古代遺跡のトラップ
BGMにドイツの作曲家ヨハン・パッヘルベルの室内楽曲、作品番号 PWC 37(カノン)をピアノバージョンで是非聞いて下さい。
月が雲に隠れた暗い夜道、森の中を走る1人の女性がいた。その胸にはハープがしっかりと抱かれていた。何処からか逃げて来たようにも見える。そして、暗闇に浮かぶ建物の中に入る。すると、足元に何かが引っ掛かり倒れる。
「何かしら? 足に……!」
足に触れると、ザラザラとした感触に違和感を覚える。その手にも違和感を感じる。これは……雲に隠れていた月が顔を出す。建物の天井は穴が開きそこから空が見える。その月明かりに自分の姿がはっきりと見える。鱗に覆われた肌、長い尾、これは、人間のそれでは無い。その姿はリザードマン。モンスターだ。
「…嘘……どうして……」
彼女は建物の奥へ行く。その姿を見られぬ様に……その姿はその後も変わらず彼女は嘆き悲しんだ。
そして、自分の手元にあるハープを奏でてみた。気持ちが落ち着く。そして、歌う。その澄み切った美しいその声は森に住む生き物に癒しを与えていた。毎夜聞こえる歌声に、街では噂が広がる。
『モンスターが人間を惑わす為に、歌っているのだ』と。
その街に、冒険者がやって来た。その噂を聞き森へ入る。そこには古い遺跡があった。数日前に大きな地揺れがあり地滑りで現れたようだ。その中には小動物が集まりスライムなどの弱いモンスターもいた。
「凄いな、随分と古い物が出てきたな。壁もしっかりと造られている」
中に入ろうとすると中から声がする。
「中に入っては行けません。そのまま帰りなさい」
そこには、リザードマンがいた。
「帰りなさい」
男は、
「モンスターが何を言う。中に宝でも隠しているのか」
そのリザードマンを庇うように小さなモンスターや森の生き物が立ちはだかる。風の精霊が木の葉を散らしその遺跡を隠した。
男は森の中を迷いながら街に帰った。街に戻った男はその話しをする、夜になれば歌声が聞こえるのでその声を辿ればその遺跡を見つけられるだろうと。
「自分は冒険者だ。人間に仇なす者であれば倒す」
夜になった。
男は森の中へ入る。美しいハープの音色と歌声が耳澄ますと聞こえて来る。それを辿って進む。
遺跡に着いた。そこにはあのリザードマンがいた。男は剣を抜き構える。と、隣にスライムが寄ってきた。
「美しいだろう?」
「スライムが喋った!」
「話せて悪いかよ。この街の者は私の事は知っている。あんたはよそ者か?」
「そうだ! 最近ここに来たばかりだ。あのリザードマンは何だ? 何故楽器が使える?」
「そんなの自分で聞けば?」
と言うと、リザードマンの所へ行ってしまった。俺はそのまま渋々帰る。
翌朝、街に行って話せるスライムの事を聞いてみると。皆知っていた。
「面白いだろう? 良く話しを聞いてもらっているよ。まあ、殆ど愚痴なんだがな。うちの街の奴らあのスライムが気に入っているのだよ。時々ふらっと街に来ては酒場何かで酔っ払い相手に話しをしているよ」
そうなんだ。また夜行ってみるか。どうしてもあのリザードマンが気になって仕方がない。
そして、夜、来てしまった。やはり美しい音色と歌声だ。
「また来たのか。ビビッてもう来ないかと思ったよ。で? 彼女と話す気になったのか」
「……待て、今、彼女って言ったか?」
「そうだよ。彼女は人間だ」
「……いや、どう見てもリザードマンだろう」
「話せばわかるよ。気になっているのだろう? 行けば?」
と、そのスライムはあのリザードマンの所へ行った。どうする……。暫くその音色と歌声に聞き入っていた。演奏が止まるどうやらあのスライムと話しているようだ。行ってみるか……。リザードマンに近づく。
「何故来たのです! 帰って下さい!」
と奥へ行こうと振り返る。その後ろ姿に向かって聞いた。
「貴方は人間なのか?」
その後ろ姿は立ち止まる。
「そのスライムが言っていた」
「貴方はモンスターの話しを信用するのですか? 私が何者か貴方には関係ない。それに、私は冒険者が嫌いです」
「話してみれば?」
とスライムが、彼女に言う。
「でも……」
「悪い人間には見えないし、それに、何かいい方法が見つかるかも知れないよ」
彼女が重い口を開き話しを始めた。
「私は隣の村に住んていました。ゴブリンが出て作物や家畜を持って行って困っていたので、冒険者に依頼をしてゴブリンを退治してもらいました。でもゴブリンじゃなかったのです。田畑を荒らしていたのはその冒険者だったのです。それを知った村人はギルドに言うと言った。それで怒った冒険者達は、村を焼いた。私は何とか逃げここに来てこの遺跡の中に入った……すると私は気が付くとこの姿になっていた」
「……古い遺跡だからなあ、何かトラップでも仕掛けてあったのかな?」
「私の話を信じてくれるのですか?」
「まあな、話すスライムがいるんだ。可笑しな事があっても不思議じゃない。それにな、俺達の知らない事は沢山ある。今見えている物がすべてじゃない」
「なあ、俺と街に行かないか? スライムだってこの街の人は気に入っていると話していたから、相談してみないか?」
「……無理です……こんな醜い姿……きっと分かってもらえない……」
「俺がいる。俺が貴方を守ってやるよ」
空が明けてきた。朝日が照らし始める。彼はそっと彼女の手を取り歩き出す。一緒に遺跡の外に出た。 朝日が眩しい。と、彼は驚く!
「……それが、貴方の姿なのか……」
リザードマンだった彼女は人間に戻っていた。
「そうか、遺跡の外に出ると解除される仕組みか!」
「よかったな!」
とスライムが言うと彼女は笑顔で言う。
「ありがとう」
彼に彼女は言う、
「貴方が守ってくれると言ってくれたから、ここから出る勇気が出た。ありがとう。私の話しを信じてくれて。貴方が来なかったらきっと私はあのままだった」
彼は照れながら言う、
「一緒に街へ行こう」
彼女は頷く。そして2人は街へと向かった。その後ろ姿をスライムは見送る。
黒森 冬炎さまの劇伴企画に参加させて頂きます。過去作でもいいと言う事なので…。アンサーストーリーはこんな駄作でも書いて頂けたら嬉しいです。