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02 がーるず・あでぃくてっど!

「相変わらず、おモテになりますね?」


 広々とした車内で大きなため息をついていた百花に、リムジンの運転手の、メガネをかけたメイド服の女性が話しかける。

「噂では、学園内にはお嬢様のファンクラブまであるとか?」

「冗談じゃないわよ……」

「奥様も、ご自分の娘がこんなに人気者だなんて、さぞや誇らしいことでしょうね」

「やめて……」

「これならば、奥様が私財をなげうってお嬢様のために女子高をまるまる一つ作った甲斐もあった、というものでございましょう」

「やめてってば……」

「これで、実はお嬢様にご友人が一人もいないという事実さえなければ……」

天乃(あまの)、やめなさいっ!」

 強い言葉でメイドをいましめる百花。しかし、天乃と呼ばれたそのメイドは、その注意に反省する様子など微塵もない。むしろ、彼女が取り乱しているのを喜んでいるようですらある。

 バックミラー越しにニヤニヤと笑っている自分の従者に、言い聞かせるように百花は言った。

「いいこと? そんなの、全然問題じゃないの。だってワタクシには、はじめから女の友達なんか要らないんだから」

「作れない、の間違いではなく?」

「要らないのっ! 必要ないのっ! だって、だって……だって……」

 ポッと顔を赤らめる百花。彼女はそこで、果てしない妄想の世界へと飛び立った。


「ワタクシに必要なのは、圧倒的かつ根源的にして普遍的な存在……たった一つのシンプルな答え……イケメンだけ、なんですもの! イケメンさえいれば、他には何も要らないの! 空気がなくても、食事もとらなくても、イケメンがそばにいてくれるだけで、ワタクシは永遠に生きていけるのよ!

……ああ! このワタクシがここまでイケメンを欲しているというのに、どうしてイケメンたちは、誰一人としてワタクシの前に現れてくれないのかしら⁉ 富も、名声も、美貌も! 全てを手に入れたワタクシなのに……ただ一つ、イケメンだけが欠けているなんてっ! 神様は、どうしてこんな意地悪をするのかしらっ⁉」

「念のため訂正させていただくと……正確には、富と名声はお嬢様ではなく、お嬢様のお母様が手に入れた物ですね。百花お嬢様ご本人の価値としては、そこらの路傍(ろぼう)のJKと大差ないと思いますよ? それから美貌については……まあ、言うだけなら何とでも言っていいと思います。日本が言論の自由を保証してくれている国で良かったですね」

「う、うるさいわねっ! 勝手に、人の妄想に口を出してくるんじゃないわよっ!」

 悲劇のヒロインを演じている百花に、冷静に水を差すメイドの天乃。どうやら彼女には、百花に対する忠誠心のようなものは皆無のようだ。彼女は更に百花を追いつめる言葉を続ける。

「あと、どうしてイケメンがお嬢様の前に現れないのか、なんて言ってましたけど……。その理由は、お嬢様ご自身が一番ご存知のはずでしょう? ……要するに、自業自得ですよね?」

「う……」

「あるいは、因果応報でしょうか?」

「うう……」

「なんにせよ、かつてお嬢様が『やらかした』ことについての、至極(しごく)正当な処置だと思いますけれど?」

「ううううぅぅっ!」

「あれはそう……今から数年前のことでした……」

 まるで、ひどく悲しい過去の事件を思い出すかのように、真剣な表情で語りだす天乃。

「まだ小学生だったお嬢様が、奥様がお仕事に出かけてご不在の間、お屋敷でお留守番をしていたときのことでした……」

 もちろん、実際にはその話は悲しい事件などではなく、天乃はただ、ふざけているだけなのだが。



「その日は、奥様は重要なお仕事をいくつも抱えていて、お屋敷に帰ってきたのは夜もだいぶ更けてからだったそうです。

さすがにこの時間に、幼い自分の娘が起きていることはないだろう。しかし、せめてその寝顔を一目だけでも見て、また明日の仕事を頑張る活力としよう……そんな、感動的な母親の愛情から、奥様はお嬢様のお部屋をそうっと覗き込みました。そしてその後に、お屋敷内に響き渡るほどの、大きな悲鳴をあげることになってしまいました。なぜならば、そこに広がっていた光景は……酒池肉林、快楽主義の極み。……まあ端的に言って、地獄絵図だったそうです」

「……ああ」

 ため息のようにも聞こえたが……それは実際には、百花がその当時のことを思い出して漏らした、あえぎ声だ。だらしなく目と口を緩ませている今の彼女は、とても一流のお嬢様には見えなかった。

「そこには、お屋敷内の容姿の整った男性執事たち……だけでなく。いつの間に呼んだのか、当時女子中高生たちに絶大な人気を誇っていた男性アイドルグループのメンバーたちさえもいました。しかも、そんな彼ら全員が、一糸まとわぬ姿で四つん這いになって、室内を歩き回っていたのです。

そしてそんな男たちの中心で、まるで女王のように君臨してたのが……幼いお嬢様でした」

「えへ、えへへ……あのころは、本当に良かったわぁ……」

「絵に描いたようなド外道、性欲倒錯者、サイコパスの様相が、そこにはあったわけです。そんなものを見せられた奥様のショックは、計り知れないものだったでしょう」

 目の前に当時の風景が蘇って興奮したらしい百花は、そこで天乃の言葉を遮って、一方的にまくしたてる。

「でも、お金の力って、やっぱりすごいわよね⁉ その気になれば、人気アイドルのKARASHIだって呼べちゃうんだから! それにイケメンって、不様に服従させられていてもサマになるのよねえ……。

ちなみにあのときのワタクシは、彼らをただ全裸にして遊んでいたわけじゃないわよ? 裸の彼らを一列に並べて、四つん這いで、誰が一番最初に部屋の端から端まで移動できるかの競争をさせていたの! つまり、『千本木杯ダービー』を開いていたのよ!」

「被告人の供述は、聞いていませんよ?」

「一着はやっぱり本命の予想通り、スポーツが得意なカイバくんだったわっ!」

「だから、聞いてませんってば……」

 目を輝かせて語る百花に、もはや呆れかえってしまった天乃は、小さく首を振るだけだった。


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