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【物語】竜の巫女 剣の皇子【第二部】  作者: ヤマトミチカ
いっしょ
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【物語】竜の巫女 剣の皇子 50 朝餉懇談

挿絵(By みてみん)



 心地良い青空が広がる森の中、ルチェイは幼いこどもだった。


 花冠を被り白いフワフワした服を着て、一匹の白い猫を抱きかかえている。猫があたたかいので彼女はとても嬉しかった。

 ルチェイのそばに金冠を被った少年がいて「――。特製の竜だよ!」彼女の名を呼び、足もとの黄金の翼竜に瞳を輝かせる。巻き角の竜はふたりを優しく見つめる。ルチェイは感激した。少年は「――。ずっと一緒だよ」彼女を抱きしめる。ルチェイも「ありがとう、藍理」と微笑む。



「ありがとう」

 ふいに耳元で声がした。驚いたルチェイが目を開けると、彼女はベッドの中でソロフスに抱きしめられていた。

「寒かったからくっついていた」そう寝ぼけ眼で笑う彼を見て、彼女は昨夜からの事を思い出した。

 ソロフスは「ちょっと早いけど起きるか。ルーもいい?」彼女に言うと起き上がりのびをした。

 そうして「ルーは絵本みたいな夢を見るんだな」目を細めて笑った。



 着替えは女官が手伝ってくれた。アーサラードラとは少し違う型の服を纏うと、気分が引き締まる。そうして、なぜ昨夜、兵に自分の身元がばれたか分かった気がした。

「これはナーシャ様がお若い頃、お召しになっていたものです」女官がルチェイの姿を見て微笑んだ。


挿絵(By みてみん)



 朝餉の時間。

「姫はとんでもない方法で入国されたな」ふたりが食事する横に立ち、いろいろ呆れながらも「これでいくしかないか」と腕組みをする。「主上が、藍理のアーサラードラ滞在許可を出した思惑に対し、藍理は『成果』を持ち帰ってきた。その『札』をどうあつかわれるか」

 ソロフスは「勘当されると楽なんだが」と苦笑する。

「阿呆。お前を手放す主上ではなかろうに」真顔で言い返すタバナに、彼は無言で食事を続けた。

 ソロフスはルチェイに「ちびは、宮城の七曜塔にいるレウン導司がかくまってくれている。昨夜、誰にも見つからなければうやむやにしてルー達をアーサラードラに帰す事もできたが、私の『客人』であると言ってしまったし、これから主上に話す事を考えると……少し滞在してもらいたい」

「あとはルー達が瞬間転移した時、宮城に貼られていた『糸』を切って『自動結界』を上空に展開させてしまっていた。普段は皇国魔導師も防衛的観点から瞬間転移を気軽には行えない。うまくやればいいのだが。たまたま平時で『糸に反応する矢』が設定されていなくて本当によかった」静かに説明した。

「これからルーは、できる限り私と一緒にいるように」

 ソロフスはしゅんとした表情のルチェイに言う。

「まずはいちばん安全な、この屋敷の生活に慣れる事から。タバナの他に、女官のテシマにいろいろ聴くといい」そのことばに、近くに立つ、着替えを手伝ってくれた黒髪の女官がルチェイに礼をする。

「あとは人物の説明を。昨夜の犬を連れた者が第四皇子のリオソス・路香。黒髪の凶暴な奴が第三皇子オリデオ・瑞葉。瑞葉は私を目の敵にしている。何かあれば逃げる事。路香は身体が弱いが基本的に無害だ。あとは皇太子のフロド・禮明と二番目のアラフ・啓晶。このふたりは話せば通じる」

「皇子の名を呼ぶときは宮名で呼ぶのが無難だ。私で言う『藍理』の事。私の事は好きに呼んでいい。とりあえず今はこれ位にしておく」

 ソロフスはそう言うと立ち上がる。「今から私は宮城の朝議に行く。既に主上はいろいろ知っている筈。私もさらっと言って、さっさと戻ってくる」

「ひとまず対策はその結果で。姫様は屋敷に。藍理に代わりご指導しましょう」タバナがルチェイを見て微笑む。

 そんなふたりを見て「ルー。私もタバナ大師匠より『宮城内での立ち姿』から教わったよ。がんばれ~」朗らかに笑いながら部屋を出て行った。


 タバナは固い表情のルチェイに

「姫様。昨夜、藍理から姫様の件もいろいろ伺っております」

「藍理は姫様と暮らしたいと。しかし、皇国では今まで、魔導師は直接政に関わる事がなかった。藍理が、魔導師と国皇との子、親王であることは様々な意味を含み得る。魔導師等は藍理に様々な思い入れがあり、その中で魔導師の長、レウン導司は藍理を純粋にかわいがっておられる。藍理と姫が繋がる事はアーサラードラとの関係にも変化が起こりえる。国皇の真意は私にも図りかねるが、ここで藍理はいろいろあるのです」

 穏やかに話す。

「タバナさんは、ソロフスと私の事をどう思われていますか?」

「私は藍理が本当に望むことを叶えましょう。ただし、周りを納得させることも。藍理もそれを望んでいる」

 ルチェイはタバナを見て「私はちんちくりんですが、ソロフスや皇国を理解したい。大切にお付き合いしたいです。よろしくお願いします」と頭を下げた。

「姫様は藍理が望むだけの者であると信じます。磨けば光る玉ならば喜んで鍛えましょうぞ」

タバナは柔らかい笑みを、ナーシャの面影を纏う彼女に向けた。



(つづく)






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