ソレ
ソレは異形という言葉を擬人化したような出で立ちだった。
そう、まさしく「異形」。
ソレは直立二足歩行をしていながらヒトならざる雰囲気を醸し出していた。
ソレは何かの肉とガラクタで構成されていた。
肉とガラクタのコントラストがなんとも不気味で、奇妙で、非常に気持ち悪かった。
頭部にはカメラのレンズのようなものがはめ込まれており、胴体部の中心にはポッカリと穴が空いている。
距離は目測で20メートルほどだろうか。
ふと、ソレが足を上げる。
「…なんだ?」
女の子が横たわっていた。
「おい!」
いつの間にか俺は声を上げていた。
「その子に…何するつもりだ!」
間違いない、ソレは女の子を踏み殺そうとしていた。
ソレがレンズをこちらに向ける。
じわりと、背中に嫌な感触。
つー、と生温かい液体が頬を滴り落ちる。
声を上げたことを後悔する。
ソレがこちらに向かって走ってくる。
俺はとっさに落ちていた鉄パイプを持ち、ソレの回し蹴りを防御する。
バギンッ
「は?」
鉄パイプが折れた。
そう気づいた瞬間、時の流れが遅く感じられる。
ソレの回し蹴りは鉄パイプを折った。
ああ、死ぬのかな。
そして、今、尚、俺の脇腹にむかって進んで―――――
メキメキ
左脇腹から割り箸を踏み潰したような音。
遅れて、衝撃。
足の踏ん張りが、効かない。
吹っ飛ばされる。
視界に雲一つない青空、瓦礫、崩れた建物の順に映り込む。永遠に続くのではないかというほど長い時間に感じられた。
またもや、衝撃。
後頭部を強打。
「…ッグ……」
口の中から血の味がする。舌を噛んだのだろう。
ソレはゆっくりとこちらに歩いてくる。
意識が、朦朧とする。
足が震えて立てない。
今自分は相当ひどい顔をしているだろう。
顔を上げるとソレがいた。ソレは嗤っているように見えた。
そして、ソレは自分の左腕を掴み――――ねじ切った。
ぶち、と体に響く音がした。
目だけで音のした場所を見る。
左腕が、無い。
見たくなくても、目がそこへ行ってしまう。
骨だろうか、白いものが見える。
不思議と綺麗だと思った。
自分の腕の断面を綺麗だと思うのはおかしいだろうか。だって、とても紅い。とても命の悲鳴を感じる。
数瞬遅れて、激痛。
痛い、いたい、痛い、イタイいたいイタイいたい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
神経は「痛み」を残酷な程正確に脳に伝達した。
「クッ…ソッ……アァッ…」
朦朧としていた意識を無理矢理に引き戻される。
血が止まらない。
残った右腕で左腕があった場所を抑えながらふと、目を開ける。視界が赤い。
ソレは手を伸ばす、俺を殺すために。まるで生きとし生けるもの全てを呪うように。
その手で何をするのだろう。
首を折るか、それとも、残りの腕を捻じり切るか。
ふと、 その手を|、残った右腕で掴む
そして、掴んだものがチリに還る。
サラサラと崩れる。
ソレは驚いたのだろうか、後ずさる。こちらから、近づく。
ソレの前に手をかざす。ソレは、崩れ去る。
左腕の激痛に耐えながら、その場にしゃがみ込む。
数秒後、意識に靄がかかり―――――――




