2.いざ、報恩
肩を優しく揺すられ、世紀末ポン助は目を覚ます。窓からは朝日が差し込み、外からは街の人間の声が微かに聞こえる。老婆は心配そうに世紀末ポン助を覗き込んでいる。
「すみません、お見苦しいところを」
身体を起こし、自分の身体を見下ろすと、臙脂色の布が巻き付けられていることに気付く。場所も昨夜の玄関では無く、ゲストルームのような一室に横たわっていた。
「ごめんねえ、布団が無くて。私のベッドでも良かったんだけど、落ちたら危ないから」
「いえ、とんでもないです。ありがとうございました」
世紀末ポン助は慌てて立ち上がり、深々と礼をした。体に巻き付いた布が、少しずり下がる。
老婆は世紀末ポン助の様子を伺っている。顔には年齢を感じさせる皺が刻まれているが、背筋は伸び、活動的な印象を受ける。世紀末ポン助は自らの素性を明らかにすることにしたが、何を話せばよいのか、少しの間逡巡する。
すると、老婆の方から世紀末ポン助に語りかけてきた。
「あなたは、この街の人では無いでしょう」
「ええ、そうです」
「名前は…何でしたっけ?世紀末…」
「ポン助、世紀末ポン助です」
世紀末ポン助は聞き取りやすいように、ゆっくりと大きな声で発声した。老婆は頷きながら「変わった名前ねえ」と、ポケットから取り出した小さいメモ帳にそれを書き込んだ。
「どこから来たの?」
「話せば長くなりますが、とりあえずは2つほど山を越えたところの病院から来ました」
「そう」
老婆は困ったような、驚いたような、複雑な表情を浮かべた。口元には微笑を湛えている。
「細かいことは聞かないわ。よくわからないけど、知ったところで余計に頭がこんがらがりそうだし」
「賢明かと思います」
「あなたが言うのね」
老婆は今度はハッキリと笑みを浮かべ、メモ帳を閉じた。そして、
「本当はもう少しお話したいけど、仕事だから行かなきゃ行けないの。この家は好きに使っていいわ」
と言い残し、そそくさと部屋を後にした。香水の匂いが微かに残る室内に、世紀末ポン助は1人になった。
ここがどこか分からない。天井はくすんだ白、木目調のテーブルが窓際に、床には真っ赤なカーペット。ただ、しばらく使われていないようで、窓の桟には埃がたまっている。
恩を受けた。何か返さなければ。世紀末ポン助は見知らぬその家で、あの老婆の「悩みのタネ」を探すことにした。