【物語】竜の巫女 剣の皇子 42 夜の子
昔々、アルテ・ハルモニアという不思議世界でのおはなし。
ひとりの16歳の少年がともだちの少女に会いに来た。
昨年から急に会えなくて心配だったので、アーサラードラ国イルサヤ宮城を訪ねたのだ。
竜殿に案内され、泉に浮かぶ彼女を見た少年は泣きじゃくった。
「僕のせいで?ごめんなさい……!」
ひたすら涙を流し、詫びの言葉を言う。
「もう戻らないの?」
『戻る』
後ろから低い厳かな声がした。
少年が見上げると、案内してくれた白巫女とは別に大きな白竜がいて、その金眼が少年を静かに見つめていた。
彼は声も出ないほど驚いたが、同時に白竜のあまりの美しさに見とれてしまった。
『我が恐ろしくないとは。面白い』
白竜は大きな牙を見せながら笑う。
「これが夜の子」白髪交じりの白巫女も微笑む。
「僕がルーにできる事はある?助けてあげたい」少年は白竜と白巫女に尋ねた。
白巫女が「夜の子。あなたがあなたらしく生きて」
『望みをひとつ決めること』白竜が伝えた。
夜の子と呼ばれた彼はことばに詰まり、首をかしげながら竜の眼を見つめ返した。
白竜がその頭を少年の間近におろし、自身の大きな金眼を近づけた。少年の身体程もある大きな眼だ。
とても綺麗に輝く、天文羅針盤の様な金眼。
『触れよ』竜は言った。
「眼に触っていいの」
『可』
少年はおそるおそる両手で眼に触れる。金眼に光の波紋が広がった。
金眼を見つめていると色が変わってきた。金色に混じり、ちらちらと青い光が見えてきた。
青や藍や黄色が混じる墨色の中に、キラキラ瞬く光の粒がたくさんたくさん浮かびあがる。
「綺麗な夜空」少年はたちまち引き込まれた。
『これは世界の色』と白竜。
「?」
『ではこれを』竜眼は、今度は透き通る青空を映し出した。
「世界は空の色?」少年は思いつくままに尋ねる。
『空は何色か?』
「青……夕焼けは赤。茜色。夜は黒。夜明けは藍色……とてもたくさん……?」
金眼が再び夜空の色に変わる。無数の星がたくさんきらめく。
『お前が見ている闇夜は夜空と青空の上にあり、世界を包んでいる』
「エーテル。青くて丸い藍玉が見える。綺麗……君の名前も見えた」
『それがアルテ・ハルモニア』
「世界は青く輝いて、丸いの?」少年は目を丸くした。
「どうして丸いの?水の中に浮いているの?泡?宝玉?大きいの?小さいの?」たくさん質問もした。
『小さいとも、広いとも言える。お前の母のいる所とも繋がっている』
「天国?天界とも?」少年の頭の中はこんがらがってきた。
『お前が望めば無尽の時も距離も超え、繋がった世界に触れる事ができる』
ふと、横があたたかくなったので彼がそちらを向くと、白い光に包まれた母が微笑んでいた。
「かあさま」少年の黒い瞳から涙がこぼれてしまう。
『ソロフス……』笑む母の口から声のない声が発せられた。
彼は母に抱きつき、たくさん泣いた。
白巫女も少年の黒髪を優しく撫で、寄り添った。
(つづく)




