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織田と使徒と僕

主人公の出番が少なくなっていきますが、皆さん応援してあげてくださいね!

 情報の少ない殺人鬼を特定するには、まず足を使う。


 現場だ。


 殺された被害者の遺体遺棄現場。

 あるいは、犯行現場と思しき場所。

 捜査は地道だ。

 華やかな逮捕の前に、過酷な忍耐力と集中力が試される。


 殺人鬼の活動時間は、まず深夜だ。

 昼間は人が多すぎる。

 つまり、よほど人目のつかない場所に行かない限り、昼間は安全。

 ゆえに捜査とは、逆に危険な場所へと踏み込まなければならない場合もある。


 この状況も、そうした緊急を要する事態だ。


「へっへっへ……さあ、もう逃げられないぜ? 早く俺たちと遊ぼうじゃねぇか」


 若い女性が一人、数人の男たちに取り囲まれていた。

 女性は恐怖のあまり、畏縮してしまっている。


「そうだぜ? 何も怖えこたぁない」

「そうそう! 逆に天国を見せてヤるからさぁ」


 男たちは三人。

 いずれも喧嘩慣れした空気を身に纏っている。

 時にリーダー格の男は鍛えられた筋肉の持ち主だった。


「オラ、早くこい!」

「ヒッ――!?」


 声にならない悲鳴。

 ケラケラと笑う男。


 それは。

 あの時とまるで同じ。

 村を破壊した男と僕の圧倒的な実力差。


 非道な暴力の前では、力のない正義など無意味に等しい。

 結局は蹂躙され、その無力感に泣くだけだ。


 ――だが。

 今は違う。

 少なくとも、僕には、彼女を助けられる力が、ある。

 200年の歳月を経て培った努力の“力”。


 今こそ、使うべきだ。


 だから僕は、言った!


「その人を――」

「――待てぇぇぇい!」


 耳をつんざく大音量。

 煙を上げながら急速に近付いてくる、正体不明の人間(?)


「お、織田さん……?」


 間違いない。

 息を切らしながら颯爽と現れた正義の味方。

 そして壁に隠れたまま出遅れる僕。


 ………………………。


 ま、まあ、真打ち登場みたいな感じもあるからね………グスッ………。


「お主ら、人間として、男として、恥ずかしいと思わんのかぁぁ!」


 男たちと女性との間にいきなりに割って入り、説教を始める勇敢な僧、織田さん。


 その熱い魂にこそ心を打たれた男たちは、こう言った。


「ジジイがでしゃばんじゃねぇよ!」

「ブッ殺しちゃうよ?」

「舐めた口、引き裂いてやんよ!」 荒れております。


 織田さんの説得に耳を貸さず、男たちは予告もなく殴りかかった!


 女性を庇いながらも、無抵抗ながら暴力に耐え続ける織田さん。

 僧は殺生に厳しい。

 織田さんの無抵抗も、そうした“枷”があるのだろう。


「クソ弱ぇじゃねえか」

「ハッ! 張り合いねぇヤロウだな!」


 ペッ、と倒れ伏した僧に唾を吐く男。


 おい。

 それはやりすぎだよ。


 胸の奥が熱い。

 視線が外せない。

 全身の細胞が“行け”と命じている。


 ああ。

 行くさ。

 さあ、戦おう。

 奴等は哀れな獲物。

 息を潜めるハンターに気付かない弱者。


 さあ。

 狩りの、時間だ。


「お前ら――」

「――待て」


 その声は、穏やかにも響き渡って聞こえた。

 僕がいる場所とは真逆の向こう側。

 そこに、陽炎のような闘気を身に纏う男が一人静かに近付いてくる。


 男たちの身体は震えていた。

 喧嘩慣れしたからこそ分かる、彼我の戦力差。

 相手の力量を計ることは、時として喧嘩以上に重要となる。


「離してやりなさい」


 男が一歩近付くたび。

 彼らは一歩下がる。


 けれど。

 そのまま逃げるには、彼らは若かったのだ。「ハン、なんだよ! お前もこいつみたいにボコボコにしてやろうか!? ああ!?」


 僕は首を振る。


 止めておけばいいのに止められない若さゆえの過ち。

 彼らの前に立つ男は、僕ですらも殺されそうな実力者だ。


 魔導協会が誇る、十人の超人たち。

“執行者”たる者たちの頂点に立つ、ただ一人で万軍に匹敵する存在。


 かは“鋼鉄の使徒”


 ――名を、草薙くさなぎ 時真ときさだ


“鋼鉄王”なる二つ名を持つ、序列5位の破戒僧である。


「てめぇ! ブッ殺してやる!」


 リーダー格の男が意気揚々と挑みかかる。

 たが、草薙にとって、彼は敵とすら見なしてはいない。

 果敢にも彼の間合いに踏み込んだ男は、視認もできない拳で宙を舞う。

 ――それはさながら、人型の風車。

 血飛沫を撒き散らして舞い上がる鮮血遊戯。


 凄まじい一撃だった。

 人が回転しながら宙を飛ぶ、という、目を疑うような光景に、言葉などあろうはずもなく。

 悪魔じみた使徒を前に悲鳴と尿を漏らしながら残された男たちが逃げていく。


 それで終わりだ。

 使徒が相手では、誰が戦おうとノーチャンス。

 ましてや、序列5位の“鋼鉄王”はその肉体を武器とする使徒だ。

 その彼に格闘戦を挑むなど、無謀を通り越した自殺行為である。


 ……あれは効くよね。


 僕は結局、壁に隠れたまま一部始終を見ていただけだった。

 ――っていうか、入る余地なしです。

 むしろ、あのアッパーを食らった男に同情。


 だって、僕も食らったから。


 姉さんの言葉に騙され意気揚々と距離を詰め、武器すら手にしていない彼に『意外と大したことないな』なんて思った後のアッパーカット。


 あの日に感じた13回の“死の予感”――その栄えある第一回目だ。


 忘れたくても忘れられないんだよぉぉぉぉぉ!


 うう…………。

 そんな素敵破戒僧は、その揺らめく闘気を消し襲われていた女性に微笑みかける。


「怪我はないか?」

「は、はい! あ、ありがとうございます! な、なんとお礼を……」

「気にするな。私は人として、彼らの狼藉を制しただけだ」


 年の頃は30代か。

 清潔に整えられた黒髪と理知的な黒瞳が、東洋の出身であることを窺わせる。


「せ、せめてお名前を……」

「いや、名乗るほどの者ではない」


 ………………………。


 お決まりだね。

 ――っていうか、本当なら僕があの立場なんだけどね。


 こう見えても、主人公ですから!


 ………うう………。


「で、でも……お願いします! お名前、お名前だけでも、どうか!」


 ああ、ありゃ一目ボレだね。

 ――っていうか、本当なら僕に恋してたはずなのにね。


 ………………………。


 チッキショォォォ!?


 こんなの見てられるかぁぁぁぁぁ!


 帰る!

 もう僕は帰る!



 そうして再びカフェ。

 コーヒーを頼んだままテーブルに突っ伏してる僕に。


「……お兄ちゃん。私、やっぱりお仕事、頼んであげよっか?」

「ダメだよ、ピア。男は、人生の壁を自分の力で乗り越えないと」


 心優しい兄妹に、応援してもらったのだった。

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