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ヴィムの旅するハンチング  作者: 空丘ジル


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11/12

また逢う日まで

七日目の朝。お世話になった人たちに、もう一度会ってお礼を言いたいなあと思っていると、ワトスンさんが、往診の前に寄ってくれた。

「ひざの手当てをありがとうございました。あと、お部屋も貸してもらってすみません」

「いやいや、あの部屋はぼくが使っていたというだけで、もうぼくが住んでいるわけじゃないからね。ホームズを手伝ってくれたそうだね。どうもありがとう」

ぼくたちはしっかりと握手をした。ワトスンさんはゆったりとホームズさんのとなりの椅子に腰かけた。二人でいるのはやっぱり絵になるなあと思う。


遊撃隊の少年たちも来てくれた。みんな口々に言う。

「とっても面白かったぜ」

「また来いよ」

「たのしかったね」

「ヴィム、すごかったな」

「元気でね」

などなど。クリスはぼくに抱きついて、もう泣き出しそうだ。


質屋の店主のおじさんもプレゼントを抱えて来てくれた。

「はい、うちの店のもので悪いのだけれど」

と照れながら渡してくれたのは、大きなビッグ・ベンの置物だ。

「ありがとうございます。大切にします」


キンさんも来てくれた。

「気を付けてお帰りよ。長い船旅だからねえ」

「キンさんは、こちらに来るとき、何日かかったのですか?」

「九月八日に横浜港を出港して、十月二十八日にロンドンに着いたのだ」

「うわっ、大変ですね。お帰りの際は、どうかご無事で」

「うん、ありがとう。あれっ、こちらが見送りに来たのだがなあ」

ぼくたちは、アハハと明るく笑った。キンさんは言った。

「ぼくはね、君のホームズやほかの英国人たちと交流する姿に感銘を受けたのだよ」

ぼくは驚いて言葉に詰まった。

「ぼくは一人で拗ねて、被害者になった気分でいたのだよ。昨日は変なことを言ってしまったね。気にしないでくれるかい?」

ぼくはうなずいた。

「ところで、ヴィムは何という種類の犬なのかい? ぼくも日本に帰ったら、彼のような犬を飼いたいなあ」

ぼくは少し考えて、言った。

「ヴィムみたいな犬、他に見たことがないのです」

「確かに、どんな犬を飼っても、ヴィムほど賢くはないから、がっかりするかもしれないなあ。猫にしておくか」

そう語るキンさんの目はいつもより明るく、ぼくは心の中でキンさん、がんばってと応援した。


ハドスン夫人は、あのときはごめんなさいねとヴィムを撫でている。ぼくは夫人に食事と服のお礼を言った。夫人は

「あの服、とてもあなたに似合っていましたよ」

と微笑んで言った。


ぼくは、ホームズさんに聞いた。

「ホームズさんがぼくに事件捜査のお手伝いをさせてくださったのは、ぼくが日本人で、目撃されていた男も東洋人だからですか」

ホームズさんが首を横に振った。

「いいや、まったく」

「じゃあ、どうして」

「考えてもみてごらん。しゃべる犬を抱えた不思議な風体の少年が突然現れたのだ。もし、わたしが小説の主人公なら、こんな少年を放っておくはずないだろうと思ったのさ」

ぼくは、ホームズさんのまるでパズルのような説明に、はあぁとため息とも何ともつかない声をもらした。しかし、気を取り直して、

「それから、もう一つ。本当にバリツなんて武術、習ったのですか」

ホームズさんはにやりとして、

「ときにはハッタリも有効だろう? あの大男は、わたしの構えを見て、一歩も動けなかったじゃないか」

と言った。


ぼくはハンチングをかぶりなおし、みんなを見まわして言った。

「みなさん、お見送りどうもありがとうございます。ぼくたちは、ロンドンでとってもいい経験ができました。みなさんにこころから感謝しています。お会いできてよかったです。きっとまた遊びに来ます。それまでどうかお元気で」

ヴィムが

「楽しかったです。みなさん、ありがとう」

と言って頭を下げた。そして、ウィギンスに声をかけた。

「元気で。君なら何にでもなれる」

ウィギンスは、晴れやかに笑ってうなずいた。

ぼくはヴィムをしっかりと抱き、あの部屋を思い浮かべ、そっと目を閉じた。

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