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オリエット伯爵の跡取り息子  作者: あだち
第九章 渦巻く思惑動き出す夜
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親たちの懸念

 暗い庭の、小さな東屋で聞いた言葉がセシルの中で蘇る。


『探られたくないことがあるのはお互い様だと思いますよ』


 探られたくなかったのは、彼の一族が、世間はおろか、数少ない同胞にも真実を隠された魔法使いの子孫であるということだというのか。


 すぐには信じられなかった。伯爵家に伝わる資料で、父の教えの中で、エスカティード家もフレイン公爵の存在も、まったく出てきていない。

 しかし、そうだと仮定すれば、今日目の当たりにしたヘンリックの不自然さは簡単に片づけられる。


「……それから、」


 アレックスが再び何か言おうとしたとき、セシルの腕を強く引いた力があった。ひどく憔悴していた筈の王妃が、鬼気迫る顔でセシルの二の腕を掴んで引き寄せたのだ。


「お引き取りくださいセシル殿。ローズのしたことに対する保証は、追ってヴィレイ卿を通して伝えます。……でも、今日知ったことを他言することは、私の名誉、命にかけても許しません!」

「お、王妃様!?」

「な、なに言ってっ……」


 力任せに引っ張られ、セシルは血の気が引いた。ヴィレイ侯爵家ことエネクタリア家が出張るとなると、セシルの記憶もアレックスの記憶も吹っ飛ばされるとしか考えられなかった。さながら、マグノリアのように。

 慌てて王妃を説得しようとセシルとアレックスが相手の細い手をほどこうとした、その時だった。


「王妃様、いらっしゃいますかっ? リディアでございます……っ!」


 扉の向こうから、ノック音に重なるように女の切羽詰まった声がした。

 何事かと目を白黒させる兄弟を尻目に、王妃がすぐさま「入りなさいっ」と命じる。部屋の扉が外から開けられ、年老いたひとりの侍女が姿を現した。

 セシルはあっ、と思った。青ざめたその女は、公の場では常にローズの背後に控えている侍女だった。

 開けられた扉の向こう、侍女の背後に貴族然とした男の戸惑った顔が見えたが、侍女は構わず、ころげるように王妃に近づいた。


「リディア、なぜここに……ローズはいたの!?」

「へ、陛下……ローズ様なのですが……」


 王妃の後ろにいる兄弟に目もくれず、侍女はあえぐように切れ切れに言葉を発した。


「やはり公爵家にも帰っておらず、さりとて王宮中どこを探しても見つからなくて……どういうことなんでしょうこんな時に、まさか、姫様は誰かにさらわれたのでは……」

「落ち着きなさい、……こんな時とは?」


 自分よりも慌てている女の登場に、王妃は冷静さを取り戻していた。侍女が呼吸を整えようと肩を上下させる。


「それが、ヴィレイ侯爵がお倒れになっていたようで……あ、アレックス! おまえ、ローズ様を裏切って伯爵家で知らんぷりしてたくせに、今さらこんなところで何をっ」


 話途中で侍女は王妃の背後にアレックスを見つけ眉をはね上げたが、王妃は侍女の言葉に青ざめ、セシルを捕まえる手にもいっそう力をこめた。ひどく緊張しているかのように。

 セシルが王妃の手に「いた、痛い」と小さく唸り、アレックスがリディアを「こんなところにいたくている訳じゃないけど?」とあしらおうとする中に、「失礼いたします」と入ってきた男がいた。


「王妃様、彼女を案内しましたのは私でございます。リディア殿が王妃様の侍女に、急ぎだと詰め寄っていたので……その、赤毛の若君は……」

「……セシル・ロッドフォードと申します」


 セシルは、今度は目の前の男がフィックマロー子爵本人であるとちゃんと気が付いたが、相手はわからなかったようだ。仕方ない、おそらくアルター子爵だってセシル単体と会っていたら同じ反応をしたはず。いつものことだった。


「オリエット卿のご子息? なぜ面会をお許しに? 先程のレナード殿下といい、甘すぎでは……いえ、それより王妃様に詳しくお伝えしたいことがございます」

「……ヴィレイ侯爵のことですか」


 セシルが見つめる王妃の横顔は、一見いつもどおりのすまし顔のように見えた。しかし、己の二の腕を放した手がかすかに震えていたのをセシルは感じ取っていた。


「……陛下、ここでは何ですので、場所を」

「いいえ」


 子爵はすぐさま提案を却下されて驚いたような顔をした。


「ここで大丈夫です。リディアは私の部屋に戻っていなさい」


 アレックスに何か言いたげな顔をさっと隠して、リディアは王妃の言葉に従った。閉め切られた部屋で、細面の子爵はセシルとアレックスの顔を順々に見ては気まずそうな顔をしたが、王妃に急かされて口を開いた。


「……侯爵は表向き過労で倒れたとして発表しますが、彼は先程会議の間中常に上の空でした。会議後も用があると言って随分足早に去っていったのです。その後、卿は西の塔につながる通路で、腹を刺されて倒れていたのをヴィオラ様の侍女が見つけたようです。傷口からして、侯爵を襲った得物は、何か槍のような、鋭い円錐形をしていると」


 その場にいた全員が息を呑んだ。「こ、侯爵の容体は……?」と王妃が訊ねる。


「応急処置がされていたのもあり、命に別状はないとの話で。ただ、意識があるにもかかわらず、侯爵自身から事情を聞くのは難しそうです。様子からしてどうも……酒を、飲まされているようなので」


 酒、と言った時、またも子爵は兄弟の方をちらりと見やった。わざと伏せるような物言いだったが、セシルにはそれが大広間でふるまわれた透明な酒だと分かった。気遣い無用だと伝える意図も含めて、「では、誰に襲われたのか、何も覚えていないのですか」と訊いた。


「……お父上からきいたか、アルター子爵が漏らしましたかな。如何にも、そのとおり」

「ビクトール殿。王宮内ということは、彼を襲ったのは出席者の誰かということですか。レナードはなんと」

「陛下、あの酒はすべての記憶に働きかけるのではなく、ごく限定的な記憶を忘却させる類だとはご存知でしょう。何を忘れさせるか、調節方法は生成した侯爵とごく身近なご家族だけがご存じのはずです」


 王妃は子爵の言葉に視線を下げた。右手で持つ扇を、左手でも握りしめる。


「……つまり、襲撃者は侯爵のご家族のどなたか、とお考えでいるわけですね。レナードや王も?」


 王妃の低い声に、子爵が声もなく頷いた。


「そう……わかりました。私が言うまでもありませんが、エネクタリア家への聞き取りは慎重に。応急処置をして去ったのなら、殺すことが目的ではないのでしょう」


 王妃は他にも指示を伝えると、フィックマロー子爵に退出を命じた。

 子爵は頭を下げたが、何か言いたそうにセシルの方を見た。


「……お気になさらず。セシル殿の面会は、……私が許可を出したのです。マグノリア殿に頼んで、連れてきてもらって」


 子爵が「さようでございますか」とどこか不満げに引き下がる。


「お下がりなさって、ビクトール殿。会議の内容とは別に、ご兄弟に少し、私から言うことがありますので」


 王妃が、言外に「銃のことについて、この二人を叱ります」とにおわせると、子爵は大人しく扉の向こうに消えていった。扉が閉まったのを確認し、王妃は「セシル殿」と静かな声で言った。


「先程の、お二人から出た根拠のない不躾な物言いを、すべて不問といたします。……ヴィレイ卿はとても調薬どころではないでしょうし」


 セシルはごくりとつばを嚥下した。ありがとうございます、とこのまま帰らせてもらえないのは明らかだった。そして、やはりヴィレイ侯爵に何らかの薬を作らせるつもりだったのだと改めて肝が冷えた。


「……ただ、それと引き換えに」


 王妃の声は続いた。言葉こそ支配者から被支配者へ向けるものだったが、声音には懇願が込められていた。


「……ローズを、捕まえてきてください。これ以上、誰かを傷つけてしまう前に。……おこがましいことと知りながら言いますが、できれば、秘密裏に」


 セシルはもう一度扉の方を確認してから、もしやと王妃に問いかけた。


「ヴィレイ侯爵の件、公爵夫人がやったとお考えなんですか?」


 王妃は何も言わなかった。


「なぜです。エネクタリア家に関わる方のなさりようだと、ご自身で。……彼の家のどなたかが、公爵夫人に方法を教えたとでも?」


 であれば、秘密裏にローズを捕まえても、協力者から話は漏れるだろうと思われた。


「エネクタリア家の協力者が、夫人を匿っているのかも」


 セシルの言葉に、王妃は首を振った。迷いのない反応だった。


「おそらく、エネクタリア家から犯人やその仲間は出てこないでしょう。子爵に言ったことは、時間稼ぎに過ぎません」

「……なんで、あの方だと」

「……なぜ、あの子が消えたこのタイミングで、疑わずにいられまして?」


 暗い瞳の王妃は、ダンリールの森でのローズを思わせた。セシルが言葉を続ける。


「……あの方は、僕たちへの襲撃をおひとりで計画したのではないと思われます。誰と共謀しているのか、もしくは、なぜ僕たちを殺そうとしたのか、お心当たりはございませんか」


 王妃は乱れた髪をなでて直した。背筋こそしゃんと伸びているが、その顔は青く、目からは光が失われていた。部屋に入ってきたときの威厳は跡形もないと言っていい有様だった。


「今は、あなた方を襲った理由も、共謀した人間もわかりません。あの子が限られた人間以外に、いったい誰とつながるというのか、私からすれば誰もいないとしか言えなくて。……結婚した後だとしたら、公爵やヘンリック殿という新たな繋がりは出来たといえますが……」

「……いいえ、共謀したのが公爵家の人間だとは思いません。やったとしても、留守を誤魔化すくらいでしょう。……愛人宅に行くとか何か、人に言えない用事のふりをすれば、使用人は口外しないでしょうし」


 アレックスが口をはさんだ。王妃とセシルが目を向ける。


「フレイン公爵家にとって、オリエット伯爵家がどれ程のものなのか、潰したところでうまみがあると思えません。また一族一丸となって、もしくは身内の数人で結託しているなら、適当な理由をつけて俺達を屋敷に招待してことをなした方が楽なのに、そうしなかったのは家人に知られたくないからでしょう。公爵家の中でも、ローズ……様はおそらく一人で動いているのでは」


 灰色の目がセシルの方に移る。


「……それと、思うんだが、共謀者との関係は最初から()()なんて対等なもんじゃないんじゃないか? そもそもおかしかった。誰が協力しているとしても、なんで高位貴族のローズ本人が動いてんのか。ローズから俺への殺意はものすごく直情的なのに、罪を第三者に擦り付けようとしてたあたりはいやに理性的だった。そして、そこまで自分の手でやったのに、最終的には殺し屋を使った」


 協力者なんかいない。その言葉はセシルの思考を大きく揺らがした。

 しかしアレックスは、単独での謀と言いたいわけではなかった。


「……あんたを陥れた目的は、罪を擦り付けることそのものじゃなくて、そこにローズ以外の人間の思惑が絡んでたからじゃないのか。あの女と共謀者の思惑はずれてる、なのにローズだけが実行犯になった。――仲間内で動くのに一人だけが割りを食うのは、身分差があるか、借りがあるか、……脅されてるか、要は逆らえない状態ってことじゃないか?」


 何を言っているのか。セシルはここにきて頭が混乱してきた。


 エリックに指示を出し、ローズにダンリール侵入の方法を教え、銃まで用意して、――二人の罪が被害者であるセシルとアレックスにはばれているのに、一向に浮き上がってこない“協力者”は、最初からほかの二人と同じ立場ではなかったという。

 エリックはともかく、王女で公爵夫人のローズに口止めして、手先のように使える立場の人間はごくわずかだ。それこそ、国王か王妃かということになってしまう。

 だが、借りも脅しも、ローズに外部との人間関係が必要となる。それが出てこないのだ。


 だが現実にローズは、一人で城に入りこみ、男二人を罠にはめるという無茶を冒した。計画外とはいえ、自身も死にかけた。彼女に選択肢はなく、そこまでするより他なかったのだとしたら。


 セシルは、自分がらしくないことをしたときのことを思い出した。父に黙って王太子のために働いたのは、ローズへの恋心が下敷きにあったが、引き金はローズとの可能性を潰されることへの危機感だった。


 他人の命を、人生を奪うことを決意できる引き金は、同じだけのなにかを失う危機感ではないのか。


(……でも、アレックスへの執着は?)


 違う。

 セシルの思考は坂道を転がるように駆け足で進む。

 すべての犯行が脅迫者の目的につながっていたわけでは無い。そこには確かにローズの意志も重なっていた、と。


 ローズの望みはアレックス殺し、脅迫者の望みはアレックス殺しに加え、セシルに罪を擦り付けること。

 その結果は――。


 セシル、と、アレックスの呼びかけに緑の瞳が視線をあげた。


「今後動くときは、誰にも何も言わない方がいい。エリックは暫く動けないが、エリック同様、悪意の手先は近くにいる」

「……アレックス、きみ」

「……俺は今夜ここから動けない、とにかく先にローズを捕まえた方がいい。脅迫者が、再びローズに接触する前に」


 アレックスは何かに勘づいている。ただ、王妃の手前、明言することをためらっている。

 セシルは聞き出そうとした。ローズを“脅した人間”が誰なのか、ヒントでもいいから共有したかった。 

 しかし、王妃が再びセシルの腕を引いた。ローズ確保のために動いてくれと急かす。


「セシル殿、私と共に外へ。子爵から話を聞いて、今にもレナードとあなたのお父上が文句を言いにのりこんでくるかもしれません」


 王妃の言葉に、アレックスも後押しするように、――もしくは追い払うようにセシルに手を振った。

 何を突然、そんな邪魔そうに、とわずかに不満げな顔になっているのを自覚しながら、セシルは王妃について扉へ向かう。


「……セシル」


 だが、呼び掛けにはすぐに振り返った。なに、と促すより早く、アレックスの口が動いた。


「悪かった……ありがとな、」


 その先は声にならず、口だけ動いた。


 セシルは目を見開いた。

 王妃に引きずられるように部屋を出て、青灰色の瞳が扉の向こうに消えても、驚きで声が出なかった。


 あの口の動き、あれは。


(………………兄さんって言ってた?)



 ***



 揺れる青いドレスの後ろについて西の塔に向かいながら、セシルは呆然としていた。王妃が小さく「あの子は足を痛めています、そうそう素早く動けないはずです」と言うまで、思考は固まったままだった。

 いけない、と頭を切り替える。


 ローズの『協力者』は『脅迫者』だったのか。それは誰なのか。

 なぜローズはその人物に唯々諾々と従ったのか。その気になれば強権で握りつぶすこともできる家に生まれながら、誰にも助けを求めなかったのは何故か。


 今夜、ヴィレイ侯爵を襲ったのは、本当にローズなのか。薬の侯爵を痛め付けて殺さない、その理由は。


 母親から隠そうとしてまで面倒を見たアレックスを、人目を忍んで自らの手で殺したがった理由は。

 それに引き換え二度までも、なぜセシルの命を助けたのか。夜盗をけしかけておきながら。


 それから。


(……ユニコーンが、あの人を襲わなかった)


 ローズが、公爵と真の意味で夫婦ではないことと、何か関係はあるのだろうか。


 年のせいだというのか。だとしたら、公爵やその息子が隠された魔法使いの一族であることとは、本当に偶然か。

 ダンリールの竜について書き残した彼らは、その後何の力を受け継ぎ、何故同じ魔法使いの子孫にすら秘密とされたのか。『眠る月』の記述から、少なくとも妖精交渉の力は持たないとだけ、推測できる。


(マグノリア様は、何か知っていたのだろうか)


  皮肉にも、彼女が全て忘れさせられているということが、彼女の無実を裏付けている。


(………………というか、ローズ様って)


 そこでセシルは咄嗟に自分の頬を強く叩いた。乾いた音に王妃が振り向く。


「どうかしましたか、セシル殿」

「……眠気覚ましです!」


 自分の浅ましい想像を追い払うためとは、言えなかった。

 自分が若い男であることが、恨めしかった。



 ***



 セシルは、人生の邪魔者を排除する最も好都合な機会をふいにした。

 おろかだ。レナードもきっとそう思ったはずだ。


 そういう男なのだ。


(……そういう『兄』なんだ)


 アレックスはどさりと肘掛け椅子に体を沈めた。

 部屋のなかでは、王妃とセシルが出ていったのを合図に再び三人の見張りが入ってきていた。

 話しかける気も起きず、また話しかけてもこない三対の視線を一旦忘れようと、アレックスは目を閉じる。


『……そろそろお支払いいただかないと、待ちきれなくなってきたな』


 セシルたちが入室してくる前。

 衛兵の耳にも目にも届かず、アレックスにだけ向けられた、窓の外から覗きこんできた金色の月の瞳。

 込み上げてくる焦燥感を無視して、アレックスは目を開けた。


 ――取り上げられた銃は、いつ返されるのだろう。

 フレイン公爵家の、隠れ魔法使いの紋章が施された、金のバラの銃。竜の弱点は、もしもの手段でもあり、お守りでもあった。


 しかし、アレックスの重苦しい思考は、部屋の扉がノックもなく開かれたことで霧散した。


「母上、面会許可とはどういうことですか! 全くきいていないのですが、結論ありきの会議を押し切った私にもそれを呑んだほかの当主にも、立場というものが、……」

「セシル!! おまえ、おまえという愚息は、ありとあらゆることを引っ掻き回して心配させないと気が済まな、……」


 怒声と共に乱入したのはレナードと伯爵アルバートだった。

 が、二人が部屋の中の様子を視認するやいなや、けたたましい文句はプツリと途絶えた。二人の拍子抜けした顔に、先に我に帰ったアレックスは椅子から立ち上がって会釈した。


「セシルなら、……王妃様に連れられて帰りました」

「……そうか。邪魔したね」


 レナードが部屋を見回し、嘆息して部屋から出ていこうとする。しかし、伯爵はその場から動かなかった。


 アレックスが、なにか用か? という顔で相手の渋い顔を見つめる。帰らないのかと純粋に疑問だった。

 レナードも伯爵の様子に気が付いたかのようにその横顔を見つめた。

 しかしすぐに、その灰色の目がひたと王太子に向けられる。


「殿下、少し、息子と二人きりにしてくださいませんか」


 レナードの金色の眉毛がぴくりと動く。アレックスも怪訝な顔をした。


「……アルバート、侯爵の一件もある。立場もそうだが、時間なんて、もっと無いのだが?」


 レナードの声は冷ややかで苛立ちを含んでいたが、伯爵は引かなかった。


「身勝手かつ不遜な申し出であるとは、十分承知しております。ですがこの愚息に、伝えておきたいことがあるのです。……彼と、私の出生に関わることについて」


 アレックスは予想外の言葉に身を固くした。

 自分の出生に関わることとは、嫌な予感しかしない。が。


(……伯爵の、出生?)


 レナードはその言葉にわずかに目を見張った後、しばらく考え、「貸しだよ」と言って見張りの兵に手で合図した。忠実な兵たちは部屋を出たり入ったりの指示に嫌な顔ひとつ見せずに従った。


 残された二人のうち、先に口を開いたのは父親の方だった。


「……セシルには言うな」


 妖精にも知られたくないと、男は前置きした。



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