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ビクビクびーさんとワクワクわっくん

 びーさんは、かみが長くて色白のほっそりとした女の子です。

 いつも何かをこわがって、ビクビクしているビクビクやさんです。


 びーさんのかみが長いのは、さんぱつする時のハサミがこわいからです。

 うっかり首まで切れちゃうんじゃないかと思った日から、かみを切れなくなってしまいました。


 びーさんがやせているのは、食べる事がこわいからです。

 これを食べたらおなかがいたくなるかもしれない。と思うと、もういけません。

 おなかがすいてたまらなくなった時に、ほんのすこし食べることしかできなくなりました。


 びーさんは、お出かけなんかほとんどしません。

 だって、外には車やじてんしゃがはしっています。じこにあうかもしれません。だれかにぶつかってころんでしまうかもしれませんし、お金をおとしてしまうかもしれません。

 かんがえはじめると、外にはあぶないことがいっぱいに思えて、びーさんはげんかんから出られなくなってしまうんです。


 びーさんの一日は、こんなふうになにかをこわがっている間におわってしまいます。

 外にはたのしいことがいっぱいあるのに、もったいないですね。



 たのしいことが大すきなのが、ワクワクわっくんです。

 わっくんは、まっ黒にひやけしたげんきな男の子です。

 いつもおもしろいことを見つけてはワクワクしているワクワクやさんです。


 わっくんはとても早おきです。今日はなにをしようかとかんがえると、とてもねむってなんかいられなくなるんです。

 わっくんは、あさごはんを口の中につめこむように食べてしまうと、ビューンと外にかけだします。

 外にはたのしいことやおもしろいことがいっぱいで、見たいものしたいことがたくさんあります。


 わっくんは、ここで虫を見つけたかと思うと、むこうでおじさんに話しかけ、あっちでサッカーをしている子たちのなかまいりをし。といったぐあいに、ちっともじっとしていません。


 わっくんは、なにかをしているときに、もっとおもしろそうなことを見つけると、はしって行かないではいられないんです。


 そんなふうですから、わっくんはわすれもの・おとしものの名人です。

 たのしくなると、もっているもののことなんかどうでもよくなってしまって、いつもなにかをなくしては、あとでこまってしまうんです。


 そうそう、いいわすれていましたが、わっくんはしょっちゅうけがもします。

 それはそうですよね。たのしいことにむちゅうになったわっくんは、足もとなんか気にしていませんもの。ころんでしまってもしかたありません。


 どうしてものをなくすのか。どうしてけがをしてしまうのか。

 わっくんにもわかっています。けれど、ワクワクをおさえることが、どうしてもできないんです。


 ほんのちょっと気をつける。というのが、わっくんにはとてもむずかしいことなのです。



 そんなわっくんが、ある日びーさんの話をききました。


「へぇ、よの中には、そんなビクビクやさんがいるのか。おもしろい。会いにいってみよう」


 思いついたら、わっくんをとめられる人なんかいません。

 わっくんはビューンとまっすぐに、びーさんのおうちまではしっていきました。


 びっくりしたのはびーさんです。

 きゅうにしらない人がたずねてきたら、あなたもびっくりするでしょう?

 ビクビクやのびーさんは、あなたの百ばいはびっくりしました。


「あの、どちらさまでしょう?」


 びーさんは、いつもどおりビクビクしながらたずねました。

 しらない人と話すなんて、びーさんにはとってもおそろしいことですから、声も小さくふるえています。


 そんなことにはおかまいなしのわっくんは、びーさんがかわいい女の子だったことがうれしくて、ピョンピョンとびはねながらこたえました。


「ぼくはわっくん。すごいビクビクやさんがいるってきいて、会いたくなってやってきました」


 わっくんがあんまり大きな声でこたえたので、びーさんはまたまたびっくりしました。目をまんまるに見ひらいて、耳はキーンとなっています。

 けれど、こんどはおどり出したわっくんを見て、にっこりわらいました。

 かおいっぱいでわらっているわっくんを見ていると、だれだってわらわずにはいられなくなるんです。


「わたしがびーさんです。あなたは、とってもげんきでたのしそうな人ね」


 おだやかにびーさんがこたえる間も、じっとしていられないわっくんは、クルクルまわっています。


「ありがとう。きみはとてもものしずかで、やさしそうだ。それに、すごくかわいくて、びっくりしたよ」


 ほとんど外に出ないびーさんは、よその人にほめられたことなんかありませんでしたから、とてもうれしくなりました。


 はずかしそうにほっぺを赤くしたびーさんを見て、わっくんもちょっとはずかしくなりました。

 はずかしくなったからって、ポンととんぼをきるなんて、きっとわっくんだけでしょうけどね。


 はじめてあう人なんて、とってもにがてなはずのびーさんでしたが、わっくんのことはなぜか一目ですきになりました。

 ふしぎなことに、わっくんもびーさんといると、つぎのおもしろいことにはしって行く気になりません。

 こうして一目でおたがいを気にいった二人は、あっという間になかよしになりました。


「どうぞ、中に入っておちゃでもいかが?」


 びーさんがお友だちをおうちにまねくなんて、はじめてのことです。ドキドキしながらわっくんをさそいました。


「わあ。ありがとう」


 はじめてのおうちにおまねきされるって、ワクワクしますよね。

 わっくんは、あなたの百ばいワクワクしましたよ。

 あんまりワクワクして、もうすこしでくつをぬぐのをわすれるところでした。


「くつくつ!くつをぬいでね!」


 びっくりしたびーさんは、いつもよりずっと大きな声でいいました。

 そのあとで、ビクビクやのびーさんは、しつれいなことをいったんじゃないかとしんぱいになりました。


「やあ。ありがとう。ぼく、ワクワクすると、ほかのことをわすれちゃうんだ」


 わっくんはちょっとはずかしそうにいいながら、くつをぬぎました。


 ちゃんとくつをぬぐつもりだったんだ!とおこられるかと思っていたびーさんは、ほっとしてわっくんのことをもっとすきになりました。


「花があるね、なんていう花?」

「スイセンよ。気をつけてね、どくがあるんですって」


 げんかんからおへやにつくまでのみじかい間にも、わっくんはおもしろいものをつぎつぎに見つけました。

 びーさんのおうちは、わっくんのしらないものでいっぱいです。なによりも、びーさんとするお話がおもしろくて、わっくんはワクワクでむねがはじけそうでした。


「本がたくさんあるんだね」

「わたしはあんまり外には行かないから、本をたくさんよむの」


 びーさんにはつまらないふつうのものも、わっくんにはとてもふしぎなものに見えるようです。

 わっくんと話していると、いつものおうちがちがって見えてくるようで、びーさんはちょっぴりワクワクしていました。


 二人は、なかよく本の話をしながらおちゃをのみました。


「とてもおいしいおちゃだね。そうだ!このちかくに、おいしいケーキやさんがある!いっしょにかいに行こう!」


 おちゃがとてもおいしかったので、わっくんはケーキもあればもっといいと思いつきました。

 すてきなかんがえにワクワクしてしまったわっくんは、びーさんが行きたくないといっているのもきこえません。

 びーさんの手をつかむと、ズンズンあるき出してしまいます。


「まってまって!おさいふをもって行かなきゃ」


 わっくんは、びーさんにいわれてまっている間も、トントンあしぶみしていました。

 ほんとうは、いつものようにビューンとかけだしたいのをがまんしているんです。


「はやく行こう!すごくおいしいんだ。きみも気にいるよ!」


 わっくんは、はやくびーさんにおいしいケーキを食べさせたくてウズウズしています。

 びーさんがおいしいといって、にっこりわらうだろうと思うと、まちきれません。

 びーさんがいろいろちゅういしてくれているのに、うるさいと思うくらいでした。


「気をつけて!車がきてる!」


 びーさんは、わっくんに手を引かれながらも気が気ではありません。

 わっくんときたら、くつをはかずに出て行こうとするし、カギをかける間もピョンピョンしているし、よくたしかめもしないではしり出そうとしてしまうんですから。


 二人がケーキやさんにつくころには、ドキドキしすぎたびーさんは目がまわりそうでした。


「ね?すてきなケーキやさんだろう?」


 わっくんにいわれて、やっとびーさんはケーキやさんについたことに気がつきました。わっくんのぶんまであぶないことがないか気をくばるので、せいいっぱいだったからです。


「わあ。すごくおいしそうなケーキ」


 そこは、ほんとうにすてきなケーキやさんでした。


 ほとんど出かけないびーさんは、こんなすてきなケーキやさんがあるなんてしりませんでした。たくさんならんだケーキを見て、うっとりしてしまいます。


「どれにする?はやくかって食べよう!」


 わっくんはとくいになって、むねをはりました。すぐにでもケーキを食べたくて、まちきれません。ピョンピョンはねて、びーさんをせかします。


 いつものびーさんなら、やっぱり食べられないといいだすところですが、きょうはすぐにケーキをかいました。だって、わっくんが目をキラキラさせてまっているんですから。


「わっくん!まって!ケーキをもらわなきゃ!」


 おつりももらわず、ケーキももたずにケーキやさんを出て行こうとするわっくんを、びーさんはいっしょうけんめいとめました。

 せっかくケーキやさんに行ったのに、なにももたずにかえるなんて、いやですものね。


 かえり道でも、びーさんはたいへんな思いをしました。

 足もとを見ていないわっくんに、びーさんがあぶないところをおしえてあげなければいけません。それに、わっくんがとびはねるたびにおとすハンカチやおさいふも、ひろってあげなくてはいけません。

 ほかにも、わっくんはびーさんがしんぱいになるようなことばかりしているんですから。


 やっとおうちについたときには、びーさんは心からほっとしました。



 びーさんがおさらやフォークのよういをしていると、ケーキのはこをあけたわっくんがきゅうにしょんぼりしました。


「ごめん。ぼく、ケーキのはこをもったままとびはねたから。ケーキ、つぶれちゃったみたいだ」


 おみせでは、とってもきれいだったケーキは、クシャンとつぶれてしまっていました。

 イチゴもとれて、おっこちているし。ツンとかざられていたクリームも、へんなかたちにゆがんでいます。


 わっくんも、びーさんも、とてもがっかりしました。

 とくにびーさんは、せっかくにがてなお出かけをがんばったのに、と思うとがまんできませんでした。


「どうしてケーキのはこをもって、とびはねたりするの!わっくんのばかっ!」


 ばか!なんて、びーさんはいったことがありませんでした。けんかなんてしたことがなかったからです。

 だって、わっくんがはじめてのお友だちですから。


 わっくんは、おどろいてピョンととびあがりました。


「ぼっ、ぼく、あたらしいケーキをかってくる!」


 わっくんは、おおあわてでかけだしました。

 わっくんはいつもはしっていますが、こんなにかなしいきもちでかけだしたのははじめてです。

 びーさんをよろこばせたかっただけなのに、どこでまちがってしまったのでしょう。


「ぼく、びーさんがいろいろいってくれたのに、ぜんぶきかなかった。うるさいなんて、ちょっとばかにしてたんだ」


 ちっともワクワクしていないわっくんは、たちどまりました。

 おさいふも、くつも、みんなびーさんのおうちにわすれてしまっていたのです。



 わっくんが出ていってしまったのを見て、びーさんもかなしいきもちでした。

 わっくんがわざとケーキをこわしたわけじゃないって、びーさんにもわかっていたからです。それなのにあんなに大きな声でおこってしまって、どうしていいかわかりません。


「ドキドキしたけど、思ったより外はたのしかったわ。わっくんのおかげで、すてきなケーキやさんにも行けたし」


 びーさんはビクビクするのをやめて、わっくんをおいかけることにしました。

 わっくんのわすれていったおさいふを、とどけてあげようと思ったのです。


 びーさんがドアをあけると、そこにわっくんが立っていました。

 わっくんも、わすれものをとりにもどってきていたのです。


「ごめんね」

「ごめんなさい」


 二人はいっしょにあやまりました。


 びーさんのビクビクのおかげで、わっくんはけがをしませんでしたし、なにもなくしませんでした。

 わっくんのワクワクをすこしもらって、びーさんはたのしくなりました。


 一人でいるよりも、二人でいるほうが、ずっとたのしくてしあわせです。


 そのことがわかった二人は、にっこりわらって手をつなぐと、なかよくおうちにはいって行きました。


 いっしょに食べたケーキは、つぶれてしまってはいましたが、いままでに食べたどのケーキよりもおいしかったそうですよ。

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