第59話:カルロと談話室を出た
あれ?みんな無言だ。
…………
………………
?あれ?どーした?
「ヨシタカ君!!これはなんだね⁉」
びっくりした~。急に大きな声を出さんでくれ。
「だし巻き玉子と言う卵料理ですよ。熱燗に合うはずですが?」
「オムレツとは違うのかね?」
「作り方が違います。味や食感も違うでしょう?」
「うむ、全くの別物だよ。私は卵料理が好物なのだが、今まで食べてきた卵料理で一番美味だよ。」
「確かに、四角いオムレツかと思いましたが全然違いますね。」
「熱燗にも合うし、本当に美味しいわ。」
「お姉様、どうぞ。」
「あら、ありがとう。アメリアも。」
ここの夫人は仲が良いな。
「ヨシタカ君、こっちの田楽とやらはどんな料理かね?」
「こんにゃくと言う食材とナスの上に、田楽味噌と言う調味料を乗せています。」
田楽をナイフとフォークで食べるのはマヌケに思えたので、竹串に刺している。
4人は竹串を掴んで、上品に頬張った。
「熱っ!ハ、ハフ!あー、これも美味いな。ナスが柔らかい」
「こんにゃくと言う食べ物の食感が変わっているわ。」
「ええ、そうですね。でも、クセになりそうです。」
「甘じょっぱくて、美味しいですね。この感じが熱燗に合う。」
ナスは縦に半分に切ってから多めの油で焼いて田楽味噌を乗せた。こんにゃくは1度、シッカリと下茹でしてから油を使わずフライパンで表面を焼いて田楽味噌を乗せた。
田楽味噌はスーパーでも手に入るので、万物創造で簡単に出せた。
4人で熱燗を飲んでいるので減りが速い。ドンドン次を準備せねば!
俺は部屋に戻ってから1人でゆっくり楽しむよ。
だし巻きもなくなったので、次の料理の準備だ。
準備していた土鍋を出して、火にかける。あとは待つだけ。
酒を飲まない3人には、追加のファ○タグレープとお菓子の盛り合わせを渡した。
お菓子のラインナップはベビースター○ーメン・ハイチ○ウ・チョコ○ールのピーナッツだ。(ちょっとマニアックな組み合わせか?)
よし、土鍋が良い感じだ。
土鍋の蓋を開けると、鍋の中がグツグツと煮たっていた。
「ヨシタカさん、そちらには何が入っているのですか?」
「まだ何も入ってませんよ。強いて言えば、水と昆布の旨みですね。」
そう言って、鍋に豆腐を4つ入れた。
3品目は湯豆腐だ。
異世界人に豆腐の良さが伝わるか迷ったが、薄味に慣れたこの世界の人達なら受け入れる事が出来るかもと思い、湯豆腐を用意したのだ。豆腐は絹ごし豆腐にしたよ。
寄せ鍋なら木綿豆腐でも良いと思うが、豆腐オンリーの湯豆腐ならば滑らかな口当たりの絹ごし豆腐が個人的に好きだ。
付けダレは少し薄めたぽん酢に葱を入れたシンプルなタレにしてある。通常のぽん酢では、酸味を強く感じてしまうだろう。
カセットコンロの火は中火にして、少し待つ。
田楽もだいぶ少なくなり、こちらの土鍋が気になる様だ。
豆腐が少し揺れた。今だ!
穴あきのお玉で豆腐を掬い、4人に渡してゆく。
豆腐は【煮えばな】が美味いと言われるが、確かにその通りだと思う。しかし、普段の鍋や湯豆腐で煮えばなを気にして食べるのは大変だ。
今回は俺が側で調理をするので、そこまで拘ったよ。
「どうぞ、豆腐と言う食材をシンプルに味わう為の湯豆腐と言う料理です。」
「白くて綺麗な食べ物だね。」
「とても柔らかいわ。スプーンで掬っても崩れてしまいそう。」
パクッ
「なんという事だ…。とてもアッサリとした食べ物なのに、とてつもない存在感を感じる…。」
「ちょっとした酸っぱさが、豆腐の滑らかな食感の中に感じる豆腐の味を引き立てる様ね。」
「この葱の風味も良いですね。」
「ヨシタカさん!熱燗のお代りください!」
ベルハルトよ、ちょっと飲み過ぎだぞ。お前、やっぱり酒癖悪いな。
「湯豆腐はとても美味しいが、ベルハルトは飲み過ぎだね。」
「そうですね。熱燗は酒の温度が高いので、酔いが廻りやすいと言われています。もう直ぐ次の湯豆腐が出来ますので、それでお開きにしましょうか?」
「そうだね。よく考えれば、晩餐は済ませているんだった。今夜は食べ過ぎてしまったかな。」
「そう言えばそうね。」
「ご心配なく。こんにゃくや豆腐はとてもヘルシーな食材ですので、太る心配は少ないですよ。」
「まあ、そうなのですか?」
「それはありがたい事ですね。」
やはり、こちらの世界の女性にもヘルシーと言う言葉は強力みたいだね。
気付けばベルハルトが船を漕ぎ始めた。
「珍しいね、ベルハルトが酒を飲んで寝てしまうなんて。」
「そうね、アナタ。珍しいわ。」
「トマスに運ばせましょうか。」
「少し様子を見よう。3人でもう少し飲まないかね?」
そう言って、バルム子爵夫妻は3人で飲み直し始めた。
「湯豆腐のお代りです。」
「おお、ありがとう。今日の料理にはハマってしまいそうだよ。どれも美味しいね。」
「ありがとうございます。簡単なツマミを置いておきますので、あとはごゆっくりどうぞ。」
満タンのお銚子2本と、炙ったエイヒレとマヨネーズの小鉢を置いて、カルロと談話室を出た。




