第16話:眠れそうにないよ
「スライムかよ!」
さんざんビビらせてくれた存在が【スライム】だぜ?
RPGでお馴染みの、プレイヤーに倒される為だけに産まれた、雑魚中の雑魚。
こっちの世界でも、その扱いは変わらない。
子供でも倒せる魔物だ。
踏み潰してやろうかと、近付いたときにわかったが、このスライムは小さい。
夕方に倒したスライムが、バスケットボールサイズの水饅頭だった。コイツは茶碗サイズしかない。
こんなときは神眼の出番だ。
スライム(Lv:1)
<スキル>溶解・吸収
うん。普通にスライムだ、弱いけど。
レベルが【1】って、やる気はあるのか?
この世界は弱肉強食の実力社会だぞ?
ただでさえスライムは弱いのに、小さくてレベル1って!
スライムは微妙にプルプルしてる。
特に攻撃してくる気配はない。
……まさか、産まれたて?
ここで今、産まれたのか?
俺はスライムの誕生に立ち会ったのか?
そんなバカな‼ 実の子供の出産すら予定がないというのに(産んでくれる人を募集中)、スライムの誕生に立ち会うなんて、どんな嫌がらせだよ!
魔物とはいえ、産まれたばかり(タブン)。
倒すのは気が引ける。
どうしよう?
ヤっちゃう?
ちっちゃくて可愛いよ?(何となく)
最近のラノベ界ではスライムの待遇が良くなっている。
テイムしたスライムが優秀だったり、主人公よりも強かったり、一部の作品では人の姿に変身することもある。
スライムは無限の可能性を秘めているって、考える傾向にある。
飼うか? 飼ってみるか?
スライムは雑食でなんでも食べる。
食べるというよりも、栄養のある物を溶かしてから、吸収する性質を持つ。
スキルにそれが現れているよね。
一般的に、スライムは共食いしたり、されたりだとか、新米冒険者に倒されて長生きしない。
だから成長したり、進化する前に死んじゃう。
夕方のスライムでも、一般的なサイズよりも大きい部類だ。
コイツ、どうしよう?
実家でペットを飼った事はある。
ハムスター・猫・犬・ウサギ・金魚を可愛がり、世話した事はあるが、スライムを飼うのは初めてだ。
調教スキルを持っているから、テイム出来る可能性もある。
でも、意思の疎通が出来るのかが不安だ。
……よし!
やめとこう!
コイツは見なかった事にして、場所を変えて寝よう!
流石に倒すのは心苦しいからな。
焚き火もそのまま残して走った。
川沿に全力疾走する事5分。ガチで全力で走った。
持久走のペースではない、50メートル走のペースでだ!
途中、魔物の気配を感じる事もあったが、無視した。
距離にして約5㎞。
今の俺のステータスの恩恵で、全力疾走で5分も走れた。
此処までこれば、あのスライムと一生関わる事は無いだろう。
サラバ、赤ン坊スライムよ!
「ハァ、ハァ、凄いなぁ」
我ながら、自分が怖い。
壊れかけのステータスとはいえ、5分で5㎞走った。
フルマラソンだったら、1時間で走りきる自信が生まれた。
本気で走って喉が渇いた。
寝る前に何か飲もう。
寝酒がてら晩酌でもするか。
ビール2本と缶チューハイ2本にポテチ(のり塩)を、まとめて出した。魔力の消費は19だ。
めんどくさくなり、まとめて出してやったぜ。
新しく焚き火を用意する。
川の水で手を洗って、ポテチの袋を開けた。
「ビールっと」
プシュ!
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、
「っ、ハーーー!」
走ったあとの喉に染みるぜ、コンチクショウ!
おっと!
イケねぇ、半分も飲んじゃったよ。
そうだポテチも
パリッ、バリバリバリ
いいね、この塩っ気。
普通にスナック菓子としては、コンソメ○ンチが好きだが、ビールやチューハイのお供には、うす塩やのり塩が合うと思う。
ポテチを持った後の手を舐めて、ビールが飲めるくらいに。
パリパリ、ゴクゴク、ゴクゴク、バリ、
ビールとポテチの流れを、一生繰り返せる自信がある。(これが永久運動か?)
ビールを1本飲み終えて、次はチューハイに移る。
あとのビールはアイテムボックスでキープだ。
プシュ!
ゴクッゴクッ、クーー!
缶チューハイもいいね。
最近は色んな缶チューハイが売っているが、俺は基本的にレモン派だ。(ちなみにストロングが好き)
たまにライムやグレープを飲むが、レモンが多い。
昔、居酒屋でライチばっかり飲んでた頃もあったっけ。
そんな事を思いつつも、ポテチに伸ばす手は止まらない。
パリパリ、ゴクゴク、ゴクッ、
気付けば、ポテチを食べきり、チューハイもあと2口程か。
少し気分も良くなり、もうちょっと呑みたい気もするが、炭酸は腹が張るので、今日はこの2本で終わりにして寝よう。
これ以上呑むなら、まともな肴が欲しくなるしね。
よし、今度こそ絶対に寝る!
外套をはおり、横になろうとしたとき、ふと思う。
(地べたに寝たら汚れる……)
残りの魔力を心配して、それほど大きくないビニールシートを出して、地面に敷いて横になる。
何も無いよりはましだ。
空を見れば月が浮かんでいた。
よく考えたら、あれは月ではない違う天体だ。
天体か衛星すらわからない。鼻で笑ってしまう。
神の知識でも、そこまで教えてくれない。
そんな事まで、知る必要が無いと言うことだろう。
こちらの季節も秋。流石に朝晩は冷える。
なかなか寝つけず、ついつい面白い星の列びを探してしまった。
地球みたいに、温暖化やオゾン層の破壊とは無縁だから、星がハッキリと見えた。
色んな方角に目を向けると、月の様な天体がもう1つあった。
やっぱり異世界なんだな……。
(眠れそうにないよ)