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最強令嬢、恋をする


 まだ『小さなレースル』だった頃、ロレーヌから3人の公子がやってきた。


 上から16歳、15歳、12歳の三兄弟。

 いずれかが、『小さなレースル』の婿になればと期待されていた。


 彼らの母はルイ14世の姪御で、祖母は神聖ローマ皇帝フェルディナント3世の娘。

 さらに祖父のロレーヌ公シャルル5世は、オスマンのウイーン包囲を打ち破った大英雄である。


 シャルル5世は、フランス、オスマンまたフランスと、オーストリアの宿敵と戦い続けた名将。

 来歴も血筋も申し分なく、ウイーン宮廷は大歓迎した。



『うおおおおっ! イケメンが!? 一気に三人も!!』

 もちろん、6歳だったわたしも大歓迎した。

 残念ながら、一番上の兄が天然痘で早逝したが、下の二人は元気に育つ。


 9つ上のフランツが、わたしのお気に入りになった。

 この優しく穏やかで博識、金髪碧眼のプリンスと会う度に、皇女らしからぬ頬の緩みを押さえるのに苦労してしまう。


 早くもフランツとの婚約も決まりかけたが、残念ながらフランツとその弟に軍事の才能はなかった……。

 どちらかに祖父シャルル5世譲りの才幹があれば、あんな奴――フリードリヒ――に恥をかかされることもなかったのに。


 それでも、硝煙臭い貴族というより、学者や教師といった空気をまとうフランツがわたしは大好きだった。


「なにかお話をしてください」

 幼いわたしはフランツにせがむ。


「なら、太陽とその周りの星々、僕たちの大地や火星の話でも……」

「いえ、そういうのではなくて」


「うーん。なら銀行と殖産について……」

「それもちがう」


 綺麗な花や夜会でのダンスか、姫を守る騎士の話で良いのに、フランツ様は妙に現実的だった。


「まあ良いですわ。何でも聞いて差し上げます」

 わたしは譲歩することにした。


 ほっとしたのか、ご自身の興味がある自然科学についてフランツ様が語りだす。

 小さいわたしには難しかったが、お昼寝のお供には丁度良かった。


 その頃のウイーン宮廷は平和だったが、父のカール6世には、わたしを含め王女しか居ない。

 半世紀ぶりの闊達な王子とあって、フランツとカールの兄弟は、父も家臣たちも暖かく受け入れた。


 けれど、ロレーヌは小国。

 ハプスブルク家を乗っ取られる心配はないが、オーストリア・ハンガリー・ボヘミア・ネーデルラント・ミラノやパルマ、十以上の国をまとめる”わたし”の夫としては、心配する者も出てくる。


 そして出てきた対立候補の一人が、プロイセンの王太子フリードリヒ。

 わたしの五つ上で、音楽や文学を好むひ弱な少年。

 軍人王と呼ばれる勇猛な父王から逃げ出して幽閉されるほどだったが、侍従長やオイゲン元帥の評価は何故か高い。


 確かに、プロイセンと婚姻すれば、アドリア海からバルト海まで貫く大帝国になるのだけれど……。

 その他にもバイエルンの公子に、イングランドやスペインの王家、泡沫候補どもが上がっては消える。


『もてる女はつらいわね』

 わたしは幼馴染のフランツ様一筋だと言うのに。


 今、ハプスブルク家にはわたしと妹、王女が二人きり。

 いずれわたしが、ぽんぽん子供を産むとしても頼りない。

 ハプスブルクの家領については、父上がわたしの生まれる前に法を整えた。


 ただし、神聖ローマ帝国の帝位は別。

 父はフランツ様を次代にと考えて色々と手を打ってるけど、諸侯が素直に従うかどうかは微妙なところ。


 けど、心配しないで。

 わたしが必ずあなたを皇帝にしてみせます!


「どうしたの? 僕の顔に何かついてるかい?」

 いけないわ、つい夢中になってフランツ様を見つめてしまった。


「いいえ、ちょっと見惚れてただけですの。ぽっ」

 これで良いはず。

 わたしが世俗的な事を考えてたなんて、フランツ様に知られたくない。


「テレーズはかわいいなあ」

「まあ、いやですわ」


 こうして、わたしは10歳になるまでは、穏やかで平和な日々を過ごしていた。

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