第41話:Bランク
それから色々と、冒険者について説明を受けた。
内容は多かったが、受付嬢がわかりやすく端的に話してくれたのが、とてもありがたかった。(仕事の出来る人みたいだ)
説明の内容は
①冒険者ギルドは冒険者に依頼を出したい依頼主と、それを受ける冒険者の仲介をして、仲介手数料を取っている。
②冒険者が倒した魔物の魔石や、利用出来る素材の部位を買い取っている。基本的には個人で勝手に他所で取引をするのはあまり良くないそうだ。(商人を相手にして、安く買い叩かれるらしい)
③魔物の素材に関して、解体が苦手であればギルドが手数料を取ってやってくれる。
④冒険者にはランクが設定されていて、上からS・A~Gとなっている。
⑤ランクを上げるには依頼を一定数こなしたり、試験を受けなければならない。
⑤冒険者登録の際に、高ランクの冒険者や有力者の推薦と、大金を払う事で特別な試験を受けて、飛び級でスタートする事が出来る。
有力者の推薦か、バルム子爵に頼んでみようか。
「ヨシタカさんはご心配なく。バルム子爵様からのお手紙には推薦の件も書かれておりました」
やった!子爵、グッジョブ‼
「ヨシタカ様、試験の費用に関しても手紙と一緒に、私が預かっております。こちらです」
「ありがとう。子爵にも礼を言っとくよ」
「もうすぐ試験官が来ますので、それまでこちらの用紙にご記入お願いします。代筆も致しますが」
「大丈夫だ。どこまで詳しく書けばいい?」
渡された用紙には名前・性別・戦闘スタイル・特技の項目があったが、俺の場合は全部をバカ正直に書ける訳がない。
「個人情報ですので公にはしませんが、詳しく書いていただいた方が、特殊な依頼をギルドから斡旋する事もあります」
ならば、戦闘スタイルは前衛(刀)、特技は聖魔法とアイテムボックスでいいだろう。
「これでいいか?」
用紙を渡すと受付嬢の目が大きく開かれた。(ホントに驚いたらこんな感じなんだね)
「多才なのですね。冒険者にならなくても、仕事には困らないのではないのですか?」
ごもっともです。記入した内容が事実なら、絶対に食うには困らんだろうな。
「故郷を出て旅をしているので、冒険者になった方が都合が良いんだ」
そう言って、報酬の金貨が入った袋をアイテムボックスにしまうところを見せた。
余談だが、今回の特別試験の費用は金貨10枚だ。(確かに大金だ)
「本当にアイテムボックス持ちの様ですね」
「アイテムボックス持ちが冒険者になるとは珍しいな」
「レグさん。ヨシタカさん、こちらのレグさんが試験官を務めます。」
「レグだ。元Bランクでいまはギルドの職員をしている。試験はギルド奥の訓練場で行う。付いてこい」
レグと名乗った男は50代の厳ついオッサンだった。
レベルだけなら騎士のガランよりも上だが、能力値はガランの方が高かった。(この辺は敵性や資質の差になるんだろう)
身長は俺とかわらないが、筋肉がスゴい。ゴツいオッサンだ。
ギルドの奥にはヘタな学校の運動場よりも広い訓練場があった。(ギルドってドンだけ広いんだ⁉)
「特別試験と言っても簡単だ。闘って俺に実力を示せばいい。わかったら全力で来い!」
バスターソードってヤツかな?
両手持ちの大剣を構えて言い放つ。
いや、全力でやったら間違いなくアンタ死ぬよ?
「ヨシタカさん、相手は元とはいえBランクの冒険者です。頑張ってください!」
「安心して見てろ。ちゃんと手加減する」
「お前は真面目にやる気があるのか? ふざけた事をぬかしやがって、鎧も着ずに丸腰じゃねえか!」
そうだった。装備品を一式、アイテムボックスに入れたままだったよ。
アイテムボックスから刀を出して、峰打ちが出来る様に反対に握る。
「初めに言っとくが手加減してやる。そっちは全力で来い。さもないと死ぬぞ」
ユックリと歩み出す。レグとの距離は10メートル程。
元Bランクでも、俺の敵じゃない。
「ガキがいきがるな! お前みたいな若僧など見飽きとるわ!」
周りで訓練をしていた連中も、俺達の会話に気付いて視線を向け出した。
「あれってレグさんだろ? 何やってんだ?」
「昇格試験でもやってんじゃないか?」
「昇格試験で戦闘技能の試験って、アイツのランクはEか? Cか?」
「ここの教官で1番強いレグさんが相手をしてるんだから、Cじゃないのか?」
「でも、あんなヤツ見たことないぜ」
成程、ランクがBやDに上がる時は同じような試験があるのか。良い事を知ったぞ。
レグとの距離はあと2メートル。
俺は神気刀を上段に構えて、5割程の力で振り下ろす。
レグは振り下ろされる刃を大剣で受け止めようとしたが、こちらは総てを断つ刀だ。神気刀の峰で大剣を叩き切り、レグの左肩を強打する。
肩の骨が折れただろう。
「グィッ!」
体勢が崩れたレグの腹を正面から蹴り飛ばす。
「カァハッ!」
くの字のまま吹っ飛ぶレグを、周囲の冒険が口を半開きにして見ていた。
ベルハルトは勿論の事、トマスも目を見開いて驚いていた。(執事が感情を悟られてどうするんだ?)
「ゲホッ! ゲホッ!」
蹲り、せき込むレグに近づき、声をかける。
「試験官、まだやるか?」
「ゲホッ、もういい……」
「肩は大丈夫か? 折れてるだろう?」
「クッ、折れてるな。俺も焼きが回ったもんだ……」
焼きというよりも、俺の外見や年齢で格下と思ったのが原因だ。
いくらレグが自分の実力に自信を持っていても、俺のステータスはブッ飛んでいる。
鑑定スキルもないのに、見た目で判断するからこーなるんだ。(皆もケンカを売る際は気を付けようね♪)
「肩を見せろ、手当てする。」
強引にレグの装備を外して服を脱がせる。
レグの左肩全体が赤く腫れ上がり、刀が当たった場所は紫色のアザになっている。左腕も垂れ下がり、普通に治療すれば何かしらの後遺症が残ってもおかしくないレベルの怪我だ。(ちょっとヤり過ぎたね)
「うわ~、凄いことになってますね♪」
ベルハルトよ、何故にお前は楽しそうなんだ?
「この怪我ではギルドの職員もできなくなるな……」
「悲観するのが早いなオッサン、歳か? 神よこの者の傷を癒したまえ、ヒール!」
聖魔法で怪我を治す。
この魔法は特にイメージが大切だ。
傷や怪我を治すと言っても、どの様に治すか明確なイメージがなければ、治るモノも治らない。
医学が進歩せず、回復魔法やポーションに頼る世界だからこそ、逆に優秀な回復魔法の使い手は少ない。
日本で得た、医療ドラマや健康番組の知識を使い、レグの左肩を治療する。
さすがに打撲や切傷みたいに簡単にはいかないが、時間をかけて治した。
「あの怪我を治す程の回復魔法か……」
「流石はヨシタカさんですね」
「はい、ベルハルト様。あれ程の聖魔法を使える者はそうそういませんね」
左肩の調子を確認したレグが服を着て立ち上がった。
「スマン、礼を言う。試験も終わりだ」
「もういいのか?」
「ああ、十分だ。お前はDランクだ」
「Dか」
ビミョーなランクだな。イマイチ喜べん。
「いや、Bランクだ」