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受験戦争  作者: 西内京介
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序章

 どうも。かなりしばらくぶりの投稿になります。西内です。

 この小説は、自分の中でもまあまあ納得のいく作品に仕上げることができた、と思います。三人称で長編を書き上げられたことで若干テンションがあがっているからかもですが。

 皆様に最後まで読んでいただければ、これほどの幸いはありません。

 

 青年は目を閉じ、自分の生命を確かめるように、ゆっくりと息を吐いた。両手を広げ、風を全身で受け止めようとしている。

 気持ちいい――。

 口には出さず胸中で呟いた後に、青年は再び目を開け眼前に広がる光景を、まるで無邪気な子供のような気持ちで見下ろしていた。

 この町は、なんて綺麗なのだろう――。

 青年は思ったことを口には出さず、胸の内で呟いた。口にしたところで、自分の気持ちを分かち合う人なんてこの場にはいないのだからという、諦めにも似た思いがあったからだった。

 一瞬、強い風が吹きつけ青年は危うく落ちそうになったが、なんとかフェンスの網を掴み、堪えた。

 風なんかに殺されてたまるか、どうせ死ぬなら自分で――。

 その決意は固かった。揺らぐことなく、遺書を書き、屋上のフェンスを乗り越え、ようやくここまでやってこられたのだ。風のせいで、生涯を終えることがあってはならない。

 しかし、後一歩。後一歩を踏み出すことが出来なかった。

 もう少しなのに――。

 悔しさと、自分の情けなさに涙を堪えきることができなかった。

 まさか、後悔しているのか――。

 心の底から涙を流している自分に気づき、自問した。残念ながら、答えを出すことは出来なかった。

 もう十分じゃないか――。

 その時、学ランのポケットに入れてあった携帯が震えた。誰かから、着信が入ったのだ。

 自殺する前に人と話すのは、あまり気が進まなかった。人と話すことにより、死への躊躇いが生じてしまう可能性があったからだった。

 どうすればいいか、そう迷っていると携帯が鳴り止んだ。

 慌ててポケットに手を突っ込み、携帯を取り出した。画面を開いて、かけてきた人物を確認する。

 それは、この学園で唯一の友達からの着信だった。

 数秒迷った挙句に、青年は自ら友達の携帯に掛け直した。

「もしもし……」

 会話は数分続き、青年は携帯を切って夕空を仰いだ。

 あいつは何を考えているんだか――。

 口元に微笑を浮かべながら胸中でそう呟くと、フェンスに背中を預けて携帯をポケットにしまった。

 本心から言うと、友達からの着信は嬉しかった。けど、やはり複雑な心境であった。

 揺らぐ決意――ここまで来たのに、また引き下がることになってしまうのか。

 顔に、いよいよ突き刺さるような痛みを伴う風が吹いた頃、後ろのほうでドアノブが回る音がして、反射的に青年は振り向いた。

 ドアは、まるでスローモーションのようにゆっくりと開いていく。青年はそれをじれったく思い、歯軋りをした。

 早く来いよ――。

 やがて、ドアは完全に開かれた。


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