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殺人事件

更新が遅れてすみません。頑張ります。

 夢を見た。

 とても懐かしい夢だ。

 僕の、村。

 今はもう、なくなった遠き故郷。

 僕が生まれ育った村は山奥にある。

 人口はわずか千人。

 本当に小さな村だ。

 でも。

 そんな何もない村でも大自然に囲まれた満天の星空だけは、とっっても綺麗だったんだ。

 それは、子供ながらに感じていた、僕の村の、唯一の自慢だった。


 そして、唯一の自慢が蹂躙された。

 下卑た笑い声。

 人間を見下した視線。

 昨日まで、ごく平穏に過ごしていたはず日常がたった一人の気紛れで、あっけなく壊れていく。

 みんなから頼られてた高齢の村長も。

 隣家でお世話になった仲睦まじい老夫婦も。

 ついさっきまで一緒に遊んでいた友達も。

 少ないながらも夕食を作ってくれた母も。


 みんなみんなみんな!


 アイツに殺された!!


 僕は戦った。

 そして負けた。

 その、人ならざる力はあまりに圧倒的すぎて、立ち向かった誰もが逆に殺されていった。


 僕だけが助かった。


 それが姉さん。

 アイツは逃げるように去って。

 姉さんは、傷だらけの僕に手を差し延べた。


 それが17歳の冬。

 僕と姉さんが出会った運命の日だ。


 あれから僕は姉さんと行動を共にしている。

 僕の目的は二つ。

 幼馴染みを殺した男を殺すこと。

 そして。

 僕の村を破壊した男を殺すことだ。


 それが僕の誓い。

 無力さに泣いた悪夢の一人きりの誓いだった。「……うう……あ、頭がガンガンする……」


 目覚めて早々、右頬のとてつもない痛み。

 それはもう、右の歯がぜんぶ虫歯になっていてお祭り騒ぎしてるような感じ。

 はたメーワクなこと、このうえない。

 でも、その原因自体はすぐにわかった。


「……良かった……顎がまだ残ってて……」


 ビンタだ。

 あの、絶妙な力加減で振り抜かれた、姉さんの殺人ビンタ。


 死んだと思った。


 いや、マジで。


 だって“使徒”よりもぜんぜん怖いんだもん。

 触らぬ魔人にたたりはなし。


 ――でも。


「あ、やっと起きたか、鼻血ブバーマン」


 思い出したくもない、前回のトラウマ。

 軽快なフルートの如き可憐な声質の持ち主は、この隠れ家の中においてあの人しかいない。


「うう、姉さん。せめてそれだけは――」


 止めて。

 そう言おうと、後ろに振り向いた瞬間。


 ………………………。


 一億年でも♪

 二千万年でも♪

 ア・イ・シ・テ・ル♪


 素晴らしいの一言。

 ポニーテールの髪。

 赤縁の眼鏡。

 ミニスカニーソ。


 無敵艦隊もびっくりのトリプル役満!


 むっちむちのボディにぴっちぴちの教服。

 いったい何人の男性を悩ませるつもりなのか。

 でも。

 そんな姉さんが大好きです!


「アル、いつまで寝てるのよ。もう昼よ? ほら、早く着替えて」


 そう言えば忘れてた。

 僕の下は前回の失態で汚れてたんだっけ。


「う、うん。ごめんね、すぐ着替えてくるから」


 確か今日は僕が昼食を作る番だったっけ。

 ご飯については交替制で、いつも姉さんの料理に下を巻いている。

 僕もそこそこだけど、姉さんに比べれば足下にも及ばない。ましてや、世界中を3000年近くも生きてきたんだ。その種類と技量たるや、この世界で太刀打ちできる人はまずいない。


 僕はサッと身体の汗を拭いてから、服を手早く着替えた。

 今日は故郷の料理。

 リビングで待ち続ける姉さんは、紅茶を飲んでくつろいでいた。


「出来たよ〜」


 出来た二人分の昼食をテーブルへと運んでから席に着く。


「遅〜い。もうお腹ペコペコ〜」

「ごめんごめん。

 今日は僕の故郷料理。でも、実はあまり覚えてなかったから、思い出しながら作ってみたんだ。きっと口に合うと思うんだけど……」

「うん、だいじょぶ♪ 空腹は最高の調味料ってね♪ さてさて、それじゃあ……いっただっきま〜す♪」


 上品にスプーンを口に運ぶ姉さん。その表情は満足げだった。

 僕も一口食べてみる。ほぼ、完璧に再現できた昼食に、僕たちは上機嫌で平らげていく。「そういえばさ、アル、知ってる?」


 不意に姉さんが尋ねてきた。


「何を?」

「最近、近くの町で殺人事件が起きてるらしいのよ。怖いね〜」


 怖いのは姉さんです。


「殺人事件って、それはまた穏やかじゃないね」

「そ〜なのよ。おかげで私みたいなか弱い女の子なんか、夜も怖くて眠れないし……」


 誰が“か弱い”のか。

 少なくとも、この隠れ家にはいないよね。


「それって、いつ頃?」「初めは一ヶ月前から、かな。フツーの殺人には興味ないけど、これには別の興味があるのよ」

「興味って?」

「人肉食い」

「ブッ――」


 むせた。


「ね、姉さん! 食べてる時にそんなこと言わないでよ!」

「死体が死体じゃないんだってさ。まるで食べ散らかしたような感じだって、オっちゃんが言ってた」


 オっちゃん……?

 ああ、織田さんのことか。

 確か、日本の僧だったっけかな。姉さんが国宝を盗んで以来、ず〜っと追いかけてくる地獄耳。

 ホント、魔術も使えないのにどうやって的確に追いつくんだろう?


「織田さんに会ったって、よく無事だったね?」

「まあ、直接会ったわけじゃないしね。散歩してたら、たまたま話を聞いちゃっただけだから」


 なるほど。

 姉さんは“変身能力”を持っている。

 他人に成り済ますことも、小動物にもなれる。

 変幻自在、神出鬼没。

“怪盗トリックスター”の名は、伊達じゃない。


「相手はカニバリズム、なのかな?」


 人肉食いの殺人事件。

“食のタブー”を犯した殺人鬼が、町にいる。


 ………………………。


 見て見ぬフり……?

 ……僕は……。


「私も詳しいことは知らないの。だから、調べてきて♪」

「――へ?」

「世のため人のため……アルくん、頑張って♪」


 つまり、姉さんは興味はあるけど、面倒だから僕に調べさせたいのか。


「でも、昼間の授業はどうするのさ。僕はまだ……」

「それは帰ってからね。あと、この町に“使徒”が来てるみたいだから、気をつけて♪」


 天使の微笑みに隠れた悪魔の宣告。


「い、いや、あの……なんで“使徒”が……?」

「どうせ私を追ってきたんでしょ? 相手は序列5位……前にアルが戦った使徒よ」


 マジですかー!?


「ム、ムリだよ! 思いっきり面がバレてるし! 勝てないよ!」

「ああ、大丈夫大丈夫。アイツは町中でドンパチやらないわよ。基本的に平和主義だから、気付かないうちに殺してくれるって♪」


 いやぁぁぁぁ!?

 行くも地獄。

 退くも地獄。

 でも、その二つしか、僕の道はない。


「うう……わかったよ。とりあえず調べてみる。けど、別に犯人を捕まえるわけじゃないんでしょ?」

「それはアルの役目よ。調べていくうちに突き当たる壁だし、実践あるのみよ♪」


 つまるところ。

 四の五の言わずに早く行け、ということだ。



 こうして。

 僕はプロフィールすら紹介できずに――。


 ――後味の悪い。

 悲運の哀しい物語に、その終止符を打つことになろうとは。

 この時の僕はまだ……知る由もなかった。

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