第5話:女神クラウです
「万物創造だ‼」
「……万物創造?」
「そうだ。この能力は本来、上位神が持っている能力でな。言葉の通りにありとあらゆるモノを造り出す事が出来る能力なのだ。それこそ、生命体でもな」
「スゲェ……」
「だが、お前は神ではないし魂も普通の人間なので、この能力をもってしても生物を造り出す事は出来ない。まあ劣化版になるな」
「それでもスゲェ……。要するに、その能力があれば生き物以外なら、欲しいモノを造り出す事が出来るんですよね?!」
「そうだ。魔力を使ってな」
「魔力……」
「そうとも、何の代償も無く使える訳がないだろうが……」
「確かに……。でも、万物創造か……」
よく考えてみればこの能力って当たりじゃね?
俺の魔力と引き換えに、その時に欲しい物が手に入るって事なら、飯の問題なんて小さな事だ。
ある意味、生活には困らないんじゃねー?
ってか魔力ってどう使うんだ?
そもそも俺に魔力なんて有るのか?
【万物創造】なんて大層な能力を貰ったはいいが、魔力が無くて俺には使えませんでした! なんてオチは勘弁だ。
「心配するな。便宜上、お前達オタクに合わせて魔力と言っているが、その魔力とは本来、生命体が持つ魂に宿るエネルギーの事だ。このエネルギーを使って世界の理に干渉し、様々な事象を引き起こす事が出来るという訳だ」
「ン~、成る程……?」
じゃあ俺も魂に宿るエネルギーとやらで魔法を使うことが出来るのか?
「今は無理だ!」
「ウソ~ン……」
「こちらの世界の理には魔法や魔力といった概念が組み込まれていない。だから想像上の力であって、こちらの世界では魂のエネルギーなんぞ何の役にも立たん! 神以外はな」
「わかりやすい説明で……」
「なに、同じ様な説明をかれこれ10回以上やったからな」
「10回以上⁉」
「さっき言っただろうが、20人分の魂をあっちに送ると」
「そんな事も言ってましたねぇ」
おい待て‼
って事はなにか?
俺みたいに何らかのチート能力を持つ人間が、向こうの世界で20人もいるわけか?
もしもヤバい能力を貰ったヤツと、バトル漫画みたいに戦うなんて事になったら、平和ボケした日本人の俺なんて瞬殺されるだろうがよ!
よし! 今回の件は丁重にお断りしよう‼
「タナトス様! 今回の件、私には「万物創造は授けたので頼んだぞ! 先ずはあっちの神の所に送るから頑張れよ‼ じゃあな‼」
「ちょっ!」
俺の断りの台詞に被せてタナトス様は一気にまくし立て、言い終わらない内に俺達のいた空間が強烈な光に包まれた!
「ちょっと待てーー‼」
視界が強烈な光に包まれた俺は思わずギュッと瞼を閉じて身を屈めた。
途端にエレベーターに乗ったときのような浮遊感を感じ、
(やられた~)
と、何故か不思議な程に冷静な思考ができた。
体感時間にして5秒くらいか、もしくはもっと短かったかもしれない程の僅かな時間が過ぎたあと、恐る恐る目を開けるとそこは……
「ナンチャラと時の部屋かよ!」
パコーーン!
思わず手に持っていた便所スリッパをメンコの様に地面に叩きつけた。(何でスリッパを持ってたんだ?)
「ハァ、ハァ……」
興奮して喉の渇きを感じる。
アイスコーヒーが飲みたい、タバコも吸いたい。
俺はヘビースモーカーではないが、6年弱続く愛煙家でもある。気分を落ち着ける為にも、コーヒーとタバコが欲しい。
周りは先程と変わらずの時の部屋状態だが、誰も居なかったのでせめてタバコだけでもと思って、自分の身体をまさぐった。(変な意味じゃない)
スーツを着たまま死んだクセに、ポケットに入れておいたタバコやスマホ、小銭等も何も入っていなかった。
コーヒーもタバコも諦めて地べたに座ろうかとした瞬間、目の前の異変に気付く。
それは多数の色をした大小の粒子が何処からか現れ、次第に人の形を作っていく。
それから人の形をしたモノは、カメラのピントが合ったかの様に、ボヤけていた人の輪郭が女性の姿になった。
見た瞬間にわかる程の美少女がそこに居た。
後光等は無いが、神々しい圧力を感じる。
年の頃は二十歳前後か。明らかに整った顔だちに、完璧なまでの長いストレートの淡いピンクの髪。背丈は155㎝くらいだろうか。(因みに俺は176㎝)
ギリシャ神話風のキトンの様な服を着ている。(タナトス様よりも神様っぽい)
俺の妄想の中にあてはめるとすれば、妹的なポジションが似合う、護ってあげたくなる様な保護欲を掻き立てられる美少女が目の前に居る。
それも眩しい程の笑みを浮かべて。
(こんな純真無垢な笑顔なんて初めて見たぜ)
「お待たせして申し訳ありません。藤原義孝さんですね?」
「そうだけど……」(気の利いた返しができなかったよ……)
「良かった~。私の名前はクラウ。女神クラウです」