第30話:思考が止まる
「両方です!」
若干だが、ベルハルトの目が据わってる。
「簡単に言えば、こっちの肉にはカレー粉という香辛料を数種類、混ぜ合わせた調味料で味付けしている。もう一方は焼いた肉に合うソースの様なタレっていう調味料を仕上げに使ったのさ。どっちも故郷なら珍しい物じゃないんだがな」
「日本という島国でしたか。さぞかし、食べ物の美味しい国なのでしょうね」
「ああ、いい国だったよ……」
なんか、しんみりとしてしまった。
「おかわりをもらえますか?」
「飲み過ぎじゃないのか?」
「これくらいで酔う訳ないでしょう? おかわりください!」
ダメだ。完全に出来上がってる……。
知的な金髪イケメン坊っちゃんが、唯の酔っ払いに転職していたよ。次は遊び人か?
「はいよ、これで最後だぞ」
「いいでしょう、お腹も膨れて眠くなってきましたしね」
そう言って料理を平らげ、ビールを飲み干して横になった。
直ぐに寝息が聞こえたので、マジで酔っていた様だね。
「ベルハルト様のこんな姿を初めて見た。普段は立派な方なんだがなぁ」
「そりゃあ、貴族のお坊っちゃんが命を狙われる目にあったんだぞ? 酒が入って、美味いもんを食えば気も緩むさ」
「そうかも知れんな」
ガランと会話をしながら、ベルハルトに毛布をかけてやる。
「今回の事は本当に感謝する。もしも、あの場にお前が来てくれなかったら、ベルハルト様や部下達がどうなっていた事か……。ありがとう」
ガランは両方の握りこぶしを地面につけ、深々と頭を下げた。
「気にするなよ。言ったろ? 何かの縁だって」
言いながら新しいビールを注ぐ。
「部下の治療に、飯の面倒まで見てもらった。俺達だけではどうする事も出来なかっただろう……」
40代のオッサンの半土下座なんて見たくない。
謝るのではなく、礼を言われるなら尚更だ。
「そんなに恩を感じるなら、ベルハルトが俺に払う報酬を増やすように言ってくれよ」
この空気を払拭する為に軽い口調で言う。
「ほら、魔法で騎士の怪我を治したろ? あれの報酬だよ。この大陸に来たばかりで、手持ちが無いんだよ。わかるだろ?」
フッ、
「ああ、わかった。バルム様には報酬の件を俺からも話しておく」
「頼むよ。心配事が片付いたし、呑みなおそうぜ」
新たに白ワインを出し、おどけて見せる。
「いいのか? 異国の酒なら高く売れるぞ?」
「酒は自分で飲むから持ってきたんだ。金はこれから稼ぐさ」
「ならいただこうか。しかし、肉もスープも無くなってしまった。味わって、ゆっくり食べたんだがな」
「なければ用意するさ」
ガランに背を向けて、ポテチのうす塩を出して木皿に盛る。
「簡単な物だが酒には合う。止まらなくなるから気を付けろよ?」
パリっ!
うん、この塩っ気がたまらん! ワインでも冷えた白なら合う。
「美味い。これは何と言う食い物だ?」
「ポテトチップス、略してポテチだ。ジャガイモで作っている。この食感と塩気が良いだろ?」
「ああ、酒に合う。芋なんて飽きる程食ってきたが、こんな食べ方は初めてだ! この酒もスッキリとして香りがいい。何の酒だ?」
「白ワインだ。こっちは赤か?」
「ワインは赤いもんだろうが? 何で白なんだ?」
「そーゆー作り方なんだよ」
その後、ガランと2人でワイン2本とポテチ3袋を空けた。
たわいもない世間話や、ニードラング周辺の情報等、面白い話を色々と聞けたのはラッキーだったよ。
しかし、この世界の住人はよく食うね。体が資本の騎士だからかもしれないが、1人あたり約500グラム弱の肉に、6リットル弱のスープがキレイに無くなっていたよ。
パンや干し肉もあったはずだが……。
酒を飲んで、いい気分になったのでこのまま寝てしまおう。後片付けなんて明日すればいい。
全員分の毛布を出して、頭から毛布をかぶる。
そのまま寝た。
◆◆◆◆◆
ウーン、喉が渇いた。
目を開けると辺りは薄暗い時刻は……、6時前か。
酒のおかげか、よく寝た気がする。
身体をおこして辺りを見渡すと、エリアスは俺の腹の上にいた。(寝ているんだろう)
騎士達はみんな動き出していた。(早くないか?)
ガランは………、イビキをかいてまだ寝てる。(飲み過ぎか?)
ベルハルトもまだ寝てたが、相変わらずのイケメンフェイスにイラっと来た。(寝起きに見る顔じゃない)
「おはようございます、ヨシタカ殿」
声の方を向くと、アレンだった。
「おはよう、アレン。夜の番ありがとう、おかげでよく眠れたよ」
「これぐらいお任せください。それよりも、言い難いのですが………」
「どうした?」
「申し訳ありません、……朝食の用意をお願い出来ますか?」
思考が止まる。