第68話:君の生き方が眩しく見える
何の用事だろう?取り合えず、執務室に行くか。
「エリアス、バルム子爵の所へ行くぞ。」
ぴょん、ぴょんぴょん!
完全にエリアスの定位置が俺の頭の上になってるな…。
軽いからべつにいいけど…。
コンコン
「子爵、俺です。」
「入ってくれ。」
ガチャ
「失礼します。」
中には知らないオッチャンがいた。
「ヨシタカ君、紹介しよう。彼はゴドン、双六とオセロの製造を任せている工房の主だ。」
「ゴドンだ。お前さんが持ってたこのゲーム、なかなか良く出来てるな。」
「ありがとう。故郷じゃあ子供から大人まで、家族で楽しんでたゲームさ。」
「君を呼んだのは他でもない、試作品が出来たので君にも見てもらいたかったのだよ。」
成程ね。
ゴドンの工房はそれこそ、揺りかごから棺桶まで、子爵家に作れと言われれば何でもこさえるマンモス工房らしく、そのなかでも主であるゴドンと息子さんの2人で今回の試作品を極秘裏に手掛けたらしい。
双六はほぼ再現出来ていたが、オセロに関しては磁石の代用品が無くてその点はオミットされていた。
これだけ再現出来ていたら十分だろ。
「使用している材質に関しては専門のゴドンに任せますが、モノとしては十分でしょう。あとはこの品質を維持しつつ、安定してどれぐらいのペースで製造出来るのかでしょうか?」
「どうなのかね、ゴドン。」
「子爵様に大量に作れと言われれば量産はしますが、レーティングボードにとって変わる様に広めるのなら、これを購入するのは貴族様が中心になるでしょう。それを考えればもっと品質を上げる必要があるでしょう。」
「…それもそうだな。ゴドン、あと5日で改良したモノを持って来なさい。いいね?」
「…解りました。」
「子爵、どうして5日なんですか?」
「ルクセニア侯爵の件は覚えているかね?」
ルクセニア侯爵ってアレだろ?ベルハルトの婚約者の実家だべ?
「ええ、覚えていますよ。」
「そのルクセニア侯爵一行が1週間程でこっちに到着する予定になっているのだ。だからそれまでに販売出来る状態に仕上げておきたいのだ。この件はルクセニア侯爵にも知られる訳にはいかんのでね。」
アレか?利権だの何だのと厄介なヤツか。
「大変ですね。」
「これらをレグナール公爵に贈れば、きっと喜んでくださるだろう。だからこそ、それまでは外部に知られる訳にはいかんのだよ。」
本当に貴族って大変やな。
貴族っていうよりも商人に近い感じがけど、結局のところ、領地経営とか利権が絡むっていう辺りは経営者的な考え方も大事なんだろうね。
貴族もタイヘンだーね。
◆◆◆◆◆
ゴドンが帰り、執務室にバルム子爵と2人になった。
「ヨシタカ君、君は確か聖魔法が使えたね。」
「ええ、使えますよ。」
「それにアイテムボックス持ちだ。」
「そうですね。」
「地位や権力に興味はないかね?」
「無いです。」
ハッキリと言うが、そんなモンに興味はないよ。
折角こんなに壊れかけたステータスしてんのに、何で柵に囚われる生活を送らにゃならんのだ⁉
地位や権力が欲しけりゃ自力で掴み取ってやるさ。
「即答かね。」
「はい。折角旅を始めたばかりですから、もっと色々と見て回りたいです。」
「そうか、残念だよ。娘を君に、と思ったのだがね。」
ケッコウです!俺はロリコンじゃない!
アンタの娘はまだ子供だろうが!
「子爵、折角のお話ですが、俺の故郷では男性の婚姻は18才からで、女性の婚姻は16才からとなっているんです。この大陸では違うと思いますが、俺にはまだ結婚なんて考えられませんよ。」
「そうなのかね?君の故郷には色々と興味が湧くなぁ。今でこそ私は子爵なんて地位に就いているが、若い頃は冒険者に憧れていたのだ。」
「普通に考えれば、ニードラング領は経営状態も良く、特産品も良質な物ばかりで、後継者としては喜ばしい環境だったと思いますが?」
「端から見ればその通りだよ。当家はずっと平和な領地の恩恵を享受して、黒字経営が続いていたからね。だからこそ、私は自由と刺激を求めて冒険者になりたかったのだ。」
それって、唯の無い物ねだりだよ。
今のアナタのポジションを、羨む人間ははいて捨てる程にいるだろう。
マノンなんて、喉から手が出る程に欲しているに違いない。
正に隣の芝は青く、だろう。
「幸か不幸か、私には剣も魔法も才能が無くてね…。色々あったが、結局は今の地位に落ち着いてしまった。だからね、君の生き方が羨ましいよ。私には、君の生き方が眩しく見える。」