【物語】竜の皇子 剣の皇子 70 狩り
緋の巫女は、ソロフスを睨み、冥い眼から岩漿を溢れさせた。
「お前は全部喰らって啜り尽くしてやるよ」
「光栄だな。そなたが果てるまで丁重にお相手しんぜよう」彼も不敵に笑みを返す。
直後、瞳を紫に煌めかせるソロフス。始竜と緋の巫女に炎弾を叩き付けた。緋の巫女は嗤ってそれを受け流そうとする。が、サイメイとソロフスが「炎!」さらに同じタイミングで竜の身体の十倍の炎弾をぶつける。
「くだらねぇ!」緋の巫女がそれをふたりに弾き返そうとその方向を見る。しかしふたりはいない。女は眼前に飛びかかってきたソロフスに顔面を殴られ、地面に叩き付けられた。
「これは利くのか」さらに彼は、緋の巫女の腹に強力な炎弾の拳を喰らわせる。そうして、彼女を始竜から離した。
女が地面から起き上がると、既にソロフスが自身と彼女を赤い光線の結界円陣で囲んでいた。彼は剣を抜き緋の巫女に斬り込んだ。
サイメイは竜の頭を囲う結界円陣そばにおり、空中にいる始竜の身体を別の結界で縛っていた。竜は結界の火縄を千切ろうと、狂ったように藻掻く。あまりの力にサイメイも額から汗が流れ落ちる。
そこに白羽の火矢が多数射られる。原野に隠れ、潜んでいた竜騎隊の第一攻撃だ。白い一角獣に騎乗した魔導武人五名が、地面に浮かび上がった円陣から飛び出し、気を込めた矢を射る。竜の身体に矢は突き刺さらない。が、影響はあるらしく激しく暴れる。
「サイメイ!そこを動くな!」火矢の攻撃が行われる間に、竜騎隊から槍を携えた武人三名がさらに騎乗で駆け込み、竜を標的に数メートルの高さを跳ね上がった。
槍で攻撃する武人と共に、従える白い一角獣も眼をぎらつかせ、その螺旋角を竜に突き立てる。始竜の身体に傷が付き血が飛び散る。「利くな!」竜騎精鋭隊・隊長タバナは「墜とす!!」一角獣を再び跳ね上げさせ、握る槍に火の気を最大限込め、竜に叩き付けた。
始竜はその勢いで、地面に墜落。舞い上がる土埃と轟音の中、五名の騎兵は獲物を囲む。
暴れる始竜の尾に一名が一角獣ごと払い飛ばされ形が砕け、一名が竜の五爪に叩きつぶされた。
「タバナさん!」サイメイが朱槍を構える彼女に叫ぶ。「藍理はひとりでよい!竜を我らが!!」残る竜騎隊三名はサイメイと結界をさらに強める。しかし、竜は完全には捕縛できず、二名が、地面を藻掻き暴れる始竜の胴と爪に潰れた。人と獣の断末魔、血が粉塵と入り交じる。タバナはひるむことなく「おぉおおお!!」雄叫びを上げ、爆炎の槍を始竜に突き刺した。
(つづく)




