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最強令嬢、また襲われる


 わたしの元へ、コトゥジッツ村の戦いの詳細が来た。


 義弟のカールと、フリードリヒが戦った。

 互いに三万ほど、今度はこちらが大きく押し込んでの戦場だった。


 緒戦から、我がオーストリアとハンガリー騎兵は、プロシア騎兵を圧倒した。

 以前のフリードリヒなら、ここで逃げていたであろう。


 だが、こいつも学んだようだった。

 両翼の騎兵が潰れ、我軍の騎兵が追撃する。

 かつてなら、その騎兵が戻ってきて敵歩兵の側面を突いて終わり。


 わたしの読んだ軍学書にも、そういった事例は多くある。

 けれど、高火力のマスケット銃を揃えた今の戦場の動きは早い。


「勝てる機会はあったのよね……」

 わたしは報告書を、ぽいっと投げ捨てた。


 僅かに我が方の左翼から騎兵が離れた隙、そこへフリードリヒ率いる21個大隊が斜めに突撃してきた。

 斜線陣ともいう。


 要するに、戦列の端を面で押し潰すのだ。

 戦況は目まぐるしく入れ替わっていたが、オーストリアの歩兵はこの圧力に耐えられなかった。


 カールは、まあまあ良くやった。

 自身も捕らわれることなく、潰走する事もなく、戦域に留まっている。


「はぁ……仕方ないわ。英国大使を呼んでちょうだい」

 シレジアとプラハの北方だけではない。


 オランダ方面にライン流域、それにミラノ。

 フランスとスペインの動きが、活発になってきている。


 小国のプロイセンに構って、この二大国に負ける訳にはいかないのよ。

 にしても……。


「覚えてなさいよ! あの野郎!!」

 結局、奇襲で奪い取られたシレジアの上半分を渡すことになった。


 お父様の喪中の侵略に加え、バイエルンやフランスとの同盟を反故にしての一抜け。

 フリードリヒの人間的評判が落ちたのだけが救いだとはね。


「嘆いてる暇はないわ。これから、フランスとスペインを叩き潰すのよ!」

 わたしの反撃はまだ終わらない。


 ついでに、孤立したザクセン公が速攻で詫びを入れてくる。

 次の皇帝選挙でフランツへの投票と、オーストリアとの同盟で手を打った。


 戦争は、我がハプスブルクが主導権を取り戻していた。


「あ、ついでにエリザヴェータと話を付けておいて。くれぐれもプロイセンの味方なんかしないようにとね」


 ロシア帝国は、アンナ女帝にエリザヴェータ女帝と女君主が続く。

 わたしとしても仲良くしておきたい。


『ま、あの女性蔑視の固まりみたいなフリードリヒと組むなんて、ありえないでしょうけど!』


 プロイセンとは、開戦から一年半で手打ちをした。

 それからの二年は、ハプスブルクが押しまくった。


 戦争下手で婚姻政策の我がオーストリアにしては珍しいことね。


「イタリアは片付いたわ。次はフランス本土よ。ライン川を超えなさい、ロレーヌを取り戻すわ!」


 戦況を見て、英国もオランダもサヴォイアも味方として参戦する。

 英国王のジョージ二世など、大陸派遣軍を直卒してフランス軍を撃破した。


 これで、開戦の時とは逆。

 フランスが包囲される格好となった。


「さーて、久々にのんびりできそうねぇ」

 ウィーン宮廷の面々も明るい。

 即位した時の、若い世間知らずの姫様として扱う者は、もう居ない。


 ただ、夫フランツの影が薄くなってしまったけど……。

『けど待っててね! もうすぐあなたを皇帝にしてあげる!』


 しかし、嫌な奴は何時まで経っても嫌な奴だった。


「陛下! 大変でございます!」と、廷臣が転がり込んでくる。

 もう嫌な予感しかしないけど、一応聞くか。


「なによ」

「プ、プ、プ、プロイセン軍が国境を超えました!」


 第二ラウンドも向こうから。

 それも、またしても奇襲。


『あーあ。落ち着いてた臣下どもが、また慌てだした』

 けれど、流石にこれは『こんな事もあろうかと』とはいかない。


「一応聞くけど、数は?」

「およそ6万。三手に別れ、ボヘミア全域に浸透中とのことです!」


 おおう。

 そりゃまた大軍じゃないの。


「至急、ラインの軍団を呼び戻しなさい。イタリアからもよ。今度こそ、奴の首を取るのよ!!」


 苦境ではあるのだが、不思議とわたしの心は踊る。

 この気持は……殺したいほど憎たらしいってやつね!


 フリードリヒから『王』の称号を取り上げ、選帝侯も剥奪して、ただのブランデンブルク伯爵に戻すまで、わたしの戦いは終わらない。

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