地獄
目を開ける。
部屋の隅に置かれたデジタル時計は15:45を表示している。
知らない天井、知らない部屋。
状況が理解できない。
何も思い出せない。
「どこだ…ここ…」
なるほど、自分はこんな声なのだな。
ベッドから起き上がる。
右を見る。
左を見る。
「やっぱり、知らない部屋だな…」
とりあえず情報収集だ。
まずは自分について知らなくては。
クローゼットを開ける、手帳らしき物が落ちてくる。
『乘閲高等学校2年 黒河 綠絽』
自分の通う学校と自分の名前らしい。
「ふーん…」
ふと、クローゼットの中に置いてあった鏡に自分の姿がうつる。
自分は何故か寝巻ではなく、洋服を来ていた。黒のロングパンツに、クリーム色のパーカー。中には白いロング丈Tシャツを着ている。
「なんでこんな格好で寝てんのか…」
まぁ、いい。
一度、外に出てみよう。
部屋を出て、階段を降り、自分の物なのだろうか、緑色のスニーカーを履く。ドアを開けようとドアノブに手を伸ばす。
ガチャ
「…………何だ…これ」
そこに広がるのはさながら地獄のようだった。
人が倒れ、建物は倒壊し、ミサイルでも落とされたとしか思えない。
「ん?」
足元に違和感、ケチャップにまみれたピンク色のチューブのようなものを踏んでいた。ぐにぐにと奇妙な感触だった。
ふと、チューブを目でたどる、すると…
横たわっているヒトの腹から出てきているものだった。
「は?」
これは、腸だ。
ヒトの腸。
それを理解するのに数秒かかった。
とたん、吐き気が襲ってくる。
「ウェエエェエェェエエ!」
胃の中身を全部外に出してやっとの思いで呼吸を整える。整える。整える……
「ハァ、ハア、ハァ」
頭を掻きむしる。
「なんだ?なんなんだよ!」
男は、走っていった。
地獄と化したその惨状を。
「誰かいないのか!」
タチの悪いドッキリにしてもタチが悪すぎる。
ドッキリ大成功のプラカードを持った奴が現れたら顔を拳で殴ってやる。まぁ、そんな程度で済むことなら良いのだが…と考えていると
じゃり、と音。
間違いないこれは足音だ。
全速力で音の元へ向かう。
「おーい!生きてる奴がいるのか?!返事しろよ!」
右足で急ブレーキをかける。
「え?」
それは、人を見つけたから ではない。
ソレを見てしまったからである。