がった時に売ればいい。ただそれだけだ。買って、売って。やった、1万円の儲け。たった30分足らずで1日の給料分ぐらいを。


ーーーなんだこれは!


 ドル円だけではない。ユーロドルの取引もある。とある掲示板のコメントを見る。ユーロドルは上がるぞ、ユーロを買え、と。ふむ。一万円ぽっち稼いでもあまり意味はない。せめて一千万あれば当分は大丈夫か。ユーロドルだ!ユーロドルを買いだ!

 買ってしまえばスマホを延々見る日常。さて、ユーロドル、上がりません。下がる一方。まじ?やばいのか?表示に出ているのは−3万円。さっき儲けた分合わせてもマイナスになってしまいます。あっさりマイナス数万に。俺の前職の日当数日分がすぐに消える世界。やっぱりもう辞めよう。今取引してる分がプラスになればもうFXは辞める。こんな精神に悪いものはない。

 ユーロドルが上がりました。儲けが+200円になってます。これを利確して辞める、そう思っていたはずでした。勇輝に欲がでます。もう少し上がるだろう。さっき食った王○のランチぐらい上がってくれれば、ただで食べたも同然だ。あと1000円ぐらい儲けになれば、それで終わろう。

 しかし上がりません。そこからは延々下がるのみ。掲示板を除きます。コメントにあるのは


「大丈夫、こっからユロルは上がる」


 コメントを信じて、勇輝はさらにユロルを買い足しました。大丈夫。こっから上がるんだ。

 上がりません。延々と下げ続けます。飯も食わず、シャワーも浴びず、起き上がりもせず延々横になってスマホのFXユロルのグラフを見続けています。上がった、下がった、下がった、下がった。下がっては、流石にもう下がらないだろうと買い足しします。でも、下がっていきます。多少のレバレッジをかけています。証拠金維持率がだんだんと下がっていきます。実は、勇輝には夢がありました。小説家です。シコシコと働きながらも小説を書きためていました。とあるサイトにも上げています。ブックマークは10人しかいませんが、それでも嬉しいものです。仕事を辞めて、小説を書く。俺の人生の命題は小説を書くことだ。そう意気込んでいた時もありました。それがこの有り様です。一文字も書かず、スマホの画面から離れることができません。お腹が鳴ります。でも立ち上がれません。めんどくさいのです。頼む、もうしないから。これさえトントンで終われば、もうFXはしないから!何度目かの誓いを立てて、神に願います。お願い、ユロル上がって!含み損−62万。零細企業でせっせと5年働いた退職金はとうに飛びました。掲示板のコメントをm見ます。


「爆益www」


「ロンガー死亡www」


 スマホを投げます。天井を見上げます。俺は何をしているんだ。俺の人生の命題は小説を書くことだろう。金が何だ。小説を残して、ブックマークしてくれた10人が読んでくれて。そうだ!金じゃねえんだ!ようやくベッドから起き上がります。カップ麺を食います。お茶をがぶ飲みします。活力が湧いてきました。突如ソワソワしてきます。やはりスマホのFXアプリを開きます。

含み損−75万。みんなユーロ買えよ!ヨーロッパで何があったっていうんだよ!とヨーロッパに八つ当たりします。世界情勢や経済のことなど、全く調べはしません。情報源は全て掲示板のコメントです。しかしここにきてようやく気づきます。掲示板のコメントは当てにならない、と。そして、本当の本当に思います。調べもせず、適当に買ったり売ったりした自分。もう、FXは辞めよう、と。証拠金維持率が限界に近いです。ロスカットになると、口座の金はぱあです。もういいんだ。もういい。ちゃんとどっかで働いて、合間に小説書いて、それでいいんだ。それでいいんだ。


 −77万


 含み損です。

 あとはスマホの確定を押せば、すべて終わりです。−77万が確定します。


ーーーありがとう、みんな


 勇輝は、謎の感謝を誰とは言わず思うと、スマホの画面に親指を伸ばします。その時でした。窓が急に開きました。今は夜の23時過ぎです。泥棒か、幽霊か?普通なら恐れ慄くところですが、今の勇輝は何か達観したように窓の方を見ました。

 カーテンがあります。それを勢いよく払って現れたのは、ダメージジーンズにスカジャン、サングラスをおでこの乗せたイケイケ姿になったミラちゃんです。


「友坂勇輝、世界を救う救世主になりませんか?」


 ミラちゃんは声高らかに言いました。普段なら隣を気にする勇輝ですが、この時ばかりはそんなこと気にしていません。

 その時、勇輝のスマホが鳴りました。勇輝はスマホを確認します。勇輝は小さくため息をついて、ミラちゃんを見て言います。


「ロスカットですって」


 それはまるで他人事のように。しかしそこには清々しささえあったと後にミラちゃんはこの時の勇輝を思い出して言いました。


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