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オリエット伯爵の跡取り息子  作者: あだち
第三章 過去への旅路
17/109

兄弟旅行(思い出話)

 自分が何者であるかを決めるのは、他人である。

 真実を知るまでは、知らないままならばいつまでも、自分にとってもそれが真実の自分である。


 ***


 既に昼を過ぎていた。セシルは修道院内に作られた小さな礼拝堂の中で、祭壇に掲げられた十字の飾りと神の偶像を眺めながら、ここで見切りをつけてダンリールに向かうべきかと思い始めていた。

 あのあと、修道院長レイバンの態度は目に見えて頑なとなり、アルと呼ばれた少年のことはおろか、修道院そのものについてさえ聞き出せなくなった。そのうち、用があると言ってレイバンは足早に去り、セシルも応接室から追い出されてしまったのだ。


(……修道院長は認めないけど、この修道院に悪魔憑きと言われていた子どもが最近いたことは確かだ)


 それがアレックスの過去の呼び名と思われる『アル』のことなのかは、分からずじまいだ。

 無駄足だったと肩を落とす自分がいる一方で、これでよかったのかもしれないとも思えた。いかに憎たらしかろうと、他人の過去を暴くようなやり方は、セシルにはどうにも後ろめたかった。


「……悪魔憑き、ねぇ……」


 確証がないだけで、それはアレックスのことだったのではないかと思っている。世間で魔法がおとぎ話に埋もれるまでの間、魔法使いとその力は悪魔憑きと悪魔の力と考えられていたからだ。

 迫害が過去になった今とはいえ、生まれつき妖精が見えていたであろうアレックスが、ここで悪魔憑きと見られていたとしてもなんら不思議はない。セシルの母アンナが、キーラの悪戯を『幽霊騒ぎ』と言うのと同じように。


 でも、それだけだ。


 セシルは人の気配のない礼拝堂で、天井に向かって息を吐いた。

 ここでアレックスが例えば変わり者のように思われていたとしても、それは特段アレックスの致命傷になどならない。もしかしたら、もっと親しくなったころに面と向かって聞けば、本人から思い出話として聞くこともできたかもしれないような内容だ。そう思うとセシルはどっと疲労感に襲われた。


(でも、今アレックスに聞いても絶対何も教えてもらえなかったろうし)


 そうなるとセシルはこの旅の間ずっともやもやとした考えに取りつかれることになったわけだから、大した話でないという事実そのものが分かって良かったと言うべきなのだ。


 セシルは今いる礼拝堂とさっきまでいた本館をつなぐ渡り廊下を何の気なしに見た。すると、畑の広がる中庭を分断するように造られたそこに、庭の先をじっと見つめる若い女性の姿があった。

 尼僧とは明らかに異なる薄い生地でできた白いドレスにそよそよとゆれる長い黒髪で、およそ修道院には似つかわしくない艶めかしい微笑を浮かべている。尖った耳がちらりと見えて、こんなところまで妖精が入り込んでいることに呆れた。全然『悪魔祓い』できていない。

 セシルは少し考えて、彼女に近づくことにした。いたずら好きのピクシー程度なら放っておくが、今欄干に凭れているのは、気に入った若い男を誘惑し、芸術の才能と引き換えにその精気を吸い取り命まで奪う妖精リャナンシーだったからだ。


(こんな田舎に……目当ての若い修道士でもいるのか?)


 言葉通り人を食い物にする妖精は、獲物となった人間には魔法使いの血筋に関係なく姿を現す。

 自分の目と鼻の先でリャナンシーの犠牲者を出すわけにもいかない。セシルはアーチが影を落とす廊下を小走りで進む。

 予想した通り、妖精の視線の先には十歳前後の子どもたちとともに畑を耕す若い修道士の姿があった。くすんだ茶髪は乾燥しているように見えたが、なるほど女妖精が眺めるに足る整った顔立ちと言えなくもなかった。修道士は、こちらの様子は一切意に介していないかのように一心に鍬をふるっていた。


「……あの、ここはあなたのいるべきところではないかと、思いますよ」


 セシルは周囲に聞かれないよう小さな声で話しかけた。この手の女妖精は、獲物になった男を振り向かせるまでは相手に従順だが、それ以外では気まぐれで気位が高い。思わず下手に出るような声掛けをしてしまった。

 妖精は大きく見開かれた金の瞳をセシルに向けた。


「驚いた。私に話しかける人がまだいたなんて」


 鈴を転がすような声で笑いながらそう言った。王宮でも似たような言葉を聞いたなと、微かにセシルも笑った。


「あなたに話しかける人がいないかのような口ぶりですね? あの修道士はまだあなたの姿が見えないのですか」


 セシルは僅かに安堵した。リャナンシーが誰とも話していないということは、獲物の男が近くにいないということだ。


「別に、私たちだっていつも男あさりばっかりしてるわけじゃないのよ。たまには、実らなかった苦い恋を思い出したりする時間もあるの。あの程度の男じゃ、なかなか塗り替えられない失恋よ」


 セシルより頭半分小さい妖精は癖のない黒髪をかきあげてそう言った。楽しそうに失恋を話すが、きっと嘘ではないのだ。人間とは異なる独特な感性であるだけで。

 それを聞いたセシルは口をつぐんだ。彼女に悲しみの色は見えないが、セシルもまた、『苦い恋』に心当たりがあったからだ。

 しかし、人の気配の少ない建物とはいえ、ここで妖精とお互いの恋の顛末を語りあうつもりはなかった。この妖精が今、特に誰のことも狙っていないならそれでいいと思い、踵を返そうとした。


「お客様だ!」


 うす暗い礼拝堂に戻ろうとしたセシルの耳に甲高い声が届いた。

 振り返れば、先程の修道士と子どもたちがセシルの姿に気が付いたのだとわかった。リャナンシーの言う通り、セシルは修道士の視線が隣の美女に向かわないのを確認した。やはり見えていないようだ。


「お、お邪魔しています……」


 素っ気なく去るのも気が引けて、セシルは中庭に降りた。見慣れない客人に駆けだして群がろうとする子どもたちを若い修道士が窘める。


「このような辺鄙なところにようこそおいでくださいました」


 農作物を踏まないよう畑を進んでいくと、向こうも逸る子どもたちと共に近づいてきて、丁寧に挨拶をしてきた。


「旅の道で聞いたもので。ここは身寄りのない子供や親と離れている子どもを受け入れているそうですね」


 レイバンに先程聞いたことを話せば、日焼けした修道士も破顔して答えた。


「ええ、開院当初からそういう理念で活動を続けているところですから。私はつい二年ほど前に来たのですが、何年か前には養育費用もかつかつで、そこら中雨漏りもしていたそうです。そこに、修道院長の理念に共感してくださる方からの助けもあったそうで、今は随分安定した運営ができているんです」

「あ、そうですかー」


(意外だな。王家からの寄付にも波があるのかな)


「……はぁ」


 セシルがどう切り上げようかと考えながらへらへら答えていると、背後で先程の妖精がため息をついたのが分かった。


「?」


 振り返って金色の瞳を見る。長い黒髪の妖精は切なげに遠くを見て欄干に頬杖をついていた。


「どうかしましたか?」

「あ、いえ」


 修道士に不思議そうに聞かれてセシルは慌てて誤魔化した。


「そういえば、ここは悪魔祓いを行うこともできるんだとか。修道院長からお聞きしましたよ」


 セシルはもののついでのように目の前の修道士から何か出てこないかと尋ねてみた。2年前に来たという彼の知っていることに、期待はしていなかったが。


「ああ、大昔の話だと、私も聞いたことがあります」


 やはり。そう思ったところで、思わぬ方向から声が上がった。


「でも、アルの悪魔はロナルド様にも追い払えなかったよ」


 セシルは思わず自分の肩にも届かない身長の少年の顔を見た。


「アルって……」


 セシルがさらに聞こうとしたところで、別の少年が口を挟んだ。最初に発言した子供より背が高く、この中では一番年嵩だとわかった。


「レオ、アル兄ちゃんのことは言っちゃいけないんだぞ。ロナルド様に怒られるぞ」


 騒々しかった子どもたちが一瞬で口をつぐんだ。何人かの子どもと修道士は「アル?」と首をかしげている。

 セシルは逡巡した後、口を滑らせた『レオ』に話しかけた。


「悪魔に憑かれた子がいたのは僕も知ってるよ。隠さなくて平気」


 修道院長にも黙ってるよ、と言えば、口を覆って青ざめていた少年レオはほっとしたように肩の力を抜いた。


「アルは、黒髪に灰色の瞳の男の子でしょ?」


 かまをかければ、少年たちが頷いた。


「ここにいたのは、五年前? 六年前だっけ?」


 今朝会った娘がアレックスに会った時、そう言っていたのを思い出す。


「五年前だよ!」

「そうよ、懐かしいわねぇ」


 いつの間にかすぐ後ろまで付いてきていた妖精まで合いの手を入れてきた。二年前にきた修道士より、子どもたちと妖精の方が古株らしい。


「女の子にもててたろ?」


 憎たらしいが、これが一番確実にアレックスを特定する方法だと最近思い知った。ここに女の子はいないが、宿で会った娘たちの言う通りなら、女の子に聞いた方がもっと詳細な話を聞けるかもしれないとも思った。

 話についていけない子を除いて、少年たちは顔を見合わせた。五年前なら、彼らはまだ六・七歳の幼子だろうから、もてるという感覚がわからないのだろうか。

 しかし彼らの戸惑いの理由はセシルの予想からは外れていた。彼らは人目を気にするように、一様に声を潜めて話しだした。

 何かを恐れるかのように。


「変な人だったよ。背も高くて畑仕事も勉強も真面目にやってたけど、いつも何もないところに怯えてた」

「修道士の先生たちもみんなその様子を怖がってて、皆でいるときもアル兄ちゃんだけいつも別の部屋にいた」

「なんでって聞いたら、アルには悪魔が憑いてるから、ほかの人が呪われないように離すんだって。アルのお母さんが修道院にアルを置いていったのは悪魔を祓ってもらう為だったけど、どんなに先生たちが頑張ってもダメなんだって」


 セシルは無言で固まった。

 そこに、先程レオと呼ばれた子をたしなめた年嵩の少年が神妙な口調で言った。


「先生たちは悪魔憑きって言ってたけど、きっとアル兄ちゃんは気がふれてたんだ。本当は病院に連れて行かないといけなかったんだと思う。そんななのに五年前、突然引き取られるって聞いて驚いた。でもみんな口止めされて先生たちも入れ替わっちゃうから、俺、アル兄ちゃんは連れていかれた先で殺されちゃったのかと思ってたんだけど。生きてんだな、良かった」


 そして、話についてきていた中で一番幼く、背も低い少年が、泥のついた顔をぬぐうと、ほかの子どもとは異なり歯を見せて無邪気に笑った。


「お兄さん、あの時お迎えにきてた金髪のおねえちゃんの家来?」


 金髪のおねえちゃん。

 セシルはたっぷり十秒沈黙したあと、「うん、そう」と答えた。でないとなぜアルを知っているのかと問われてしまうからだ。背後で女が「嘘つき」と冷たく言った。


「あのあと、雨漏りも全部直してもらえたし、服も靴も新しいのが配られたから、アルも悪魔のことさえなければもうちょっとここに居られたらよかったのにねって話してたんだよ」


 屈託のない少年の言葉を最後に、セシルは子どもたちへ向けていた顔をゆっくり上げた。

 呆然とした表情の修道士と目が合った。


「…………ちょっと、こちらへ」


 セシルは常にない腕力でもって自分より背の高い修道士の袖を引き、子どもたちから離れた。

 渡り廊下の近くの木立の下までついてきた修道士は今の話で何を想像したのか、顔面蒼白だった。


「い、今の話は一体……」


 セシルはどうにか、にこっと作り笑いを見せて、低く抑えた声で答えた。


「きっと子どもの戯言です。悪魔に魅入られないようにという教訓を含んだ作り話でしょう」

「その、アルと言う子の行く末は……? まさか、この修道院で人身売買が……」

「作り話です」


 そして、セシルはぐっと修道士の荒れた右手を自分の両手で握りこんだ。


「なっ……」


 握りこまれた己の右手と立派な身なりの客人の顔を、修道士は交互に見た。


「どうか、ここの子どもたちが、お腹いっぱい食べて、清潔な服を着て、立派に巣立っていけますよう、祈っています。彼らを教え導く、あなたたちも」


 どこかで誰かが言っていたような白々しい台詞を口から滑り出させて、セシルはじっと緑の目で修道士の顔を見た。修道士は恐れるように視線を上に下に動かした。


「あ、あなたはどなたです……アル、とは? 修道院の資金はその子と引き換えに……?」


 髪と同じ、優しい茶色い目の男だった。若い修道士だが、志を持ってここで子どもたちの世話をし、まじめに働き、敬虔にも神に祈っているのだろうとうかがい知れる、タコのできた武骨な手だった。


「……その少年は、不幸になってはいません。や、病も完治して、立派に育ちました。だから、どうかそっとしておいてあげて」


 口止めの仕方を知らないセシルは、最後はすがるように相手の手を握りこんだ。もうそれ以上聞かないで、と。

 若き修道士の喉がごく、と動いた。知ってしまった秘密を己の腹の中に飲み込んだ動きだった。


「すべて、神の御心のままに」


 そう言って、セシルの両手から右手を引き抜き、握りこまされた金ボタンを修道士服の袖の中に隠した。

 修道士が子どもたちのもとに戻る背中を見ながら、セシルは振り返って妖艶な妖精を見た。


「嘘つきなお兄さんねぇ。あなた、一体誰の家来なのかしら?」


 こちらは一転してセシルを蔑むように見ている。めずらしい人間の話し相手でも、それが嘘を吐く人間なら交友する気はないようだった。険しい顔でセシルは妖精に詰め寄った。


「……きみは何を知っているんだ。ここで、五年前、『アル』に何が……」

「いーわない。女のひそやかな思い出を語るのに、嘘つき相手は相応しくないわ」


 セシルがポケットからもう一つ金ボタンを出そうとした時だった。


「悪魔憑きだ!!!」


 嗄れた叫びはセシルたちがいた中庭とは橋を挟んで逆の畑から聞こえた。


「修道院長に伝えて! また、この修道院に悪魔がでたと!! 悪魔と話していたと、そこの旅人が!!」


 杖を片手に持つ老いた尼僧の叫びに、中庭の奥の建物から数人の尼僧が走り出てきた。彼女たちは口々に「何を言っているの?」「夢でも見たの?」と老尼僧をなだめながらも呆れていた。その奥には先程の少年たちと同じくらいの年の少女たちもいたが、若い尼僧たちとは異なり、セシルの方を見ては訝しむような、恐れるような表情だった。


(悪魔憑きについて、若い修道士たちと尼僧たちは知らないんだ。多分、人が入れ替えられているから)


 でも、足が悪くてか年のためか動かされなかった老いた尼僧と、昔からいる子どもたち、そしてロナルド・レイバンは知っているのだ。悪魔憑きと呼ばれた子どもがこの修道院にいたことを。

 渡り廊下の向こうで若い尼僧が申し訳なさそうに頭を下げた。背後を振り返れば、最初は歓迎するかのように駆けてきた子どもたちが、信じられないものを見るように目を見開いている。修道士は、子どもたちに農具を片付けるよう指示を出していたが、ちらりとセシルの方を見た。その顔には混乱とかすかな恐怖が込められていた。


「ああ、あの時もそうだったわぁ」


 女妖精が歌うように昔を懐かしむ。


「あの美しい男の子、いつも私たちを避けるけど、誰かが今みたいに叫べば、あの子は人間たちから切り離されて、結局いつも周りには私たちしかいなかったのよ」


 セシルの緑の目が妖精のうっとりとした金の目のもとに戻る。


「ロナルド・レイバンに変な水をかけられたって、暗い部屋で延々と変な本を読みあげたって、いっつもアルは妖精と一緒。妖精としか、一緒じゃなかった。なのになんで悪魔だなんて言って、私たちを無視して、避けようとしたのかしら」


 悲しいなぁ、そう言って白いドレスを翻らせて、黒い髪をなびかせて、妖精はくるりとその場で回った。


「かなしいなぁ」

「懐かしいなぁ」


 いつの間にか、中庭のそこら中にいた木や花の妖精が一様にかなしいなつかしいとささやきあっていた。

 そこにいた妖精たちに悪意はなかった。

 そして、過去の友人や家族を思う温かみもなかった。

 

「冷たい子だったけど、あの女が連れて行かなければ、ずっとここにいてくれたのかしら」


 セシルは話し続ける妖精女のほうを見ないまま、渡り廊下の先、本館の入り口を見た。

 ロナルド・レイバンが悲壮な顔でこちらを見ていた。

 少しの間を置いて、セシルはへらっと笑った。


「そろそろ、お暇しますね。もう行かないと」


 小走りで修道院長の元へ近づいた。本館を抜けないと、厩舎のある門にたどり着けないからだ。


「……ええ、そうでしょう。それがいいでしょう」


 修道院長は出迎えたときとは別人のように、冷や汗をかき、僅かに青ざめながら客人に同意した。


「どうか、この来訪は内密に」

「ええ、勿論」


 だから、あなたも、どうか内密に。

 セシルの念押しに対し、皺に囲まれた青い目もまた、そう言っているようだった。



 セシルは修道院長の横をすり抜けて正面の門へ進む。建物の中にも外にも、姿かたちの様々な妖精たちが歩いたり、ささやきあったりしていた。中には、セシルに近づき、話しかける者もいた。


 人間は、誰も寄ってこなかった。


(こういうことか)


 母一人に煩わしがられるのとはわけがちがう。


(外で変わり者(ぼくら)がひとりで生きるって、こういうことだったんだ)


 なるほど。

 これは隠したくなるかもしれない。

 どんなに親しくなっても、彼は他人に語らなかったかもしれない。

 『アル』と呼ばれた子のことを、この先ずっと、懐かしさで語ることは出来ないのかもしれない。


(ここでは、僕たちが『どういうものか』なんて、誰にもわからない)


 周りにいるのは悪魔だとみんながそう言うなら、そうだとしか思えない。

 お前は悪魔憑きだと言われたら、反論できる術なんて、何もない。

 自分たちは、『家族』の中にいないとただの一瞬も安心できない存在だったのだと初めて知った。

 

「ロッドフォード様っ」


 セシルが暗い気持ちを抱えて来た道を戻っていると、突然、別の修道士が声をかけてきた。修道院長には、この人にもちゃんと口止めをしてもらわないと。セシルはそう思いながら相手の顔を見た。最初に門で出迎えてくれた修道士だった。


「馬が! お客様の馬が厩舎を抜け出して、修道院のまわりをぐるぐるぐるぐる走り回っておられるのです!!!」




 セシルは走った。

 馬の上から絶対に動くなとは確かに言った。


 




 でも、馬に乗ったままならなにしてもいいわけじゃないんだぞチビ!!






 結局、遠巻きにしてきたはずの茶髪の修道士を含めた建物中の男手を借りて、買ったばかりでセシルに忠誠心のかけらもない馬の手綱を取り戻した。石壁の周囲をあっちに行ったそっちに行ったと男数人で走り回り、汗だくで土まみれになりながらの大乱闘になってしまった。

 


 けろっとした顔で手綱を引いていた金の髪の小妖精が「おそかったねぇ」と見下ろしながら言ってきた時、こいつは本当に悪魔なんじゃなかろうかと思った。


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