【物語】竜の巫女 剣の皇子 47 ロゴノダ緊急帰国
アーサラードラは北方のロゴノダ皇国と南方のセリグ共和国に挟まれている。
そのセリグ国内、小さくも実り豊かなパルセオの地に魔導剣士ミットマ・ヤードはいた。
「どうしたの?オラクラ・ココ」笑顔のミットマは緑の瞳を煌めかせ、俯く友人に声をかけた。
菫色の瞳に長髪の少女はミットマを見上げつつ
「ミー。わたしのタマちゃんにお知らせがありましたの」輝く紫の宝玉を抱きかかえ、しんみり話した。彼は「僕はどこへ行けばいい?」と、ココに明るく尋ねた。
「アーサラードラへ。ミーはそこで『思い人』と会える、とタマちゃんは申しております」
言いながらココの瞳に涙が溢れる。ミットマは微笑み彼女を優しく抱きしめる。
「ココは優しい子。君の愛を僕は忘れない」
彼女も「あなたの事は、私も皆も忘れません。この地点から必ず同朋のあなたを御守り申し上げます」心を決めた瞳をミットマに向けた。彼はただ頷いた。ふたりの周りに、雰囲気を察した白翼獣や仲間達が集まってきた。
「君たちは妖精を守って」ミットマのことばに皆は寂しげな顔で頷く。
「穏やかなパルセオで過ごせたこと。僕の宝物。皆は幾久しく健やかであれっ」
ミットマは別れの挨拶をすると「ユメ~♪」愛馬の一角獣を呼び、剣を携え飛び乗った
彼の緩く編まれた金色の髪が、風に美しく揺れる。
厳ついユメは燻し銀の螺旋角を振り上げ、ミットマの合図で巫女の国へ一気に駆け出した。
「ロゴノダへは私ひとりで戻る」
季節は如月を数日過ぎ、ソロフスはルチェイに当然のごとく話した。彼女は面食らったが、淡々と自室で帰国の準備をする彼に「次はいつ戻って来るの?」と尋ねた。
「う~ん。上に報告して結果次第で色々。半年もあればこちらに戻れるかな」彼はルチェイに言った。
彼女は明らかな落胆の色を顔に浮かべた。ソロフスはそれを見て「お世話になった方々がたくさんいる。きちんと話をして、後がなるべく困らないようにしたいんだ。ごめん」と訳を話した。
「あなたの大切な事が、ここにいるためにできないのね」ルチェイは先ほどとは違う真剣な面持ちになった。
彼は「あなたの為にやることも私自身が決めた事。あくまでも私の事。大丈夫」最小限にまとめた荷物を剣の横に置いてルチェイに言った。
「明後日までに天候次第で早朝に発つ。必ず戻る。それまで元気で」
ソロフスは彼女に笑みを見せた。
その日の夕餉前、ルチェイはちびに「半年もソロフスと会えなくなる」と悩みを打ち明けた。
『なんだ。そんなことボクが瞬間転移で君を皇国へ連れて行けばいい話だ』
ちびは、にんまり笑った。
「そうか。昔はロゴノダへの瞬間転移は私ひとりでできていたから、寝ているちびに内緒でソロフスに会っていたわ」彼女も思い出した。
『ちょっと試してみようか?』提案するちびに、ルチェイは賛同した。
『では、行くよ!ロゴノダ宮城へ!』ちびはルチェイと共に白光に包まれ、部屋から消えた。
ルチェイは長衣の上にコートを着ていたが、ロゴノダ皇国、宮城上空の凄まじい冷気に驚いた。
『ロゴノダは北わわわわわっ!?』ちびが急に大声を上げ、広大な宮城中央へ引っ張られるように墜落してく。
ルチェイは事態を飲み込めないまま、そのまま垂直落下する恐怖に耐えきれず意識を失った。
イルサヤ宮城の奥内裏では『部屋から姫巫女と竜が消えた』と大騒ぎになっていた。
やっと事態を知らされたソロフスが、剣を携えミカゲを連れてその正門前に駆けつけると、女官のシマジが彼に気が付いた。
「殿下!姫巫女様をご存知ありませんか!?」
「ご存知ないから駆けつけている。侵入者か!?」ソロフスは厳しい顔で周りを見渡す。「探索系魔導を使える者は!?」彼の問いに女官達は途方にくれた表情を示した。
ソロフスは返事を待たずそのまま詞の詠唱を始める。彼の黒い瞳が紫の輝きを帯び出す。瞬間「!?皆下がれ!来るぞ!」彼は抜刀すると標的発現予測地点に睨みを定めた。ミカゲも構える。
その直後。
「こ!こんばんはっ!」青光の円陣と共に現れたのは、象牙色の長衣を纏った青年二人組。その見知った顔にソロフスは唖然とした。
ぼさぼさ黒髪眼鏡の青年は「ああっ!藍理様っ!ジャストヒット感涙!サイメイです!おひさしぶりです!」ソロフスを発見して大喜び。もうひとり、白い長髪の青年は「藍理様!レウン導司より『空から白竜が七曜結界に吸い込まれそのまま保護。おんなのこは宮城のどこかに落ちたので藍理様を呼び戻せ』と極秘指令です。緊急転移を行います!」と真剣な顔で報告する。
ソロフスは「えええええっ!ルー!?なんで!?わかった!ミカゲも一緒に!」声を上げながらの二人組の青い円陣内にミカゲも入れた。
「ロゴノダへ行く!ルーの事は任せろ!聖上に伝えて!」彼はシマジに言うと光と共に消えた。
(つづく)




