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オリエット伯爵の跡取り息子  作者: あだち
第十一章 罪と秘密

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悪事の内訳

「より正確に言うなら、エリックはローズの脅迫まで、あの人のやったことだと認めたわけじゃないけど」


 アレックスは、返事のないセシルに構わず言葉をつづけた。


「ただ、あんたの動向をアランに教え、アランから指示を受けてローズに協力したことは、エリックは認めたよ。身内だから、セシルのことを話しても誓約に反しないしな」

「……じゃあ、叔父さんは、偶然耳にしたダンリールの噂を利用して、アレックスを殺そうと?」


 セシルは、自分の言葉が震えていないことにむしろ驚いた。

 全く考えが及んでいなかったはずなのに、セシルは否定よりも先に、アレックスの言葉を確認するような言葉を口にした。そんな自分の反応にこそ、驚いていた。


「偶然じゃないね」

「どういうこと。応接間で話してたとき、叔父さんは嘘をついていなかったのに」


 アレックスはセシルの疑問に眉一つ動かさない。

 自分が竜の背にしがみついて振り回されていた間か、それよりもっと前から、このことについて考えを巡らせていたのかと思い当たる。思えば、身内の裏切りの可能性を、アレックスはずっと前から示唆していた。


「あんた言ってたろう。妖精は、真実を知っていて嘘に反応するわけじゃないって。アランは、あのとき、嘘はつかなかったが、本当のことも言ったわけじゃなかったんだ」


『ダンリールで悪魔が出た、という噂だ』

『私も取引相手の屋敷できいただけの噂だから、詳しいことはわからない。一応そんな話をしていた若者には、事実かどうかわからないことを広めないようそれとなくごまかしておいたけど、ただ、彼が妙に怯えていてね』


「……噂をしていた、若者から……」


 思い起こされた叔父の言葉を、セシルはうわごとのように呟く。


「きっと、その若者が口にしたことを、あの男が“耳にした”のは事実なんだろう。……これも認めたよ。――エリックが、脅迫者に言われた通りに“噂”を口にしたって」


 元凶に口止めされてからは、一度も漏らしてないらしいけどな。アレックスはそう続けた。


「取引先ってのも微妙な言い回しだな。この家の誰かが、バーティミオン商会を通して売買取引の一つでもしていれば、ここでエリックが口にしたことは、“取引先の若者が話していた内容”って言い換えられるんだから」


 ここにきて、セシルの心臓がどくとくと不快なまでの存在感を放ち始めた。

 胃から喉元までせりあがってくるような緊張に、セシルは息苦しくなってきたのを感じていた。耳鳴りがするのを、ぎゅ、と目を閉じてやり過ごす。


「……そんな、こじつけみたいなこと、通るものかな」


 否定を断定することはできなかった。セシルが落とした問いかけに、アレックスが眉を寄せる。


「このこじつけと、誰かがたまたま仕掛けたクー・シーが、都合よくあのタイミングで現れるの、どっちが無理があると思う? 俺は後者だと思うよ」 


 アレックスの静かな物言いに、セシルも冷静な声音で返す。鼓動とは裏腹に、声だけは、不自然なほどに落ち着き払っていた。


「確かに、クー・シーは妖精の扱いに慣れてる人間が差し向けたかもしれないけど」


 反論しながらも、それまで叔父を疑わなかった根拠が順々に剥がれていくことへ、這い上ってくるような恐怖を感じるのと同時に、奇妙な得心がいくのを、セシルは実感してもいた。

 『否定できる根拠』さえ取り払うことができたら、身内の疑いはずっと濃くなると。


「でもあれは護衛の可能性だってあるし、何より、クー・シーが叔父さんからの差し金なら、あの夜盗は誰が」

「夜盗も叔父からの刺客だよ。ローズの言った通り、アランは公爵夫人が仕損じたときに備えていた。女も一緒に始末するような指示を出されていただろう。獲物である俺たち二人と一緒に、証人もまとめて始末するつもりだったんだ」


 だけど、とアレックスは続けた。セシルは紙のような顔色で、弟の横顔を見つめていた。


「それを、あの人は急いで夜盗の方を始末しないといけなくなった。夜盗が依頼を遂げるより先に」


 ここまできて、ようやくセシルにも脅迫者の、アランの動きの不可解さが解けた。


「……スカーレットが、叔父さんの家から消えたからか」


 さぞ、焦ったことだろう。

 王都から遠い町で、ならず者に旅人一行が襲われた。そんなよくある話に紛れ込ませようとした謀略の最中、標的と懇意にしている一人娘が姿を消したのだから。


「ユニコーンもケルピーも、アランの仕業かもな。ローズが、人ごみを避けて庭に出ることを見越していたかもしれないし、助けに入るのがセシルか俺ならまとめて始末できる可能性もあるし。

 ……ただ、侯爵の襲撃はローズの単独行動だ。あの女の意図に勘づいていようがいなかろうが、脅迫者としては、手綱を取りきれないなら早く始末しないといけない。だから、望ましい形で殺せないならと、手っ取り早く片をつけるために密告したんだ。

 エリックがローズの拘束に動揺を隠せないのも、二人が口を割らないのも見越して」

「……そっか。確かに、スカーレットからも、エデの町にいた商会と関わりのある人からでも、叔父さんは僕たちの旅の顛末を知ることができたんだ」


 それでも、エリックがどうして自分や伯爵相手に口を割らないのかと疑問を提示しかけたところで、セシルは相手が叔父なら、自分とエリックと同じ関係が築けると気が付いた。


「やったこと、きいたこと、一切合切、妖精立会いの誓約で黙らされた?」


 アレックスが目を伏せた。同じ意見のようだった。


 エネクタリアの薬など無くても、記憶の一切を鮮明にとどめていても、裏切りがばれることを恐れていれば、彼らは口をつぐむ。

 ローズは弱みを握られている。

 エリックは遠くにいても妖精で人を殺せる方法を、図らずも目の前で見ている。アランは、エリックの父親がどこにいるかを知っているのだから、脅しようはいくらでもあっただろう。

 誓約が生きている限り、彼ら二人は背後の闇を隠し続けるつもりだったのだ。


 そこでセシルは、違う意味で眉を寄せた。


「……じゃあアレックス、どうやってエリックに聞いたんだよ」


 アレックスはボンボンを摘まんだ指先を擦りながら、しれっと答えた。


「聞いてない。こっちの予想を話して聞かせて、合ってるかって念押ししただけ。弱ってるときは積極的に話せなくても、ろくに嘘なんて吐けないもんだよ。……自分の意思で、墓まで持っていくと決めた嘘でもない限り」


 皮肉にも、エリックにこの真実を認めさせるのは、彼がセシルを裏切るのと同じ方法で成されたのだ。紙片で情報を漏らしたように、問いかけを肯定するか否定するかという形で、アレックスは答え合わせだけしてきたという。


「……それに、あの人はローズとも会ってるだろうし」

「えっ、嘘!?」

「マグノリア王女の、“結婚祝いに相談相手をあてがった”って言葉と、王妃がスカーレットに向かって言った“昨年はローズが世話になった”って言葉からして、王女が結婚祝いに紹介したのはアランだろう。あんたの友人がきいた“コルメルサの”は確かにマグノリアのことを指していただろうけど、正確には“コルメルサの王子妃から紹介された例の客人”てとこじゃないか。……ローズの秘密を握ったのがその時なのかもっと前か、はたまた記憶を失う前のマグノリア王女から何か聞いていたのかまでは、わからないが」


 自分が王妃と共にアレックスの軟禁部屋から出るとき、既に彼の頭にはこの可能性が濃厚になっていたのだと、セシルは気がついた。行動を誰にも言わないほうがいいとは、スカーレットに言うな、アラン・バーティミオンに知られるなという意味だったのだ。


「あのときから、疑い始めてたの?」


 それについては、随分前まで、それこそアレックスが初めてアラン・バーティミオンと顔を合わせたときのことまで、細かく覚えているものだ。

 まるで会ったその時から、すべてを疑ってかかっていたかのようではないか。

 そう思ったセシルの心の声が聞こえていたかのように、アレックスは苦く笑った。


「……最初に違和感を覚えたのは、もっと前だよ。あの人が、キーラの動きを知っていたのに、スカーレットのドレスのことを知らないって言ったから」

「ドレス?」


 少し記憶を遡ってから、セシルの頭でも合点がいった。

 王太子の誕生祝いの夜のことも、エリックは叔父に話したのだ。セシルが妖精を随行させたことを。

 しかし、三人きりの馬車の中での出来事は、エリックは知らなかった。


 こんがらがった赤い糸が、ブルネットの娘の足に絡みついていたことを。


 セシルは呆然とした。あまりのことに、すぐには何も言えそうになかった。

 記憶の中の叔父に、セシルへ向ける悪意の表情はなかった。

 優しい人だと、心を開いていた。きっかけや、根拠があったわけではない。逆に、心を閉じるきっかけも根拠もないから、当然のように信じきっていた。


 推測に過ぎないと否定したくなる気持ちの一方で、理性と経験が追い討ちをかける。

 他に該当者はいないだろう、と。

 誰よりも近かった従者すら、裏切っていただろう、と。


「……疑問が残るとしたら、叔父はどうやってダンリールへの侵入方法を知ったかだけど」


 アレックスの呟きは、セシルに一縷の希望を残すような言葉だった。

 ただ、それはセシル自身の知りえた情報に寄って何の意味もないものとなっていたが。


(……僕の予想どおりなら、その問題も解決できる)


 口には出さなかった。その予想には、まだ確証がないから。


「……すこし、考えさせて」


 加えて、丸ごと認めるのが苦しかったから、だ。


 セシルは、執務机から離れた。

 冷たい結露で濡れたグラスを片手に、部屋の扉へ向かう。


 蝶番がかすかに軋み、重い扉が開く音がした。



 ***



 確かに、違和感を持ったのは、レナード王子の舞踏会の翌日だった。

 でも、本当にマグノリア王女の舞踏会の夜まで、心の片隅の違和感は、アレックスにとって疑いとまではいっていなかったのだ。


『何するにしても本気なら、利用できるものはなんでも利用しなくちゃならない』


 ――なるほど。

 あなたは、自分の理念に従って動いたというわけだったのですね。


「セシル」


 出ていこうとする兄の背中に、アレックスは声をかけた。

 傷ついているのだろうとわかる。自分にとってはほんの数カ月の身内だが、彼にとっては生まれてから今日までずっと“叔父さん”だったのだから。


 けれども、セシルの動揺は、アレックスが予想した通りの反応だ。おそらく、竜は自分との取引のことを話していない。ばれていれば何かしらの反応を最初にするだろう。

 目の前の男からの信用がまだ保たれていることを皮肉に思った。これだとすぐには叔父相手に行動をとることもできないだろう。

 その信じやすさに苛立つ反面、それを都合よく利用しようとするのだから、自分自身に苦笑いが禁じ得なかった。

 アレックスは立ち上がる。自分のするべきことのために。


「着替えて、寝た方がいい。その上着も、見る影もないって感じだから」


 その言葉に、セシルの肩が震えた。よほどショックだったに違いなかった。


「うん、でも、やらなきゃいけないことがあるから」

「裁判に向けてアランのしたことの証拠を探すには、まだ時間はある。領地にいるフレイン公爵が到着して、それから十月裁判だ。ほんの数時間眠るくらい」


 言い募るアレックスは、自分がらしくない態度に出ていることに気が付いていなかった。

 身も心も疲れ切っていたのは、自分も一緒だったのに。

 半開きの扉に手をかけたまま、赤毛の頭が揺れる。緑の瞳が見開かれて、アレックスを射抜く。


「……なんで、そんな僕に眠らせたいの」


 アレックスは、自分の顔から笑みが削げ落ちたのを自覚した。まずい、と思っても後の祭りだった。


「いや、疲れてるだろうって、それだけだけど」

「上着が気になるの?」


 訝し気に、セシルの眉毛が寄せられる。

 アレックスを恐れるように。もしくは、疑うように。

 右手が、薄汚れた上着の胸のあたりを触った。

 それを、アレックスはつい目で追った。


 灰色の視線が何を気にしたのか、気が付いた男の顔が痛むように歪む。


「悪いけど、本当に悪いけどアレックス、僕は、こうするしかなかったんだ」


 その言葉に、アレックスの顔から血の気が引く。

 セシルの左手が、半開きの扉をひく。広がる隙間の向こうに、金色の目の、禍々しい妖精がいた。


 ――傘の妖精は、魔法使いが作ったタペストリーを望んだ。


 セシルの右手が、上着の内側に入っていく。


 ――異常な速さでダンリールを往復した竜は、魔法使いの子孫が作った薬を求めたのか。


 待って、それを渡さないでくれ、そう言いたくて、アレックスは口を開きかけた。

 それよりも早く、妖精がセシルの右手を捕まえた。その手に握られていたものを、奪い取る。

 止める間も、何かを言う間もなかった。


 崖下に落ちていくような絶望感が、黒い髪の男を襲った。



「……ん?」


 しかしアレックスは、そう離れていないところで竜の分霊がセシルの手から奪った物の形が、自分の想像とだいぶ異なることに気が付いた。


「……え?」


 あくどい笑みで獲物を直視した竜も、見開いた目はそのままに、間の抜けた声を出した。


 ただ、セシルだけが違った。大きな傷をその身に負ったかのように痛々しく歪めた顔の前で両手を合わせ、アレックスに向き直った。


「ごめん! こいつに言うこと聞かせるのに、僕この絵を対価にするって言っちゃったんだよ、他にこいつが欲しがるもの、なんも思いつかなくてっ!」


 謝られても、アレックスは唖然としてすぐには何も返せなかった。

 てっきり、今竜に明け渡されるものは透明の酒が入った小瓶だと思っていた。

 しかし、呆然として、「え、なにこれ、は?」と視線を彷徨わせる少年姿の竜が持つのは、小さなキャンバスである。


「ふ、複製をつくってから引き渡そうかとも思ったんだけど、話してるうちにすっかり忘れて扉あけちゃって、そしたらこいつとばっちり目が合ったもんだからもう逃げようもなくって!」


 わんわんと騒ぎ始めたセシルに、竜の分霊が噛みついた。


「おい、どういうことだ! 俺が要求したのはこんなわけわからん女の絵じゃないぞ!?」


 セシルは、きっとまなじりを吊り上げて腰にしがみつく妖精に応戦した。


「了承したじゃん、竜の間にあった絵と引き換えでいいって! これがまさしくそれだよ!」


 いらないならアレックスに返すから放棄しろと迫るセシルに、少年妖精が真っ白な顔でぽかんと口を開けて固まった。


「……さ、詐欺師……」

「詐欺じゃないだろっ! ……あ、アレックス、ごめん、君の了承こそ必要だった、お母さんの形見だもんな」


 アレックスは口を半開きにしたまま、セシルの方に伸ばしたままだった己の右手を静かに下ろした。形見って、別に死んだとも決まってないんだがと、ぼんやり思いながら乾いた声で吐き捨てる。


「…………別に、勝手にすれば……もともと俺の持ち物じゃないし……」


 アレックスの投げやりな言葉の様子に、セシルは顔色をますます青くする。整えられていない赤毛に両手を差し込んでそのまま掻きむしる。


「ああああ、あ!! そうだアレックス、この絵を見ながらの複製は作れないけど、アレックス自身がモデルになってこんな感じのポーズ取れば、そっくりの複製画になるんじゃない!?」


 焦って捲し立てたセシルに対し、アレックスは呆れ返る。

 ばかじゃなかろうか。


「それなら鏡見てれば用がすむだろ、なおさらいらねぇよ」


 脱力感に塗れた言葉を最後に、アレックスはセシルの横をすり抜け廊下に出た。

 確かに、別の状況だったら、母の姿絵が取引材料になったことは少なからずショックだったかもしれない。

 しかし、エネクタリアの酒かと思い込んでいたアレックスからしたら、拍子抜けも甚だしかった。――確かに、母を思いおこさせる数少ない物だから、後ろ髪が全く引かれないとも言い切れないが。


(まぁ、伯爵が王太子に嘘を吐いた証拠になりえる物証でもあるし、このまま永遠に失われた方がいいんかな)


 永遠に失われる、と思ってしまえば、わずかばかりの寂寥感に襲われた。

 しかし、我を取り戻した竜の分霊を相手に背後で繰り広げられる口論を耳にして、アレックスは固まった。


「うるさいっ、タペストリーはあげないよ! そんな約束してないし、こっちがそうそう渡すわけないでしょ!!」


 タペストリー。

 アレックスは、再び血の気が引いていくのを感じた。わずかに逡巡したが、一旦はそ知らぬ顔で立ち去ろうと決め、足を前に踏み出す。


「アレックス」


 はっと気が付くと、目の前に毎度のピクシーが佇んでいた。金色の大きな目が、きょとんと見上げてくる。

 鼓動が大きく脈打ったが、ばれているはずがないと言い聞かせ、妖精を避けて立ち去ろうとした。

 しかし。


「あれっ!?」


 背後で上がった驚愕の声に、アレックスの足が再び止まった。立ち止まるべきではないのに。


「あ、あああアレックス、タペストリーって、どこにあるか知ってる!?」


 アレックスは背を向けたまま、すばやく二度瞬きをした。自分を落ち着かせて、いつもの顔をつくるためである。

 振り向いて、呆れかえったような顔をする。


「いや? 知らないけど」


 この日、アレックスは本当に身も心も疲れ切って、いっぱいいっぱいだった。


「え、嘘つき」


 妖精の目の前で、セシルに嘘をついてしまったのだから。

 青ざめた顔に並ぶ、若草の目が、みるみる見開かれる。

 灰色の目の男も、決定的な過ちを自覚した。




 逃走者が床を蹴るより、追っ手が飛び掛かる方が早かった。


「どういうことーーーっ!?」

「痛、いったいやめろばかっ! んだよさっきまでしおらしく謝ってたくせに!!」

「僕が頭フル回転させて守り切ったタペストリー、おまえどこにやったんだよーーーっ!」

「うるさい耳元で騒ぐなっ! こっちだってわざとじゃな、いったぁぁ!!」


 仰向けに倒された弟の腹に馬乗りになって、掴み上げた胸倉をゆする兄を、駆けつけた使用人たちが目を白黒させて引き離すまで、セシルの慟哭のような尋問は続いた。

 それでも、使用人に抑えられるセシルの怒りに思うところのあったアレックスが、床に座り込んだまま項垂れて白状する。

 萎れるアレックスの告解に、怒り収まらない様子で暴れていたセシルが「……え、傘の妖精?」と瞬きと共に当惑を示した時だった。


「傘の妖精? ああ、前にセシルがキーラのコインをダシに取引したオーレルゲイエでしょ。セシルのしたことなのにキーラのことすっごい怒って、もう人間とは取引しないとか喚いてた。勝手にすればぁって感じだよね」


「……」

「……」


 居合わせた使用人たちは、数秒の沈黙の後、今度は兄に掴みかかろうとする弟を総力で押しとどめなくてはならなくなった。




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