お前
「お前は、なぜ俺を殺さない」
しばらくしてから、彼女が発したのは
「私は人間的で人間的なのかもしれない」
という言葉だった
俺には理解ができない
彼女たちには、俺を殺すというのが、最も簡単で確実な方法であることに違いない
そして、俺たちはいわゆる"一般的"と呼ばれる者たちから離れたところにいる。
俺たちにとっては殺しも1つの手段でしかない。
俺らの中ではそれは何も間違っていない
でも、彼女はそれを拒んだ
俺には理解ができない
最善の策以外を選択する理由が
でももっと理解できないことがある
彼女がそれを拒んだとき、俺が感じた"何か"の正体が
自分のなかに自分の知らない何かがいる
一般的な人たちはこれをいわゆる"恐怖"と呼ぶのだろう
でも恐怖とは何かが違う
そもそも彼らと遠く離れているはずの俺が、それを主張すること自体滑稽なことなのかもしれないが
だが、たしかな感覚としてそれを感じる
その"何か"が恐怖以外の感情を示しているのかもしれない、いやむしろ何かしらの感情そのものなのかもしれない
だからこそ、俺は今、恐怖と呼ばれるものではない何かの感情を得ているのだろう
なるほど、そうか
俺が感じていたもの
それは極めて人間的なものなのかもしれない
彼女の言葉を借りれば、人間的で人間的なもの
だからこそ、俺には彼女の言うことが理解できないのだろうか
自分のなかに生まれているその、人間的で人間的なものをそうだと確信できないのだから
俺は彼女に言ってみる
「俺は人間的で人間的なものに最も近い所にいるけど、最もその隔たりを越えられないものかもしれない。」
彼女は言う
あなたは
「最も人間的で人間的なものに成りきれない人間」
だからこそ、私は人間的で人間的になれたの
と彼女は付け足す