冒険者家を買う?(後編)
前後編にしようとしたら後編が異常に長くなってしまいました。
もしよろしければ今回のお話もお付き合いください。
「どうしてでしょうか……」
私はフジ樹海で今までの流れを思い出しながら肩を落としていた。そして、なぜここに来なければいけなくなったかを思いかえしていた。
「……お願いしてもいい?」
「私たちで出来ることならいいよ」
あぁ、ジリアンったらまた安請け合いして……私の視線を感じたのか
「まぁまぁ、関わった以上ほおっておくのも後味がわるいでしょ?」
「そうですね……というか、こう答えると思って言っていますね?」
「まぁ、そうなんだけどね~」
私とジリアンとのやりとりをレミくんもにこやかに見守っていた……レミくんめ……あとで幽霊関係で弄ってやる……ふぅ……
「それで、何を探しているんですか?」
私は気をとりなおしてエレンに聞いた。
「そうね、物はペンダントなんだけど、場所が場所なの……」
「場所……ですか?」
「そう、場所。まぁ、フジ樹海なんだけど」
フジ樹海……現実には富士山の麓に広がる青木ヶ原樹海凶悪なモンスターの出現する巨大フィールド。過去に大規模な崩落があったようで木の根や溶岩に塞がれなかった無数の亀裂と隆起が走っており、天然の城塞、未開の大森林と化している。迷いやすい仕掛けが移動阻害や方向転換、方向感覚を奪う自然の仕掛けやこのフィールド内専用の妖精の輪なども存在する。
「厄介そうな場所ですね……」
「そうね、あと探し物なんだけど、コレと同じペンダントを探してるの」
とエレンは言いつつ首から下げているペンダントを私たちに取り出してみせた。
「大事なものなんですか?」
「そうね……聞きたい?」
どちらかといえば聞きたかったが、なににしろ一度頼まれた事だし聞くのも野暮ですよね……
「いえ、いいです。それに何であれ大事なものなら探さない理由もありませんし」
エレンはクスリと微笑むと
「いいひとなのね、それじゃぁよろしくお願いするわね……あ、そうそうペンダントは金色で裏には私の名前が彫ってあるの目印にするといいと思うわ」
……そして、いざフジ樹海に挑んでみたのはいいが、朝に入ったはずなのに暗いわ迷うわ妖精の輪に私だけ連れていかれるわで踏んだり蹴ったりだった……それでも一応二人には念話で連絡をしておいた。
「それにしても、ペンダントに対しての探す面積が半端なく多いですよね……まぁ二人と別れてしまったのは手分け出来ると思いましょう……うん……はぁ……」
独り言を呟きつつポジティブに考えようとしてもいかんせん溜め息が出てしまう……別れてから何度かモンスターに遭遇したりはしていたが問題なく戦うことが出来ているから余計に独り言に拍車がかかる。
「もうこうなったらペンダントのほうから私のところに来ませんかね……」
なんてそんなありえない事を呟いていると、急に目の前の茂みがガサガサと音を立てて揺れた。私は腰の二振りの刀に手をかけていつでも戦うことが出来るように準備をした……
そして影が茂みから出てくると同時に距離を詰めて刀を抜き放とうとするが……
「うわ!?ちょっと待った!モンスターじゃない!モンスターじゃない!」
と静止する声と身振りによって私は刀をギリギリで止めることができた。
確かにモンスターではなかった相手は狐尾族の女性だった。
「ふぅ、危なかった~……後少しで神殿送りだったかもしれなかったよ……」
「あなたは?それにどうしてこんな所に?」
「あの~……その前にコレ……下げてもらっても?」
私は刀をギリギリ止めたままだった……
「あ……すみません」
刀を引くと彼女は落ち着いたようだった。
「それじゃぁさっきの疑問に順番に答えていくね」
と、彼女は説明する感じで話しだしていた。
「私の名前は奈月、神祇官でレベルは90ね」
「では、私も……私はサクラといいます。盗剣士でレベルは90です」
私の方でも相手……奈月さんのステータスを確認しながら聞き、私も自己紹介をしておく。
「あと、ここに来た目的はあるモンスターを倒しに来たの」
「あるモンスター……ですか?」
「そうそう、それがレベル92のやつでさ~……しかも、ほとんどエンカウントしないもんだからウチも樹海をさまよってるわけなんよ」
と、奈月さんはエヘンと胸をそらせる……流石狐尾族ですね……胸が無駄に豊満さんめ……
「あれ?」
彼女の首と胸の間にぶら下がっている金色のペンダント……見たことがあるような……
「あ~!!」
「え?」
私は勢い余って彼女の首から下げているペンダントをひっつかんだ……詳しく観察をするとやはりエレンに教えて貰っているペンダントと同じだった。そして、裏にはしっかりと『エレン』と名前が彫ってあった……まさか本当にペンダントの方から現れるとは思っていなかったです……世の中そんなご都合主義があるんですね~……
「……ちょ……ぐるじ……」
「え?……あ!」
ペンダントの確認と見つけた事の驚きにペンダントを下げたままで引っ張って結果的に首を絞めていた……
「すみません……つい探し物が見つかってはしゃいでしまいました……」
私はペンダントから手を離して彼女の首を解放する……
「ゴホッ!……ゴホッ!……そんなに探してたものなの?」
「はい、奈月さんほどではありませんが、私と仲間もそのペンダントを探しに来てたんです」
私が説明すると、彼女はなにやら楽しそうな笑みを浮かべた……いつものパターンで嫌な予感しかしない……
「へ~『コレ』を探してたんだ~……ちょっとお願いがあるんだけど……いいかな?」
あ~やっぱりですか……私の中で誰かがパターン乙とか言ってますよ……
「はぁ……欲しければ手伝えばいいんですか?」
「いや、別にどっちでもウチは構わないよ。ただ、目的のモンスター退治を終わらせるまで待ってもらう事にはなるだろうけどね~……私一人だからまだ時間はかかるとは思うよ?(ちらっちらっ)」
既にその時点で私たち……私の回答は決まっていた。
「わかりました……お手伝いさせていただきます」
「ありがと~流石に一人だと大変かな~とか考えてたんだ~」
「いえ、私たちもそのペンダントが必要なので、よろしくお願いします」
と、既に決まっていたかのようなやりとりを終えて彼女……奈月との即席パーティが出来上がった。
念話で二人にも事情を説明して協力する事に了承は得た……まぁほぼ事後承諾だったけれどいいでしょう。ソレしか方法も無さそうでしたしね……
「さて、それじゃぁ二人が来る前に居場所をさがしておかないとね」
「え?」
「『え?』……って、そりゃただ合流するのを待ってるだけだと更に時間がかかるじゃない」
言っている事は解るが、いきなり過ぎて驚いてしまった……
「……そうですね……驚いてしまっただけです。まぁ、無理しないくらいに探しておきましょうかね」
「よし、れっつご~」
……まぁ、世の中そんなに甘くありませんよね……奈月さんと会ったのが昼過ぎで、もうそろそろすると夕方くらいでしょうかね……
「ちょっと休憩しよっか~」
「そうですね……ちょっと」
「伏せて!」
私が賛成をしとすると奈月さんは急に真剣な顔つきになり静かな声でそう言ってきた……
伏せて息を殺していると、『バッサバッサ』と音を上げて上空を何か大きな影が通り過ぎて行った。
「見つけた~!」
奈月さんは急に走り出そうとしていた。私は彼女の腕を掴んで……
「他の皆と合流するまで待ちましょう……」
と、言ってはみるが彼女は聞く耳持たず……
「せっかくお目当てのみならず奴を見つけたんだ! このチャンスは逃すわけにはいかん!」
と言いつつ走って行ってしまう……一緒に行くときに言ってた事と違うし……
あっけにとられていると、すでに見えなくなっていた……更にどんどん離されそうだったので、私もついていく事にした。いざとなれば逃げるくらいはできるかもですし。
……と思って追いかけるていると、既に戦闘の音がしていた……そういえば、奈月さんは神祇官でどう闘うんでしょうか……
追いつくと奈月さんは刀で戦闘をしていた。相手は……『エルダーワイヴァーン』……今まで見たことのないワイヴァーンなのは解った。そして、ソレが奈月さんの目的のモンスターのようだ。
彼女は神祇官の中でも戦巫女と言われるタイプのビルドタイプらしい。接近戦ができるとはいえやはり押されだしたようだ……私は一度止まり魔法の鞄に刀を一本仕舞い盾を出して左腕に装備して、そして奈月さんの場所まで再び走る。
「奈月さん!」
〈スウェルバックラー〉を発動させつつ私はワイヴァーンと奈月さんの間に入る。彼女もその行動等で察したのかワイヴァーンから距離をとり〈禊ぎの障壁〉を私に展開、そして自分も少し回復。そこまでは私は予想していたが、更に彼女は刀から弓に持ち替えていた。彼女は戦巫女と弓巫女の合わせたビルドタイプのようだった。そして、私は更に〈シャープブレイド〉を発動させつつ〈ヴァイパーストラッシュ〉で攻撃し、ワイヴァーンの攻撃力と命中率を下げる。ここまでを打ち合わせ無しだが二人で連携して動けた。
「これは……大変な戦いになりそうですね……」
「まぁ、二人で力を合わせていこう。なんとかなるでしょ」
「了解です」
そんなやり取りをしている間に障壁を貼り直したり更にデバフ効果のある特技を使ったりして闘う。
そして後衛にヘイトがとられそうになると……
「サクラちゃん、スイッチ!」
奈月さんの掛け声とともに私は下がり奈月さんが前に出る。その際には奈月さんは刀を抜いて私はMP回復のポーションを飲む。私は更に投げナイフを取り出して即投擲する。本来回復職である奈月さんに長いあいだ前衛をさせるのはあまりよくないので私の態勢がある程度整うまでの間にさせてもらう。
「奈月さん、スイッチ!」
再度私と奈月さんが入れ替わるそして、今回は奈月さんの負担を減らすために私は舞踏者の使える特技の〈ビートアップ〉を使用する。この特技は発動時は吟遊詩人の〈剣速のエチュード〉とそう変わりのないものだ。しかし、こちらの特技は常時MPを消費していく……最大の特徴はこの特技は段階があり、ゲーム時代にはタイミングよく攻撃を行う(クリックやボタン操作)と次々と攻撃を繰り出せるという代物で最大の段階は6段階くらいが出来る限界らしいがを誰も確認していない。現実になってからも何度か使用していたが、私自身も最大段階は見ていない。
これを使いつつ私のヘイトをできるだけ高くしつつ奈月さんの前衛での負担を減らしながら闘う……そんな風に闘う事にした。前衛と後衛のスイッチを2~3度繰り返すがワイヴァーンのHPはやっと半分削れたのだが、私たちの方はあまり旗色が良くない……私が後衛にまわったときに奈月さんに提案してみる。
「奈月さん……このままではジリ貧ですよ……」
「そうね……」
「一旦引いて立て直しませんか?」
「でも、向こうさんは逃がす気なんかないんじゃない?ぜんぜんまだまだいけるぜ的な気配を感じるよ?」
「でしょうね……仕方ない……少しイチかバチかの賭けになりますが、やってみますか?」
「賛成……分の悪い賭けは嫌いじゃぁないわ!」
その答えが出るのが解っていたかのように盾は既にしまってあり私は元の二刀流に戻していた。
「行きますよ!スイッチ!」
交代すると同時に私は全力で攻撃を開始した。それに合わせて奈月さんも弓の攻撃や魔法で攻撃や援護を行う。今回の前衛後衛のシフトで決めきるつもりなのか奈月さんもレアな神水晶の鏑矢を使いつつ攻撃を行う。私は両手の刀を振り続ける……ワイヴァーンのHPが少し削れる……これでも遅い……まだ早く……もっと早く……特技の段階表示が6・7・8と最大と言われていた6を超えていることに私は気がつかないでただひたすら両手の刀を振り続ける……硬直無視の連続攻撃と出し惜しみのない最大の援護射撃によりワイヴァーンのHPもこの数十秒で一気に削れる……
「ウチの方は矢もMPもこれで打ち止め!」
最後の神水晶の鏑矢を放ち奈月さんは叫ぶ。
私の方もMPと集中力の続く限り斬りつける……一瞬でも気を抜けば連撃が途絶えてしまう……ワイヴァーンのHPも残りミリとなるが障壁ももう無い……ある意味ワイヴァーンとの我慢比べになった……間断の無い連続攻撃がワイヴァーンのHPを削りワイヴァーンの攻撃が私のHPを奪う。しかし、流れは私のほうにあるようだった。私が勝てるかもと思った時にそれは起こった……
『パキン!』
そんな音を立てて刀が両方とも折れてしまった
「……な!」
「……!」
私も一瞬戸惑ってしまい小さな隙が出来てしまう……ワイヴァーンにとってその小さな隙だけで十分だった……ワイヴァーンの体が回転したかと思うと私は肺から酸素を叩き出されて呼吸が出来なくなっていた……私はワイヴァーン尻尾の一撃でHPのほとんどを奪われ、木に叩きつけられていた……
私はふらふらと立ち上がり呼吸を整える……うん、まだ動ける……しかし武器はもう無い……鞄の中にある投げナイフではおそらく削りきることは出来ないだろう……あとちょっとだったのにな……私がそんな風に思っていると奈月さんが叫ぶ。
「サクラちゃん!コレを使って!」
奈月さんから何かを投げると同時に彼女もワイヴァーンの一撃で吹き飛ばされる……投げ渡された物を私は受け止める……二振りの刀だった。
刀のステータスを確認する余裕もなくすぐに鞘から抜き放ち装備、そしてワイヴァーンまで駆け出す……これで終わらせる!
「これで倒れろ~!!!」
無我夢中で叫びながら刀を振る、振り続ける……そして数秒から数十秒するとワイヴァーンは雄叫びを上げて倒れる……それと同時に私も膝をつく……なんとか刀で支えているので倒れなかった……
「サクラちゃん!?」
「サクラ!(さん!)」
二人ともやっと来ましたか……奈月さんの無事と二人が合流したのがわかった時点で私は意識を手放した……
気がつくと私はテントの中だった。
「お、気がついたみたいね」
ジリアンの声がしたのでそちらを見ると三人は食事をとっていた。倒れている間に自己紹介を済ませておいたようだった。
「私は……どの位倒れていましたか?」
「ん~……そんなにたってないかな、せいぜい一時間くらい。」
ジリアンと現状の確認をしたあと起き上がり体調を調べる……よし、問題ない。
「サクラちゃん、はい、コレ」
私は奈月さんからペンダントを受け取る。
「ありがとうございます。私たちは落ち着いたら帰ろうと思いますが奈月さんはどうしますか?」
「そうね……西も一通り回ったから次は東を回ろうかな……とか思っとるよ」
「それでは私たちと戻りませんか?」
私が誘うと奈月さんは少し考えてから
「うん、よろしくおねがいするわ」
と頭を下げた。
数日後、昼までにアキバの街に帰れたのでエレンの待つ家まで行きペンダントを渡す事にした。主のいない家で待ち合わせなのだが……今更ながらに不思議に思ってしまう。まぁ、子供はよくいろいろな場所に入り込む事が多いですからね……今回のもそんな感じでしょう。そう結論づけると家の中でまつであろう彼女に会う。
「お帰りなさい。どう? あった?」
「はい、ただいま戻りました。もちろん見つけてきましたよ」
「あったのね、でも、そうなると大変だったでしょう?」
「ええ……まぁいろいろと」
そんな風に話しながらペンダントを渡す。すると、彼女は嬉しそうにペンダントを首から下げた。すると、突然入り口の方から
「すみませ~ん、誰かいるんですか?」
と大きな声がする私たちが声に反応して振り返っている間に彼女はいなくなっていた……
入り口のドアまで行き開けるとひとりの女性がいた。彼女は大地人らしい。
「はい、どうしましたか?」
私がたずねると彼女は
「あ、いえ、私は今この家の管理を任されている者ですが誰かが入られているとの事なので様子を見に来たんです」
と丁寧に説明してくれた。
「そうだったんですね……すみません鍵が開いていたので勝手に上がってしまいました」
謝ると
「いえ、ご丁寧にどうも……しかし、鍵が開いていたですか?おかしいですね……鍵は私が持っているこの一本だけのはずなのですが……」
と、不思議そうにつぶやいた。
私は嫌な予感がして話題を変えることにした。
「そういえばこの家を管理されているとのことですがこの家は購入出来ますか?」
「はい、それは大丈夫です。必要な手続きをすませてくださいね」
「ありがとうございます」
そんな話をして彼女とは別れ家の中に戻る、鍵については帰る前に声をかけて欲しいとのことだった。
中に戻ると彼女は椅子に座ってくつろいで待っていた。
「そういうわけでこれからよろしくね」
横ではレミ君が気絶していた。
そうして私たちは一軒家(幽霊付き)を手に入れたのだった……
今回もお付き合いいただきありがとうございました。
更新が少々不定期ですが頑張っていきたいと思っています。
※キャラクター紹介
名前:奈月
職業:神祇官
レベル:90
大災害後に関西方面から来たプレイヤーそれまでは西を一通り廻っていたらしい。