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お気の毒ですが、あなたは殺処分の対象です   作者: うずまきしろう
一章 あなたの一番怖いもの
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第3話 あぶれ者どもの馬鹿騒ぎ

 パワードスーツ『NHスペシャル:バタフライスーツ』 


 機動力を補助する防弾防刃の戦闘服。

 皮膚に流れる微量の電流をエネルギーに変換する。

 このスーツを一枚着るだけで、人は人を超越可能だ。


 着用すると身体のラインがハッキリと浮かび上がる為、一部の女性から不満の声が上がった。


 しかし戦場では、その漆黒の煽情性さえもが蝶の如く猛威を振るうことだろう。

 灰色の床を彩る4つの人影は、それぞれ特徴的な形を主張していた。


 俺は右から順番に、フードの底から翡翠と黒のオッドアイを寄越す。


 まずは1人目。

 ひょこひょこと頭の天辺に揺らぐ薄桃色のアホ毛。


 続いて2人目。

 格納庫に背を預けて腕を組む、クール気取りの銀髪女。


 3人目が、装甲車の屋根に足を組んだ……左眼に眼帯を纏った青年。

 4人目は、これと言って特徴のない優男。


「貴様らが『規格外』か」


 返る言葉の代わりに、背後のゲートが音を立てて口を開く。



『漆黒の影』が、床に伸びた俺を呑み込んだ。


 

「──師匠ッ!!」


 反射的に零れた言葉に、首は背後へ捻じ曲がり、


「む……!」


──巨大な鉄鎧が、視界を覆い尽くした。


 不思議な印象だったが、そうと表現するより他ない。

 よく出来たプラモデルみたいな2本角の兜が、漆黒の籠手を構えている。


 やがて臨戦態勢は解かれ、漆黒の兜は眼窩に宿る赤い光をチカチカと点滅させた。


「いや……失敬。人違いだった」

 

 その澄んだ機械音声を聴く限りは、女か。いや、男か。よく分からん。

 大柄な鎧を見上げたところ、タイヤが床を擦れる音が、激しく響き渡る。



 最後の規格外が、とうとうその正体を現したのだ。



「こちらの装甲兵員輸送車が、作戦開始地点まで送り届けます。順次乗り込んでください」


 独りでに開いた後部ハッチに、人影は見えない。

 代わりに、事務的な高声が脳内を冷たく染み渡る。


「申し遅れましたが、私はレイ・アーシュリットと申します。『規格外の司令塔』として、特殊部隊『L7th』に配属されました」


 集った規格外は装甲車へ乗り込んだ。

 俺を合わせて、7名の総員が集合だ。


「良いなぁ~、みんなお揃いの戦闘服で」


 いつの間にやら、薄桃色の雑草が隣の座席に生長していた。


 伐採時期を誤ったらしい。

 口の中で舌打ちを響かせる。


 アルナと全身鎧は、全身密着型のバトルスーツを着用していない。

 しかしそれは、奴らが何の『規格外』であるかを考慮すれば当然のことだ。


「それでは、出発いたします」


 粛々とした声が、スターター・ピストルの引き金を引いた。






 格納庫を飛び出した装甲車は、荒れた野原の道なき道を突き進んでいく。


「初めまして、わたしはアルナ・ミュラーだよ!この部隊の副隊長で、『規格外のサイボーグ』ってことになってます!!」



 相変わらず馬鹿でかい声が、車内の平穏を殴り飛ばした。



 全ての原因は、鋼メンタルのアルナが自己紹介を始めたことだ。

 眉を顰めて右隣を睨む。

 薄桃色のアホ毛は、器用にも右矢印の形を作って話を続ける。


「じゃあ右回りにしよっか!」


 無理やり作り出された自己紹介の雰囲気に、不本意な時間が続いた。


「アレックス・ワトソンだ。皆、よろしく頼む」

「……ヨル・シュミットよ」


 漆黒の全身鎧は『規格外のサバイバー』。

 クール気取りは『規格外のスナイパー』。

 持ち味のよく分かる二つ名が、各人から吐き出される。

 

 しかし、問題だったのは、


「僕はレオナルド・ブレグマンだよ。正直、特徴なんてなくて……だから『規格外の普通?』なんだけど……」


 人差し指に頬を掻き、苦笑いする深紅の瞳。


『規格外の普通?』とはなんだ。

 一体何を基準に人員を選定したのか。ジャックの奴を問い詰めたいところだ。



 眼帯&包帯の男はもっと酷かった。



「クックック……我はライ・ユンジェ。森羅万象を滅する規格外のドミナントッ!!」


 包帯を巻いた右手を顔の前に被せ、滔々と繰り出される痛々しい発言。


 どうやら、この部隊は廃棄物の寄せ集めらしい。

 俺は今もってそのことを確信した。


「試練を前に我が名を叫ぶといい。星が巡らば貴様らに手を貸すこともあろう……」


 微妙な空気が、鉛色の車内を包み込む。


「スナイパーのヨル殿、か……噂はかねがね。私の生存の邪魔は控えて頂きたいのだが、」

「黙りなさい。その兜ぶち抜いてあるかも分からない脳天潰すわよ」

「アルナさんは、二丁拳銃が武器なのかい?」

「そうだよ!レオくんはなに使うの??」

「れ、レオくん……?」


 桃色の瞳を伏せた『規格外の中二病』を除き、誰彼の会話が耳に流れる。

 俺は来るべき任務開始に備えて、浅く瞼を閉ざす。


 

 不意の轟音が、装甲車をアトラクションのように揺さぶった。








 十人十色の悲鳴が、荒波に揉まれる装甲車を入り乱れる。


 心臓を破るような震動に、ぶわりと、ストロベリーブロンドの髪が左右に激しく揺らいだ。


「な、なに……!?!?」

「敵襲です!こちらの動きを探知されました!!」


 事務的な冷声が素早く脳内を叩く。

 面倒なことになったな。

 だが、移動の脚を破壊されるのはもっと面倒だ。機械兵どもを排除しておくか。


 思ったところで──阿吽の呼吸に開くハッチ。

 吹き荒れる潮風が、オイル臭い空気を鼻腔に雪崩れ込む。



 曇天の底、腐ったスライムのような海が、崖下を広がっている。



 目的のF14コンビナートはもうそこだ。

 縞柄の煙突が白い煙を吐き出し、沿岸から空を鉛色に染めている。


 敵襲とはドローン兵器のことだったらしい。

 奴らは走り抜ける装甲車を追従して、廃れた路上にレーザー光線を撃ち放っていた。


「六ちゃん六ちゃん!わたしねっ、色々と作戦を考えてみたんだけど──」

「──俺から1つ、貴様らに言っておくことがある」


 隣を響く声を無視して、装備を整える連中へ目を向ける。

 興味、無関心、疑問。

 色とりどりの目が、俺を射抜く。


 俺はふんと鼻を鳴らして、規格外どもの視線を払い除けた。


「俺は貴様らの隊長ではあるが、一切指示は出さん」


 チュンと、レーザー光線の音だけを響く車内。

 俺は固まる馬鹿共を無視して、淡々と続ける。


「俺は俺で勝手に動く。成果も出す。貴様らは貴様らで好き勝手やれば良い。邪魔だけはしてくれるなよ?」


 薄桜色の唇が、困惑と驚愕に引き攣った。


「……だ、駄目だよ!! わたしたちはチームなんだから──」


 けれどアルナが言い終えるより先に、部隊の意見は真っ二つに分かれた。


「クックック……!ならば、我は我の務めを果たすのみ……!!」

「……アタシも隊長の意見に賛成よ。元々、アンタ達と慣れ合う気もなかったから」

「あっ……!」 


 人間とは思えぬ速度でコンビナートへ疾走したユンジェ。

 ヨルもまた巨大な対物ライフルをアッサリ抱え、銀髪を揺らしながら何処かへ消える。


 華奢な腕が伸びるも、彼らの背中を捕まえることはない。

 子犬の懸命に唸る声が、隣から睨み上げた。


「うぅ~……六ちゃんっ!」

「部隊を纏めたければ勝手にやってろ。ここはそういう場所だ」


 俺は爽やかに透き通る感覚を胸に抱き、工業地帯へと跳び下りた。







 潮に錆びたコンテナ街が、疾走するコンビナートを不気味に彩っている。

 

 肌に張りつくような風を浴びれば、赤い目玉がコンテナの影を静かに光って、侵入者を今か今かと待ち構えていた。


「肩慣らしにはちょうどいいな」


 ニヤリと口元を歪め、ヒートソードを左手に。

 コンクリートを蹴り上げた矢先──事務的な声が、脳内を弾む。


「理人くん、こちらレイです。私が伝達するモーションアシストに則って頂ければ──」



 青い矢印が、義眼越しの景色を言葉と共に浮かんだ。



 さながら、俺が次に取るべき行動といったところか。

 しかし、レイの伝達する映像が目に浮かんだその時、俺は更に一手先の行動をとっている。


「──遅いな」


 舌先を突き抜ける、鋼鉄の溶ける苦い香り。

 右手の小銃が火を吹いた。

 腕に痺れる反動を逃がしつつ、次々と機械兵のカメラアイをぶち抜く。


 ネクストモーションが義眼に示されることは、もうない。


 俺はフードの底で深々と息を吐き鳴らす。

 

「顔も見たことない奴が気安く呼ぶな。他の奴らの面倒でも見ておけ」


 風船が萎むみたいに、事務的な冷声は消え失せた。


「……それが、ご命令とあらば」


 鬱陶しい脳内電信が途切れる。


 何はともあれ、これで周辺の敵は掃討したか。

 聳え立つ設備の合間を抜け、コンビナートを奥深く進む。

 次第に海が近づいていく。


 各地で暴れる規格外の爆音に、吹き抜ける冬の潮風。

 火照った身体を程よく冷まして、コンクリートを足裏で叩く音を運ぶ。



 俺は赤いパイプ管の束を辿り──とうとう、コンビナートの最奥へと足を踏み入れた。



「機械兵は……見当たらんか」

 

 そこは鉛色の貯蔵タンクが四方に聳えるエリアだった。

 少々、見通しが悪いな。


 思った瞬間──黒い影が、カラスのごとく貯蔵タンクから飛来する。


「ッ!?」


 地面を割り響く一撃。

 素早くコンクリートを背後へ蹴り、後退。

 空気が鋭く波紋して、吹き荒れる突風が頬を切り裂く。


 顔前に掲げた腕を下ろし、バッと正面を見据える。


「何者だッ!」


 

 赤い唇が、『見覚えのある獰猛な形』にニヤリと歪んだ。



──これでようやく、強者の地位が確固たるモノになる。

 その姿を認めて、どくりと、心臓が熱い血液を吹き出す。


「会いたかったぞ、アドラ」


 挨拶代わりに鳴らす銃声。

 緋色のポニーテールは、龍のように硝煙の中を泳いだ。


 勝気に整った顔が、相変わらず高慢に俺を見下す。


「フッフッフ……私もだ。恋する乙女のように、お前との再会を待ち望んでいたぞ」


 お喋りはそれまで。

 ヒートソードを水平に構える。

 不敵に仁王立ちするアドラを、睨み上げる。


「今度こそは壊してやるぞ」

「それはこちらの台詞だ。今日こそは格付けを済ませるとしようか」


 その言葉を皮切りに、俺は鼻っからの全開で『力』を行使した。

 今日はお盆最終日なので、特別スペシャルで18時頃にもう1話投稿します!


 それでは次話……アドラとの再戦をお楽しみに!!

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