第69話:スライムだから…
「幸か不幸か、私には剣も魔法も才能が無くてね…。色々あったが、結局は今の地位に落ち着いてしまった。だからね、君の生き方が羨ましいよ。私には、君の生き方が眩しく見える。」
ふーん、あっそ。
確かに俺の持つスキルやギフトに、日本の調味料があれば、人生を楽しく過ごす事が出来るが、アナタはこの大陸でも恵まれた良い地位と環境にいるではないか。
俺には無い物ねだりのワガママにしか聞こえないよ。
「子爵、人にはそれぞれに役割があります。アナタはこのニードラングにはなくてはならない存在なのですから、これからも領民の為に尽力くださいよ。」
「そうだね。そうなんだよ…。」
その後、バルム子爵の愚痴を聞かされた。
◆◆◆◆◆
夕食の後、子爵達は試作品のデキを確かめる為に、実際に遊んでみるそうだ。
そこまでやったら直ぐに飽きるよ?
俺は風呂に入って、食材調達の為に万物創造を使いまくった。
今回は調味料だ。
調味料なんて1度出してしまえば、当分は必要が無いところだが、変わり種も出す事にする。
先ずは味噌・味醂・料理酒・醤油・めんつゆ・ぽん酢・ケチャップ食べるラー油。普通に冷蔵庫に常備しているラインナップだね。
問題は次だ。
これがメインと言ってもいいだろう。イメージする。
キムチ鍋の元・塩ちゃんこ鍋の元・豚骨鍋の元・麻婆豆腐の元・回鍋肉の元・青椒肉絲の元…………。
最近は鍋のだし汁も種類が豊富だし、野菜と炒めるだけでも充分に美味いレトルト調味料が沢山ある。
これを大量に出したのだ。
流石に調味料を出す程度では魔力を使い果たす事はなかったので、食材を追加しておく。
こんにゃく・豆腐・しらたき・かまぼこ・竹輪・厚揚げ・ピーマン・水煮のタケノコ、さっきのレトルト調味料で使えそうな物を出したのだ。
魔力を大量に使うことに対して特に疲労は感じないが、物品をイメージしたり中心する際の精神的な疲労が堪える。
さっさと寝よう。
◆◆◆◆◆
翌朝、起きると小雨が降っていた。
日本だったらこんな日はアニメを見たり、ラノベを読んでいたが、この世界の住人達はどんな感じで過ごすのだろうか?
万物創造で漫画やラノベを出す事は出来るが、残念な事に俺が持っていた物に限られる。そう、新刊は出せない…。
俺の能力は、俺がイメージして魔力を消費して、やっと実体化している感じだ。
決して地球から物品を召喚している訳ではないのだ。
もしも、日本に未練があるとすれば、両親への思いとアニメや漫画の続きだろうか。
気にしたら余計に気になるから、出来るだけ考えない様にしよう。
缶コーヒーを片手に、窓から聞こえる雨音に耳を傾けつつエリアスを弄って遊ぶ。
◆◆◆◆◆
朝食を終え、直ぐに子爵邸を出た。
馬車での移動なので、移動自体は苦ではなかった。
冒険者ギルドに入ると、飲食スペースは賑わっているものの、受付は閑散としていた。
こんな雨の日は酒でも飲んで過ごしているのだろう。
セリアは見掛けなかったので、ベテランっぽい受付のオッサンに声をかける。
「すまない、急ぎで魔物の解体を頼みたい。」
「何を解体するんだ?」
「オークが8体、シャドーバードが2体、ウイングバードが6体、ワイルドボアが2体だ。アイテムボックスに入ってる。」
これまでに俺とエリアスで倒した魔物を解体して、肉を確保しよう思ったのだ。量が少なかったら肉屋に買いに行く。
ワイルドボアとは、普通の猪と同じ大きさの猪型の魔物で、猪よりも少しだけ強暴で頑丈なのが違いだ。
「アイテムボックスに?!お前さんがヨシタカか!」
俺って有名なのか?
「ああ、そうだな。」
「お前さんに渡す物があるんだ。ちょっと待ってくて。」
奥に引っ込んだオッサンが皮袋を持ってきた。
「この間お前さんから預かってた飲み代の残りだ。あの時はウチも儲けさせてもらったぜ。」
へー。そう言う割に皮袋は重いな。
中を見ると、金貨が結構あるぞ。あいつらってダイブ持ってたんだなぁ。
まあ、5人の全財産を集めりゃ当然だね。
「解体するなら解体室に行くか。こんな場所で魔物を出されたらこっちが困る。」
「わかった。」
「お前さん、ホントにスライムなんて連れてるんだな?聞いた時は何かの冗談だと思ったぞ。」
この反応は仕方ないかね、スライムだから…。