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第二章 仮面の儀式

   謁見室の扉が重く開き、アリスが先頭に立って入室した。


 その後ろにジークシールド、そして灰色の粗衣をまとったクスト・レアが続く。

   父王は玉座に深く腰掛け、傍らの白木の箱を指差した。


  「来たね。……アリス、その男をここに」


   合図を受け、クストが王の前へ進み出る。

 かつて戦場を震わせた男は今、囚人の姿をしていた。

 ただ、その眼光だけが消えていない。


  「クスト・レア。君は死んだ。……アソセスの英雄として、カレル平原の泥に埋もれた。それがアリスが世界に示し、私が受理した『真実』だ」

   父王は笑みを浮かべ、箱の蓋を開けさせる。

 中から現れたのは白銀の仮面。

 額には王家の紋章が刻まれ、口元は固く閉ざされている。


  「生きてこの国に立つなら、名前は不要だ。……その仮面を被れ。二度と脱ぐな。人前で声を発することも許さぬ。今日から君は、アリスの影を歩く『番犬』だ」


   クストは仮面を見つめた。それは将軍としての死であり、人としての終わりを意味する。


  「……拒む権利は、ないようだな」


   その声が落ちた瞬間、父王の視線がジークシールドへ向く。


  「さて、ジークシールド。これが君への特命だ。この男が仮面を脱ごうとしたり、アリスの許しなく言葉を発したならば――」


   言葉を継ぐより早く、ジークシールドが音もなく背後に立ち、短剣をわずかに抜いた。銀光がクストのうなじを照らす。


  「その場で首を跳ねろ。報告は不要だ。……わかったな?」


  「……御意。この刃は常に、彼の死と共にあります」


   感情のない応答が室内を冷やす。


 アリスは拳を握り、視線を逸らさなかった。

 これがクストを生かす代償だった。


   クストは白銀の仮面を顔に当てる。

 カチリと金属音が響き、留め金が素顔を閉ざした。


  「……いい面構えだ。これで誰も君を英雄とは呼ばない」


   父王は満足げに身を預ける。

 誇りある騎士は怪物へと再定義され、娘はその鎖を握らされた。

   

 アリスは仮面の奥にあるはずのクストの瞳を探したが、冷たい白銀の光が反射するばかりで、何も読み取ることはできなかった。


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