第28話:エリアスが興奮してるよ
日常のグルメとシリーズ化しました。
「焚き火でスープを温めてくれ、遠火でな。それじゃあ、飯にするか」
「はい。この肉って不思議な匂いがしていますね」
「これはカレー粉と言って、数種類の香辛料を混ぜ合わせた物で味を付けているんだ。臭いかな?」
「独特な匂いですが不快ではありません。何だか腹が減ります……」
「ああ、料理は期待せずに待っててくれ。これは盗賊のアジトから持ってきたパンだ。毒の心配は無いが、気にする奴には渡さなくてもいいよ。肉とスープがこれだけあれば、腹もいっぱいになるさ」
そう言って、パンと木皿やスプーンにフォークを出していく。レードルも出す。
2つのフライパンで3人分のムネ肉とモモ肉を焼いていく。
ムネ肉は思っていたよりも脂があり、ブロイラーよりもジューシーな肉質みたいだ。モモ肉はしっかりとした肉質で、旨そうだぞ。
流石は魔物、ブロイラーに比べれば肉質が段違いかもしれない。
こいつの【せせり】の塩焼きはどれだけ旨いのだろうか?
想像しただけで涎が止まらん! ビール欲しい!
両方の肉がある程度焼けた頃、他の準備を終えた騎士達が集まりだした。
どうやらカレーの匂い釣られた様だな。皆、固唾を飲んでフライパンを注視している。
ムネ肉のカレー味に対して、モモ肉には味付けはしていない。
このまま食べる訳がないだろ?
味付けは焼き肉のタレだ。焼き上がったらフライパンで焼き肉のタレを絡める。
匂いだけで米が欲しくなるよ。
「こんな匂い嗅いだことないぜ」だの、「香辛料を使ってるのか?」と、周りから期待のこもった声が聞こえてくる。
俺の計画通りだ。
「先ずは3人分が出来たぞ! 誰から食べるんだ? スープはおかわり自由だし、パンもある。熱い内に食ってくれ!」
俺の言葉に反応した騎士達がそれぞれの顔を確認する。
全員が早く食いたいと顔に書いてあったが、年功序列でもあったのだろうか、比較的落ち着いた3人が前に出てきた。
「ヨシタカ殿、先ずは我々からいただこう。嗅ぎなれない匂いだが、とても旨そうだな」
「俺の故郷の味付けだから、取り敢えず食べて確めてくれ」
3人にカレー味のムネ肉と焼き肉のタレ味のモモ肉が載った木皿を渡す。
アレンからは具沢山のコンソメスープとパンも受取り、直ぐに食べ始めた。
俺は俺で、次の3人分の肉を焼く。やることをやって、俺も飯にしたい。
先に食べていた3人や他の騎士達の声が大きかったので、会話が聞こえてきた。
「この香辛料の味は初めてだが、普段の物よりも香りが良くて旨いぞ」
「こっちのソースに絡めた方も、肉の旨みを増す味だ。ウイングバードなんて、これまで何度食ったかわからんが、こんなに旨いウイングバードは初めてだ」
「おい、スープは飲んだか? こんな短時間で作ったのに、色んな味が溶け込んでいるぞ」
「確かにスープも美味い。パンは普通だが、盗賊のパンだからこんなモンか」
「うん、スープも美味いな。ニードラングの高級レストランのスープよりも美味い」
「何時そんな高級店に行ったんだ?」
「この前、カミさんの誕生日に行ったんだよ」
「新婚さんは羨ましいね~」
「先輩方、そんなに旨いのですか?」
「良い匂いですね~」
「自分も早く食べたいです」
なかなか評判は良い様だな。やはり普段は塩をベースに味付けをしているのだろう、薄味にしておいて正解だった。
おっ、そろそろ次の3人分が焼き上がりそうだ。
肩に載ってるエリアスが、落ち着きなく震えてる。腹が減ってるのか?
「エリアス、腹が減ってるのか?」
ぴょん! ぴょん!
めっちゃ減ってる様だな……。
「この次に焼く分が俺達の食べる分だから、もうちょっと待っててくれよ?」
ぴょん、ふーるふーる
わかっているが早く食いたい、と言っている感じか?
我慢させよう。実際に、もうすぐ俺達の分を焼くんだから。
「お次の3人分が出来たぞ、食ってくれ! アレンも食べてくれよ」
「はい! いただきます!」
「待ってました!」
「いただきます!」
3人はパンやスープの準備をして、肉が焼けるのを待っていたようだ。
盗賊のアジトから持ってきたパンも、6人がしっかり食べていたので、そこまで警戒はしてない様だね。
「スープ旨っ!」
「肉も旨いぞ!」
「調理を近くで見ていましたが、凄く美味しいですね。カレー粉とフライパンに入れたソース、両方とも初めての味です」
アレンって新人なんだろうが、何て言うか、育ちが良さそうな雰囲気を感じる。
ベルハルトに近い教養の匂いがする……、気のせいかな?
そうこうしている内に、先に食い始めた3人が食べ終わりそうになっていたよ。(早いな! よく噛めよ)
「ヨシタカ殿、凄く肉が旨かった。おかわりはできるか?」
「すまない、そんなに喜んでもらえるとは思ってなくて、肉の予備は用意してないんだ。スープやパンならあるんだが……」
俺やベルハルト達の分の肉を焼きながら答える。
「イヤ、こちらこそすまない。食事は全てヨシタカ殿に世話になっているというのに、厚かましい事を言ってしまった」
「気にするな。旨いと言ってもらえて俺も嬉しい。後はスープやパンで腹を一杯にしてくれ、干し肉なら盗賊の所から持ってきたぞ?」
「では干し肉も貰えるか? このスープがあれば、パンも干し肉も幾らでも食えそうだ!」
「俺にも貰えるかい?」
「ああ、纏めて渡しておくよ」
おっ! そろそろ焼けたな。仕上げに焼き肉のタレを絡めて、完成。
ベルハルト達に声をかけようとしたが、2人は既に近くで待機していた。
「私達の分ですか? こんなに強い香りがするのに、おあずけですからね。待ち遠しくて来てしまいました。もう我慢の限界ですよ」
「俺も同じだ。何でもいいからなんて言ったが、旨そうなモンを作ったな。ウチの連中が飯食ってはしゃいでるぜ」
「喜んでもらえて嬉しいよ。貴族様や騎士団の隊長様のお口に合えばいいが。さ、エリアス食べようか」
ぴょんぴょんぴょんぴょん
うわーー、エリアスが興奮してるよ。