カーナビの怪談 最後の獲物
ここはどこにでもあるような居酒屋。
今ここには、暗い顔で一人で酒を飲む男がいた。
「今日はどうしたんです?いつもは二人でいらっしゃっていましたが」
「ああ、ちょっとな。実は・・・」
そう話し出したことによると
俺は二人で一組の仕事をしていた。
相棒の名前は知らない、というか無い。
まあ俺たち亡者なんぞ死んだときに名前無くすから仕方ないんだがな。
「なあ相棒、今日はあの車にしないか?」
「おっ、いいねえ。落としちまうか」
獲物を殺す方法はカーナビだ。
カーナビに憑り付いて崖まで案内し、そのままダイブさせるわけだ。
まあ今までざっと三桁はこの方法で殺してきたからな。
今日の獲物もこれで仕留めて見せるぜ!
「んじゃ今日は俺が案内するわ。お前はブレーキのほうを頼むわ」
相棒はそう言って早速カーナビに入っていった。
いいのか?俺は最後のブレーキ操作を不能にするだけだから楽だけど。
逆に向こうは操作に集中して他の事に気が向かなくなるから。
「3百メートル先、左です」
おっ、早速はじめたな?
さて、高みの見物と行きますか。
「五百メートル先、右です」
さて、あと少しだな。
そう考えながらブレーキ操作の準備をしながら、車が左に曲がるのを、
「あれ?」
こいつ、曲がる方を間違えやがった。
やれやれ、相棒も大変だな。
間違えるやつは偶にいるが、結構頭にくるんだよな。
「三百メートル先、斜め右です」
若干硬くなったような声で、イライラ具合がわかる。
ま、ちょっとくらい我慢しろや相棒。
・・・っておい、こいつまた無視しやがった!
何でまっすぐ行くんだよ馬鹿やろうが!
そう思って獲物の顔を見た俺はギョッとした。
こいつ、笑っていやがる。
そして右手でハンドルを握りながら左手には・・・!
「左手に何があったんですか?」
「霊札だよ。俺たちみたいなのを閉じ込めるやつだ」
そういいながら彼は全身を震わせる。
「ありゃだめだ。もしあれがもう一瞬早く発動していたら俺もだめだっただろうな」
「でも閉じ込めるだけでしょう?祓うまでは行かないはずでは?」
「・・・あの道の先に神社があったんだよ。たぶん相棒はもう・・・」
彼はそれだけ言って再び酒をあおる。
いやな客だと思っていましたが、こうなると少し哀れですね。
「・・・知っていますか?お客さんのような存在は縁というものが最も重要なんですよ」
「? それがどうした?」
「あなたのお連れの方、あなたに滅びの呪いを届けるのにちょうどいいとは思いませんか?」
そういって、私は彼の背後の『導火線』に目をやった。
俺は宮司見習い。
今日はここで少し大きなお払いをした。
ただ、その経緯は知らないけど。
「ありがとうございました」
そういって車に乗り込む男を見送りながら、宮司に事の経緯を尋ねる。
「ああ、お前さんは知らなかったか。あの人はこの近くの崖で旦那を殺されたんだよ。幽霊にな」
「はあ・・・?」
「んで、自分を囮にしてここまでそいつを引っ張ってきたのさ。まったくよくやるよ」