【物語】竜の巫女 剣の皇子 64 竜殿の剣士
「嗚呼ああああ!おのれぇ、あの男ぉ!わらわの肌を傷つけおったぁ!憎しや憎し!治してもらわなきゃあああぁあ。グランジャぁああ!」
緋の巫女は鬼と共に去りながら、皇国宮城の逃げ惑う官吏や、立ち向かう剣士を数人薙ぎ払った。結界の矢と騎士等が、鬼を数体倒しはしたが、宮城内は血と怒号が飛び交い、一時騒然となった。
緋の巫女が七曜塔に現れた、同時刻。
アーサラードラ、イルサヤ宮城。
宮城内はどこも暗く、人の気配は竜殿のみである。
その薄暗い中には、白竜のエーテルと聖上ハリュイ、そして魔導剣士ミットマが並ぶ。
三名の眼前には赤い髪と瞳に黒衣の魔女と、馬よりも巨大な漆黒の翼獣が数頭群れをなし、飛び交っている。竜殿の天蓋は既に破壊されていた。
女の隣には白髭の老人がひとり、帯剣して佇んでいる。
「なんだ?お前等だけみたいだね」
黒衣の女はつまらなそうに、ハリュイ達を見て、ミットマに気が付く。
「妖精じゃないか!まだ生きていたの!?もう、ぜーんぶ、食べたはずだったわ。ねぇ?」
女はそばの翼獣を柔らかく撫でる。翼獣は涎を垂れ流し、その大きな嘴から牙を覗かせる。
「あたしはグランジャ。あたしの名前、知ってる?」黒衣の女はせせら笑う。「食べる子には教えてあげているのよ」「そうすると、美味しくなるの」グランジャは赤眼を上弦の月の如く細める。
ミットマは表情ひとつ変えず、黙したままだ。しかし、その緑眼の奥は獄炎を帯び出している。
グランジャは聖上に「おい、ばばあ。お前、もうすぐ寿命なんだってな?緋の巫女が教えてくれたんだよ。『半分こしよう』ってな」薄気味悪く、金切り声で笑う。
聖上は凜として立ち、静かに微笑む。エーテルは金眼を燃やし、最期の力を込め、眼前に睨みをきかせる。
老人はミットマに言う。
「その剣は……!それは儂のものだ!それは玄穂と共に盗まれたもの。玄穂はどこか!玄穂があると聞いて来たのだ!」青白い顔の老人は声を荒げる。
「僕が、この剣の正統な継承者。ミットマ・ヤードだよ」青年剣士は言う。
「ニールの剣を欲しがるのか。ニールの宝物を斬ったのはお前だね。ハセル・ヤード」
ミットマは厳しい顔を示し、手元の剣に、己の荒ぶる決意を込めた。
(つづく)




