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初めまして、ゲロ豚と申します。
頑張って書きますので、なにかリアクションいただけましたら死ぬほど嬉しいです。
大阪府は淀村町。
すっかり春の陽気がグラウンドを包む、3月の終わり。
この日も天候に恵まれていないわけではなかったが、友渕中学校サッカー部1年生の面々は教室に集められていた。
日曜日の真昼間、太陽も最も高い時間帯である。そんな頃合いのミーティングも珍しいことなら、参加するのが1年生のみというのはあまり記憶にないことだった。
とはいえ、小休止できるというならばそれは願ったり叶ったりなので、わざわざ異を唱える者もなく、顧問が来るまでのひと時を11人は和気あいあいと過ごしていた。
からからから、と力なく音を立て、教室の扉が開かれる。
御年64歳、サッカー部顧問の老久保が現れても、彼らの和んだ空気が引き締まることはない。皆それぞれに、片肘を背もたれに預けたり組んだ両手で後頭部に枕を作ったりと。不二越に至っては足を机に乗せたままの有様で、腰の曲がった顧問を迎え入れる。
しかしその後に見覚えのない美女が続いたことで、教室の空気は一変した。
「どうもぉ」
11人が騒然とする中で、女はお茶目に右手を額に掲げる。
「こらお前たち、色めき立つでない。恥ずかしい」
老久保がしゃがれた声で彼らをなだめる。
しかし、彼らの騒ぎぶりも仕方のないことではあった。淀村町は大阪府の沿岸に位置する人口1万人以下の小さな町である。髪の明るい美女はおろか、若い女を見かけることもあまりない。
老久保に続いてやってきた女は、身長170センチほどのモデル体型、四肢はすらりと伸びていて、髪は見たこともないくらいに輝いている。大阪のド田舎にはまるで不釣り合いなその出で立ちは、性にがめつい男子中学生でなくとも道行く人の目を惹きつける。
「初めまして。竹本萌子と申します。今日は、みなさんと相談したいことがあって来ました」
そう言うと竹本は白いチョークを一本拾い、慣れた手つきで黒板に文字を記していった。
一文字ずつ、やや書き殴るように勢いのよい達筆で文字が書かれるにつれて、彼らの表情は訝しく曇っていった。
『サッカー部の廃部に伴う、現部員の去就について』
ざわざわと、波紋のように11人の間に動揺が漂う。
決して、鵜呑みにしているわけではなかった。が、目の前の女がたとえどういう意図であろうと、センセーショナルな議題であるには違いなかった。
「グチグチと回りくどい言い方はいたしません。きっぱりと、結論から申し上げます。友渕中学校サッカー部は、来年度末――つまり来年の3月、あなたたちが2年生の終わりを迎えるタイミングですね――現顧問、老久保先生の退職をもって廃部となります」
いよいよもって、教室内は力強くどよめいた。
青天の霹靂のような通告である。まるで予想だにしていなかった展開である。むろん、顧問の老久保が来年度末で退職するということは彼らにとっても周知の事実ではあった。けれどもまさか、それに伴ってサッカー部が廃部となるなどとは、誰一人として考えてもいなかった。
11人が11人とも、老久保の後釜にはまた誰か適当な教員がおさまって、サッカー部は依然存続していくものと信じて疑っていなかった。
「ただし、二つ。あなたたちには選択肢があります」
竹本が、ちょうどピースサインのような形で右手を掲げる。
「サッカー部の廃部は、あくまでも顧問が不在となることだけが原因です。なので、そうならないよう、あなたたち自らの手で老久保先生の後任顧問を探し、サッカー部存続の道を拓くか。――あるいは」
老久保の眉間に、力無く皺が寄る。
「私が新設する野球部に、来月11人全員で転部しませんか?」
竹本はまるで屈託のない表情で、なんら悪びれることなく言いのけた。
それに対する、11人の物言わぬ反抗は至極当然であった。まるで整理のついていない頭ではあるが、言いたいことは山のように湧き上がってきている。
まずもって、お前はこの学校の教員なのかと。そして仮に教員で、かつ野球部を新設するなどと宣うならば、お前がサッカー部の後任顧問を引き受ければいいのではないか? それですべて丸く収まる話ではないか。学生にとって、部活を移り歩くというのは一大決心である。この上なく大きな人生の転機である。
それを、もうなにをどうひっくり返しても廃部を避けられない状況であるというならばまだしも、廃部の原因は単なる顧問の不在で、そして目の前には身体の空いている教師が一人。
これで大人しく転部を受け入れろというのは、いささか無理な相談である。少なくともサッカー部の1年生11人にとっては共通の見解である。転部など受け入れてたまるものか。いきなり現れた女教師の言いなりになど、なってやる筋合いはどこにもなかった。顧問の不在が廃部の原因だというならば、学校中、土下座して回ってでも後任顧問を引きずり出してやる。
竹本の身勝手な言い分は、中学生の青い反骨心に火を灯してしまっていた。
第一、今のこのタイミングで11人全員が転部してしまうと、現2年生――来月で最上級生となる彼らは、部員不足で試合に出場することすらままならなくなるのだ。中学3年間の集大成、最後の大会を目前にして、それはあんまりといえばあんまりではないか。
11人にとってはたった1年の絆ではあるが、仮にも世話になった先輩たちである。密度の濃い1年間を、共に過ごした仲間である。そんな彼らを見殺しにできるはずがなかった。
そんな彼らの心情を知ってか、知らずか。
竹本は凛々しい表情で、あくまでもマイペースに話を続けた。
「順を追って、説明いたします」