第32話:貴族は食いしん坊だ!
今回は少し長いです。
27日の0時間に、外伝【日常のグルメ】を投稿します。
よかったら覗いてみてください。
「金貨200枚⁉」
来たーー!!
凄いの来たーーーー!!!!
盗賊のアジトで大金を手に入れた時も驚いたが、今回は何か違う感じがする。
【異世界のイベント】と、言えばわかりやすいかもしれない。(盗賊の件も十分に異世界のイベントだが)
チートで異世界を渡り歩くって感じがするよ。
「そうです。今回の件は、それだけの価値がある。私はそう判断しました」
「親父さんに相談もせず、勝手に大金の約束をしてもいいのか?」
「大丈夫です。今回の視察には、贈り物の件も含まれていました。しかし生憎と、良い品が見つからずに困っていたのですよ」
「公爵家の当主に贈るなら難しいよな」
「まったくです。金を積んで手に入る物ならば、権力で何とか出来る御方ですからね」
ぶっちゃけ過ぎだろ?
「昼過ぎには街に着くでしょう。ヨシタカさんには明日の昼にでも、カレー粉を使った料理を作ってもらいます。その後にお約束の代金をお支払いします。数日は我が家で過ごしていただく事になるでしょう。宜しいですか?」
「わかった。何か料理にリクエストはあるか?」
揺れる馬車の中で、2人で明日の打ち合わせをした。
話していて気付いたが、ベルハルトは意外に食い意地が張っていた。カレー粉以外の調味料に関する質問や、試しに食べさせてくれだのと、色々と食べ物関係の話で盛り上がった。
俺も食べ物の話題には事欠かないので、移動の暇潰しには良かったよ。(エリアスはずっと頭の上で寛いでいた)
ちょっと小腹が空いた頃、馬車が止まりノックと共に、ガランの声が聞こえた。
「ベルハルト様、少し休憩を取ります。この辺りからなら、街まであと2時間くらいでしょう」
「わかりました」
そう言ってドアを開けて外の空気を吸う。
時刻はもうすぐ11時だ。
「ベルハルト、小腹が空いた。軽く飯にしないか?」
「良いですね。食べ物の話ばかりで、実は私もお腹が空いていたんです。軽いモノでお願い出来ますか?」
「任しとけ。サッと作って、サッと食べられるモノにするよ」
「ガラン、聞いていましたね? 軽く食事にします」
「ハッ!」
もう我慢の限界だ!
米が食いたい‼
朝からの計画を実行に移す時が来たのだ。
騎士が敷物を敷いてくれたので、そこに座って調理する。
本当は白米を食いたいが、周りのベルハルト達の事を考えれば、白飯はお預けだ。
カセットコンロとフライパンを2セット出して火をつける。
軽く油をひいて、別に用意した寸胴からレードルで【あるもの】をフライパンに投入していく。
すぐさま、木ベラでフライパンの中身を炒める。まるで踊っているようだ。
しっかりと炒まったら木皿に移していく。
出来た! 【チャーハン】だ‼
この為に、今朝の出発前に大量の冷凍チャーハンやサラダ油に木ベラを用意したのだ。
俺とエリアスだけなら、炊きたての白飯に味噌汁と唐揚げでも用意したが、流石に部外者がいるのでそこまではやらなかったよ。
自重してチャーハンにしたが、逆にラーメンが欲しくなった。
チャーハンを口いっぱいに頬張って、ラーメンのスープで流し込むのがサイコーだ‼
フライパン2つで5人分のチャーハンを作り、出来た分からどんどん渡していく。今回はおかわりは用意しない。
2回の調理で終了だ。俺の分は大盛りにしてやったぜ!
先に食べ始めた連中からは
「これは何て食いもんだ?」
「俺も初めて見るぞ」
「ヨシタカ殿が作ったんだから美味いんだろう」
「お前ら、これは米っていう穀物の料理だぞ」
「何でお前が知ってるんだ?」
「この前のレストランでカミさんと食べたんだよ」
「またノロケか?」
そうか、この辺りの地域で米は馴染みがない様だな。いいことを知った。
「ベルハルト、ガラン、俺達も食べよう!」
「米とは珍しいな。それにしても良い匂いだ」
「本当に香ばしい香りがします。私も米料理は久しぶりです」
「これはチャーハンっていう料理だ。米と他の食材が一緒になってるから食べやすい。ささっと食えるだろ?」
「理に適っていますね。手軽で良い。おいしいです」
「しっかりと味がついていて、美味い。この味付けはどうやったんだ?」
「詳しい内容は省くが、使っている調味料のメインは塩・コショウ・醤油が主だ。」
パクッ
はぁ~、美味い。米に癒される~。
元々、炭水化物全般が好きだが、米が食いたいと思いながらガマンしていたからか、米の食感に落ち着く。
白米では無いが、玉子やチャーシューにネギ達が米と相まって美味い。ラーメン食いてー。
エリアスも皿ごとチャーハンを取り込んで食ってるが、皿は溶けてないところに、エリアスの知性を垣間見た気がする。
やっぱり、日本人(魂は)は米だわ~。ラーメンやギョーザも食べたくなるな。
ベルハルト達さえいなければ、好きなモノが食えたのに…。
そう思ったら、コイツらが急に【お荷物】にしか見えなくなった。
イカンイカン、お荷物じゃない。金蔓だ、我慢しよう。
「これが醤油の味ですか。香りもさることながら、奥深い味わいですね」
「ベルハルト様、ショウユというのは?」
「ヨシタカさんの故郷で1番親しまれている調味料だそうですよ。」
「ショウユですか、初めて聞きましたが、この米料理は美味いですな」
「ええ、本当に美味しいですね。何度か米料理を食べた事がありますが、これ程に美味しい料理ではありませんでした」
そりゃあ、日本の冷凍食品は美味いからな。この世界の食べ物と比較するなんて無謀だ。
「ごちそうさん」
は~。食った食った。
チャーハンだけってのは微妙に未練が残ったが、これはこれで美味かった。(味○素さん、ありがとう)
エリアスも食べ終わり、水を飲んでいた。(吸収するとも言う)
軽く食休みをしたあと出発したが、騎士の1人が先触れとして先行したそうだ。
馬車の中ではベルハルトから、俺の故郷の料理に関する質問責めに合いウザかった。(2時間が苦痛に感じたよ)
本当にずっと食べ物の話題しかなかったのだから、最後の方は呆れてしまった。
「ベルハルト様! 街が見えて来ましたぞ!」
ガランの大きな声が聞こえた。
やっと街に着く様だな、長かった……。
ベルハルトの質問責めから解放される事にホッとした。
馬車の窓から外を見ると、高い壁が視界を埋め尽くした。
大きな街は基本的に壁に囲まれていて、魔物の襲撃や戦争の際には防護壁となる。
街には東西南北に4ヶ所の門があり、人々は門から出入りする為に列を作る。
街から出る分には特に何もないが、街に入る際は身分証や通行証等の確認作業がある為、時間がかかり列を作る事になる。
しかし、ここでお約束のテンプレが発動する。
こっちはニードラング子爵家の次期当主様が乗る馬車だぞ?
普通に並ぶ訳がないじゃないか。ハッハッハ♪
貴族や一部の関係者が通る為の門があり、そこから街に入った。
本来であれば、俺は身分証を持ってないので、街に入るには面倒な手続きがあるのだが、それすら免除された。
ホント、貴族の権力は絶大だと実感しましたよ。
連れていた盗賊も、ここで衛兵に引き渡した。
騎士が1人残って処理にあたるそうだ。
リステリア王国の街の構造はほぼ同じ造りで、年輪の層みたいな感じに街が構成されている。
外側から、一般区画・商業区画・行政区画・高級住宅区画、そして領主邸が中心に建てられている。
国王がいる王都はもう少し複雑な構成の様だな。
街に入ってからずっと大通りを進んでいるが、馬車の速度を落としているので、なかなか領主邸に着かない。
窓からの外の景色はまさに、中世のヨーロッパ的なファンタジーの街並みだった。
通りには露店や屋台が並び、活気に満ち溢れていた。
時折、良い匂いをさせる屋台もあり、興味がわいたので、明日以降にでも行こうと決めた。
かれこれ4~50分が経とうとした頃になって領主邸に到着した。(間近で見ると、スッゲー立派な屋敷だった)
馬車のドアが開くと、そこには執事がいた。
「お帰りなさいませ、ベルハルト様。予定よりもお戻りが遅かったので、皆様とても心配されておられました」
「ただいま、バトラ。父上達は?」
「皆様、揃われております。マノン様もおられますが……」
家令かな?
名前がバトラとは偶然か? 洒落がきいてるぜ。
「そうですか。このかたは、命の恩人であるヨシタカさんです。失礼の無いようにお願いします」
「はい。伺っております」
「ヨシタカさんの湯あみの準備を急いでください」
「ご用意出来ております。ヨシタカ様、ニードラング子爵家家令のバトラと申します」
「ヨシタカだ。少し世話になる」
「ではヨシタカさんは、湯あみを済ませましょう」
「スマン、ありがとう」
軽い挨拶のあと、メイドさんに案内されて風呂場に向かった。
客人用の風呂場らしく、内装は程々に凝っていたが、落ち着いて風呂に浸かれた。
お湯は若干温めの感じだったが、俺は温めが好きなので、ちょうど良い湯加減でしたな。
エリアスも風呂にいれたら、ぷかぷかと浮いていた。
そうそう、この世界にもちゃんと石鹸はあったが、泡立ちが悪くて洗い終わりが良くなかったよ。次からはボディソープを用意しよう。
シャンプーが見当たらなかったので、リンスのいらないメリットしかないヤツを出した。消費魔力は8だった。
風呂から出たら、着替えが用意されていた。着ていた服も洗ってくれるんだって。(至れり尽くせりだ)
風呂上がりにビールでも、と思ったがガマンして炭酸水にした。エリアスにはリンゴジュース。
着替えを済ませて暫くすると、バトラが呼びに来た。
子爵様とご対面か?
「ヨシタカ様、バルム様がお待ちですので、ご案内致します」
「ありがとう」
迷路の様な屋敷をバトラの案内に従い進む。
案内されたのは、子爵家が家族の団らんで使う部屋だそうな。(リビングみたいなモンか?)
部屋にはベルハルトとガランの他に6人がいたが、殆どが整った顔立ちをしていて、なんだか敗けた気がした。
「君がヨシタカ君か。息子や家臣を救ってくれてありがとう。さあ、こっちに来て座ってくれ」
気さくなオッチャンだな。
「では、失礼します」
「改めて礼を言う。私はニードラング子爵家当主のバルム・ドン・ニードラングだ。」
「はじめまして、バルム子爵。ヨシタカ・フジワラです。日本という島国の出身で、今は旅をしています」
「ヨシタカ君は貴族の出なのかい?」
「いえ、俺の故郷では庶民でも皆が姓を持っていました。こちらではよく貴族かと間違われるので、あまり姓は名のっていません」
「そうか、失礼したね。色々と話したい事があるが、先ずは私の家族を紹介しよう」
家族紹介はこんな感じだった。
シエナ・ニードラング。バルム子爵の第1夫人でベルハルトの母。
アメリア・ニードラング。バルム子爵の第2夫人。
ベルハルト・ドン・ニードラング。バルム子爵の嫡男。
イリナ・ニードラング。第2夫人の長女でベルハルトの異母妹。
ネリス・ニードラング。第2夫人の次女でベルハルトの異母妹。
おまけでマノン・ニードラング。バルム子爵の異母兄弟でベルハルトの叔父にあたる。
このオッサンは、ずっと不機嫌な顔をしていた。(顔と気配は覚えた)
バルム子爵の家族紹介と共に、家族全員(オマケ以外)からお礼を言われた。仲の良い家族みたいだ。(オマケのマノンのオッサンが邪魔だ)
そうそう、バルム子爵と騎士のガランは同い年で昔からの悪友(親友)で、2人で若い頃はヤンチャをしたらしい。
バルム子爵はとても気さくでいて、物腰も柔かで好感が持てた。
「本当に君には幾ら感謝しても足りないな」
「いえ、偶然通りかかっただけですし、きっと何かの縁でしょう。お気になさらず」
「謙虚な若者だ。それ以外にも、ウチの者が大層美味い食事をご馳走になったのだろう?」
「私は失礼させていただく!」と言って、マノンが出ていった。
「仕方のない弟だ」
そう呟いたバルム子爵はとても残念な表情をしていた。
「そうだ、食事まで時間もあるし、お茶にしよう」
その言葉が終わると直ぐに、バトラがお茶を淹れ始める。
準備万端だったのか、バルム子爵がタイミングを見計らっていたのか、どっちだ?
「俺もそろそろ失礼するよ」
「どうしたガラン、お茶ぐらいいいだろ?」
「帰って来たばかりなんだ、茶はまたの機会にな」
ガランは行ってしまった。
「あいつも隊長になって付き合いが悪くなったなぁ」
「アナタ、ガランさんもお仕事があるのですよ?」
やんわりとシエナさんに、たしなめられている。
なんか想像してたのと違う……。
それから小1時間、7人でお茶を飲みながら俺が作った食事の話で盛り上がった。(俺以外が)
この数時間でわかった事がある。
この世界の貴族は食いしん坊だ!