第31話:金貨200枚
気合を入れて書いたら結構な分量になりました。
これくらいの量が普通なのでしょうか?
宜しくお願い致します。
思考が止まる。
そうか、交代制とは言え、夜中も起きていたら腹も減るだろう。食事の用意を出来るのが、俺だけともなれば随分ともどかしかったろうな。
ちょっと悪い事をしたな、夜食でも準備しとけば良かったね。
俺の配慮が足りなかったぜ、スマン。
「顔を洗ったら直ぐに準備するよ。?、昨日の食器は?」
「それなら、ウチのバーグ先輩が洗っておきました」
このバーグって騎士は簡単な水魔法が使えるらしく、飲水としてはイマイチだが、それ以外の生活用水には役に立つらしい。(馬の飲水もバーグが魔法で出した)
夜の番の間に食器を洗ってくれたそうだ。(水魔法って便利だ)
顔を洗い、用を足す振りをしながら朝食の食材を出す。
今回は食パン7斤・卵2パック・紅茶だ。
昨日の残りのベーコンを1㎝の厚さに切って、ベーコンエッグを作る。1つのフライパンで4食分が作れる。フライパンを2つ使えば同時に8食分。
黄身が固まり出したら、今日は蒸し焼きにせず両面焼きにするので、1食分ごとにひっくり返す。
玉子を焼く間に、昨晩活躍した寸胴に水を入れ、ファイヤーボールをブチ込む、お湯が出来た。
ティーバッグを入れ、大量に紅茶を作ってから、砂糖と牛乳を入れる。(9人分のミルクティーだから大量に作る)
よし、ベーコンエッグが焼けた。
マヨネーズをかけてパンで挟めば完成だ。
「アレン、出来たぞ! 先ずは8人分だ、食べてくれ!」
「もう出来たんですか?先輩方!食事が出来たそうですよ!」
アレンがデカイ声で先輩騎士達を呼ぶ。っと、いうか、既に騎士達は準備万端で待ち構えていたよ。
「寸胴に飲み物を作っているから、各自で注いでくれ。このサンドイッチは1回分ならおかわりを用意してるからな」
言いつつ、サンドイッチを渡していく。
フライパンが空になったが、次の8食分を作り始める。あいつら絶対におかわりをするはずだ!
「これがサンドイッチか? いつものとは違うな?」
「こんな柔らかいパンは初めてだ!」
「朝から卵を使うなんて贅沢だな~」
「分厚いベーコンが旨い」
「中の白いソースもまろやかで美味いですよ」
「お茶も甘くて温かい、美味しいです」
満足してるみたいだな。よかった。
寝ていたエリアスもいつの間にか左肩で、ぷるんぷるんしていたよ。
たぶん、サンドイッチが欲しいのだろう。
「エリアスも腹が減ったのか?」
ぴょんぴょん
なんだか、エリアスのことがわかってきた気がする。
「朝飯も美味そうだな」
「ガランか、よく寝てたな」
「おかげさんで、さっきまでグッスリさ」
「私も普段以上に眠れました」
「2人とも、身体の調子は?」
「お腹がすきましたね」
「俺もだ。あと、喉も渇いてる。水をくれ」
「水もお茶もあそこにある。サンドイッチはもうすぐ出来るから待っててくれ」
サンドイッチも良いが、米が食いたい…………。
◆◆◆◆◆
いやー、みんなよく食う。本当によく食ってたね。
俺とエリアス以外は、サンドイッチをおかわりしてたし、大量に作ったミルクティーも無くなった。
作った甲斐もあるが、ホントにみんな食欲旺盛だったよ。
バーグに食器や寸胴を洗ってもらい、出発の準備をする。
盗賊の3人は水も与えられず、衰弱している様子だが仕方ない。アイツらは騎士やベルハルトを殺そうとしたのだから、自業自得だ。
「ヨシタカ殿、出発しますので馬車へどうぞ」
「ありがとう」
ふと思う。
結局、昨日も風呂に入れなかった。
2日も風呂に入らない事が、こんなに苦痛だと知ってしまった。
風呂に入りたい!
やり場のない思いを胸に、馬車に乗る。
「どうかされましたか? 難しい顔をされていますよ?」
「個人的な事だが、風呂に入りたいと思ってな」
ププッ
「すみません。まさかヨシタカさんが、風呂の事でそんな顔をするとは思ってもいなかったので、笑ってしまいました」
「故郷では風呂に毎日入るのが当たり前だったからな」
「……興味深いですね。まあ、大丈夫ですよ。街に着いたら私が風呂の手配をしますので、もう少しの辛抱です」
「ああ、わかったよ」
「それよりも、ヨシタカさん。こちらが今回、エスタで仕入れた香辛料です」
ベルハルトが箱を出して、中を見せる。
箱の中には栄養ドリンクサイズの瓶が4本入っていて、神眼で見ると、白コショウ・黒コショウ・八角・シナモンの粉だとわかった。(オーソドックスなラインナップだな)
馬車が動き出したので、箱を丁寧にしまった。
「値段は?」
「この1箱で、金貨50枚です。内訳は言えません」
このサイズの瓶が4本で、日本円にして50万円か。
肉をよく食べるなら、コショウや八角は重宝するわな。
「その値段は高いのか?」
「品質は最高級ですから安いですね。領主が購入するからの価格だと思ってください。普通の商人なら、金貨70枚ですか。領地を2つ越えれば、金貨100枚を越える事になります」
「リステリア王国ではニードラング領が1番、香辛料を豊富に手に入れる事ができるのか?」
「はい、であり、いいえ、です」
「なぜだ?」
「ヨシタカさんもご存じだと思いますが、一言で香辛料と言っても、その種類は幾つもあります」
「そうだな」
「エスタのおかげで、海路で大量に荷物を運んでいますが、リステリア王国南部の地域では、陸路で運んでいます」
「陸路なら大量には運べないだろ?」
「そうですね。しかし、そちらからの方が珍しくて貴重な物が多いのです。安定供給ではニードラングが1番ですが、トータル的には南部といい勝負ですかね。」
「塩や海産物だってあるんだ、子爵家は当分の間は安泰だろう?」
「それは否定しません。少なくとも、私の代で落ちぶれる事は考えられません。それは置いておくとして、ヨシタカさん」
「改まってどうした? 腹でも減ったか?」
「近いですね。ご相談があります」
なんだ?
「ニードラング子爵家の次期当主様が、こんな若造に何の相談だ?」
「たぶんですが、歳はあまりかわらないでしょう。単刀直入に言います、昨日の食事に使っていた調味料を譲っていただきたい!」
「肉に使ったヤツか?」
「ええ、あの味です。あの様な味は初めて体験しました。とても衝撃的でした」
「カレー粉は多少なら譲れるが、肉に絡めたタレの方は保存がきかないからムリだぞ」
ヨッシャ!
向こうから、カレー粉の交渉に来やがった。
高級品質の香辛料の値段もわかったし、良いこと尽くめだ。
「カレー粉ですか? そちらはどれくらいもちますか?」
「2、3ヶ月なら風味は落ちない。半年では腐る事もないから、夏場の保存に気をつけてもらいたい。親父さんに食わしてやるのか?」
「いえ、父にも味を確めてもらいますが、あのカレー粉を【ある方】に贈りたいと思っています」
「ある方?」
「はい、詳しい内容はまだ言えませんが、カレー粉を譲っていただけますか?」
「いいぜ。ただし、……値段次第だ」
強気に攻めてみたが、ベルハルトは特に反応はない。
「では、逆に訊きます。先程の瓶で1本分なら、幾らで譲っていただけますか?」
クソっ!
そー来たか‼
値段なんて無い物を高く売ろうとしたら、逆に相手に価値を訊かれてしまった。
この世界の情報を知っていても、物の値段まで【神の知識】は教えてくれない。どうしよう?
いくらで売る?
余裕を持って考える、振りをする。
本当は余裕なんて無い!
どーしよ!
手持ちの金は金貨で300枚分以上あるので、直ぐに金に困る事は無いだろうが……。
こんな交渉になるとは思ってなかった。
だからベルハルトは、さっきの香辛料の総額は教えても、内訳は教えなかったのか……。
やられたーーー!
クソ!
転生モノの主人公が、優秀な立ち回りをする作品がよくあるが、俺はそんなタイプじゃないぞ!
どちらかとゆーと、行き当たりばったりでここまで来た。
どーする?
取り合えず考えよう。
さっき香辛料は4本で金貨50枚、単純に割ると12,5枚だ。
2倍では安い気がする、3倍にするか?
3倍なら金貨37,5枚だ。(3倍は良い、カラフルな彗星だって3倍だぞ?)
そもそも、本当にアレが金貨50枚だったのか?
よし、決めた!
「金貨50枚だ」
「金貨50枚ですか。貴族相手に安過ぎませんか?」
「ニードラングは物も豊かな街だ。ベルハルトに売るなら金貨50枚でいい。他のヤツに売る時はもっと吹っ掛けるさ」
良かったか?
これが正解か?
ベルハルトの反応からは高くはなかった様だ。安かったのかも……。
この世界の物価がわからんだけに、今回は俺の敗けだ。
たぶん、金貨50枚で譲らせる様に誘導されてたんだろうな……。
「で、金額はそっちに合わせたんだ。ある方って誰だ?」
「バレてましたか」
冗談半分でカマをかけたらやっぱりだったよ。
「わかりやすい流れだった。俺の質問には答えてくれないのか?」
「いいでしょう。あまり大っぴらには出来ない政治的な内容ですが、……………」
要約するとこんな内容だった。
①リステリア王国にはいくつかの公爵家があるが、四大公爵家と言われる強大な権力を持つ4家がある。
②四大公爵家は上手いことに、東西南北に散らばっているので、東西南北でそれぞれ派閥を作っている。
③ニードラング子爵家は勿論、東部の派閥に属しており、派閥のトップはレグナール公爵家になる。
④レグナール公爵家の当主の誕生日が近く、誕生日プレゼント用の贈り物を探してたんだって。
⑤ニードラング家は東部派閥でも爵位の割に豊かな家なので、高位貴族相手の贈り物には、毎回の様に苦労しているそうな。
「カレー粉を贈るのか⁉」
「はい、その為に父にも味を確めてもらいます。昨日の回復魔法の報酬とカレー粉の代金に、これまでの食事代、父への料理を作っていただく分を全てまとめて、金貨200枚をお支払いします」
「金貨200枚⁉」