第78話:コイツ、誰?
「もう昼か…。よし、休憩にしよう。」
俺達は馬車に乗っているだけだが、馬車を引く馬には適度な休憩が必要だ。
この団体が纏まって休憩を取れる場所まで移動して、休憩を始める。
すりすり
「分かった、分かった。飯の準備をするからちょっと待ってろ。」
時刻はもうすぐ13時。
馬車に揺られていただけとはいえ、俺も腹が減ったよ。
周囲の冒険者達はギルドからの配給を受け取っている。パンと水、それから干し肉の様だ。
今回の討伐戦に参加する者は、ギルド側から食事や毛布等の最低限の物資の援助を受けられる。バルム子爵からの援助物資だね。
ギルドで用意した物を、受け取らなければらならい決まりはないので、自分のメシは自分で用意した。
周囲にも、街で買ったサンドイッチやパンを食べている連中も確認できた。
料理は沢山準備している。何を食べようか?
この休憩は30分くらいらしいので、サッと掻き込めるモノにしよう。
アイテムボックスからご飯の入った土鍋と中華鍋を取り出し、深めの皿に盛る。
「ほら、エリアス。今日の昼は麻婆豆腐丼だぞ~。」
ぴょん!
「食べようか。」
ぴょん、ぽむ
いつもながら、器用に食うなぁ。
どれどれ、俺も。
バクッ!
ンン、麻婆豆腐自体は薄味気味だが、餡が米に絡むからこれぐらいの味付けでも十分に美味いな。
ヤッベ!麻婆豆腐丼って飲み物か?
マジでスルスルと飲み込んじまうよ。
「変わった物を食べているのね?」
「ご飯食べてるエリアスちゃんも可愛い~♪」
食事を受け取った3人が馬車に戻って来た様だ。
「ああ、この大陸の料理に慣れてなくてね。食事は自分で用意したんだ。」
「持ってきたの⁉」
「アイテムボックスがあるんでね。」
麻婆豆腐の入った中華鍋を出して見せる。
「貴方、本当に人間?」
「お祖母ちゃん、失礼だよ。美味しそうな料理ですね。」
「ありがとう。少し食べてみるかい?口に合うか分からないけど。」
3人に少し麻婆豆腐を分けてあげる。
「良い匂い~。」
「見た事の無い料理ね。」
「異国の料理ですか…。」
ユインは嬉しそうに、レイラインとシュウは慎重に麻婆豆腐をスプーンで掬う。
パク×3
「美味しー!」
「上等な調味料を使っているのね。」
「~。か、辛くないですか?」
シュウには辛かったか。お子ちゃま舌というよりも、しっかりとした味付けに慣れていないのだろう。
他の2人はちゃんと食べられる様だ。長年、魔法士団の副団長を務めているだけあって、普段から良いモンを食っているのかな?
「少し辛いけど、この白いのと食べると美味しいね。お祖母ちゃん。」
「スープ代りには贅沢ね。」
「味気ないパンには有り難いです。」
なかなか好評だ。
◆◆◆◆◆
休憩が終わり、移動を再会する。
空が赤くなり始めた頃、野宿の準備を始める。
移動中、あまりにも暇だったので昼寝をして時間を潰したが、寝ている間にユインがエリアスを強奪していた…。
起きたら、ユインに掴まれたエリアスの機嫌が悪かったので、キャラメルで機嫌を取った。
季節は秋でまだ10月だ。焚き火と毛布があれば野宿もそこまで苦ではない。
新人冒険者達が炊き出しの準備を始めている。
今夜の焚き火で使う薪や小枝は街から持って来たのだが、明日以降は森での調達になるらしい。
完全に暗くなった頃、食事が配られ始めた。
昼と同じパンと水に干し肉、朝と夜はスープが付くそうだ。
商業ギルドのグループから活気のある声が聞こえると思ったら、彼等はここで商売を始めていた。
品物はエールと簡単な軽食の様だ。武器の在庫もあると宣伝もしている。(抜け目がないね)
新人冒険者達は深夜に交代で寝ずの番をするが、一般の冒険者達は食べたら寝るだけとなる。
ここは街道沿いの開けた場所、夜は比較的安心して眠れるので、酒を飲んでもいいらしい。
商人達の軽食を覗いていると大きな声がした。
「おい!お前!」
「イース、止めとけって!」
「そうよ!」
「おい!そこのお前!」
何だ?揉め事か?五月蠅いなー。
フランクフルトっぽいのが焼かれてる。美味そうだな。
エリアスも頭の上で動いている感じがするので食べたいのだろう。
「2本くれるか?」
「2本だね。はいよ、銅貨8枚だ。」
オッホー!高いな~。出張価格込みなのか?
「値段はちょいと高いが味は保証するよ!」
当然、ケチャップやマスタードは無いのでそのまま食べる。
アーン!プリッ!
確かに美味いな。
聞けば、1本で銅貨4枚というのは、多少の手間賃が入っているものの、良い腸詰めを使っているかららしい。
「肉々しくて美味いな、エリアス。」
ぴょん
「おい!聞いているのか⁉」
何だよ、まだやってるのか?
グイッ!
えっ!
「俺はお前に言っているんだ!」
いきなり俺の腕を掴んできた男が大声を上げた。
コイツ、誰?