プロローグ
※ この物語はフィクションであると同時に、異能力バトルと
スパイ要素を含んだロボットアクションファンタジーです。
実在する人物・団体・名称とは、全く関係がございません。
「私について来るといい。君たちに本当の世界を見せてあげるよ」
とある貧民街の路地裏にて、そんなことを口にした少女がいた。
少女は社交会で着そうな立派な黒のドレスを着ていて、少し蒼がかった銀色の長い髪も透き通っていた。黄金色に輝く瞳は真っ直ぐに三人に向けられていた。
その立ち振る舞いは上品だが、どこか異様な空気を放っていた。どこから湧いて来るのか分からない自信、そしてごく普通に握手を求めて手を差し出す様。正しく、瓦礫の山で返り咲く華の様だった。
それは間違いなく、繁華街に住む者たちを連想させる物だった。
繁華街に住む上級民は自由を謳歌していた。それだけに留まらず、下級民を家畜よりも酷く扱い、身体が壊れるまで働かせては罵声をあげる。
それとは逆に、貧民街に住む者たち――下級民には苗字がなく、墓石に名が刻まれることもない――つまり、ゴミ同然だった。
だから、下級民は上級民を見るだけで毛嫌いを起こす。自分たちを道具以下の様に扱う彼らを、憎まずにはいられなかった。
だからこそ、華の様な少女は貧民街に住む三人の少女にとっては当然、邪魔でしかない。
しかし、少女の立つ場所は自分たちの縄張りであったため、三人の怒りは平然と少女が自分たちの縄張りに立っていることに向けられるのだった。
「上から目線で何言ってやがる! そこをどきやがれ!」
それを合図に三人は少女に飛び掛かった。しかし、三人の攻撃は当たることなく、最初の立ち位置から全く動いていない様に見える少女の繰り出された手刀に呆気なく倒れてしまった。
この世界には、《醒能》と呼ばれる固有能力が存在する。それは世に生まれた時点で発現しており、集団で遊ぶようになる頃には使い熟せる様になると言われている。
例えば合図を出した少女――リネラの場合は『世界の進む時間よりも速く動く』、というモノである。
そんな三人は倒れてもまた立ち上がり、今度は醒能を用いて再び少女に挑んだ。
しかし、それを使用しても少女は同様を見せることも、醒能を使う素振りもなく、最後には先と同じく三人とも地面に叩きつけられた。
地面に這いつくばったまま見上げれば、少女は以前として何事も無かったように棒立ちのままだった。自分たちと同じぐらいの身長なのに、その姿はとても大きく見えた。
――まるで歯が立たない絶壁。そんな雰囲気を醸し出す少女を前に、三人は抵抗する気力も失っていた。
それを知ってか知らぬか、少女はそのまま話を続ける。
「私には、金銭もなければ人員もなく、人望も住処もない」
何を言っているのかさっぱり分からなかった。
金がないからここにいる? 行く宛もない? はっ、冗談だろ? そう頭に過るのも束の間、少女は嘘を言っている様子は見受けられなかった。
嘘と暴力が武器となる貧民街では駆け引きは日常。いかに上手く嘘を信用させるか、もしくは単純な強さが生死を分ける。そんな環境にいれば、嫌でも嘘か本当か位はある程度は分かってしまう。
そして三人はそのまま話の続きを待った。理由は単純、少女が何を成そうとしているのか気になった。ただ、それだけだった。
「だが、幸いなことに私は君たちに出会えた。加速する能力に空間転移能力、そして思考を停止させる能力を有する君たちに!」
その言葉には驚愕せざるを得なかった。
先の攻撃だけで自分たちの能力を当てたと、このときの三人は思い込む他なかった。なぜなら、三人は貧民街の外を知らない。貧民街から出た所に何があるのか、そんなことは考えたことすらなかったのだ。
そして、これは後に聞かされたことだが、少女は元々ある程度自分たちの情報を集めていたとのことだった。その経緯を知って、三人は彼の立ち振る舞いを納得する他なかった。その話をする際、
――ただ、確信したのは戦闘して初めて、だよ。
そんなことを言った少女――いや、私たちのマスターとの約束は単純だった。
「君たちが私について来るならば約束しよう! ――君たちに、夢と浪漫に溢れた未来を……!」
そう言うと少女はこう名乗った。
「自己紹介がまだだったね? 私はレシーテラ=アルフェナム、この世を変革させる――ただの異邦人さ」
はっきり言って、戯言だと思った。
例えどれだけ喧嘩が強くても、そんな大それたことが出来る訳がない。そんなことが出来るのなら、貧民街に立っている訳がない。
言えるのは、繁華街に住む連中だけだと……――当時はそう、思っていた。
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