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最期の光景  作者: Luluwa
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散花

一番楽な死に方ってなんだろう……

 飛び降り? 樹海? 首吊り?

 日本のインターネットはすぐに答えをくれない。

「死にたい」、「痛くない死に方」、死に関する検索をかけると、すぐにいのちのサポートなどと、いらない電話番号が真っ先に出てくる。

 私が知りたいのは、そんなのじゃない。

 もう未来に目を向けたくないから。

 こんな世界で生きていても、息苦しくて胸が詰まって、仕方がないだけ。

 誰かが言っていた。

 この世の中には病気で苦しんで、生きたくても生きられない人がいる。

 食べたくても食べられず、明日の命すら繋げられない子供達がいると。

 命は本当に不平等だ。

生きたくないと願う人の寿命を、生きたい人へ分け与えられたなら、どれだけお互いに幸せで、理想的な世界になるだろう。

 それにこの日本には尊厳死の制度すらない。

 治る見込みもなく、病気で苦しんでいる人にも、それでも生きることが優先だと、綺麗事を並べるこの社会が大嫌いだ。

 その痛みから解放させてあげられる手段もないのか…… やっぱり残酷だ。

 仮に私が一人いなくなったとしても、明日は平然と訪れる。

 自宅近くの河川敷の芝生上に寝転んで、この人生の辛かった事と楽しかった事、このなんの罪もないといった顔をした青空と向き合って、どちらが多かったのか計りたかったのかもしれない。

 欲を言えば、最期に誰かに抱きしめて、頑張ったねと褒めてもらいたかった。

 親にただ産み落とされた肉の塊にすぎない。

 生まれたくてこんなクソみたいな世界に生まれたんじゃない。

 スピリチュアルな世界ではこの親を選んで生まれてきたなんて、綺麗事を並べ立てて、生かすために納得させようとする。

 そんなわけない。 何が学びだ。

 こんな事を学ぶくらいなら、ハナから生まれてなどいない。

 自殺防止運動とかもくだらない。

 私は一六歳の美咲。

 美しく咲くと書く。

 美しく咲いたこともなければ、咲く予定もない。

 もう生まれた時から、すでに不良品として扱われてきたからだ。

なぜ親はこんな綺麗な名前を付けといて、雑に私を扱ってきたのだろうか。

 父と母は離婚はしていないし、仲も悪くない。

 私には二つ下の妹がいる。

 麗花。 綺麗に花と書く。

 この子は優秀だ。

 私と違って、生まれた時からミッションを遂行するかのように、タスクを消していくかのように、何事も与えられては淡々とこなす術を持ち合わせている。

 勉強に対してもそうだ。

 父は昔から厳しかった。

 私と妹が少し喧嘩をするだけで、何か気に入らないと、手をあげた。

 何でも力で制圧をしようとする類だ。

 おじいちゃんとおばあちゃんはあんな優しいのに……

 ひどい時は私たち姉妹の頭同士をゴンッと、打ちつけた。

 母も見ているだけ。 こんなの虐待だ。

 自分のストレスを子供への体罰で発散するのは、ただのエゴイスト。

 お金もない、名誉もない、こんなクソみたいな家に、頼んでもないのに産み落とされた。

 親ガチャ失敗だった。

だからきっと後に、男に甘えて金銭を出してもらうような付き合い方に、身を投じたのかもしれない。

 先日、子供を妊娠した。

 名前を書いて入学できるような、私立高校を八ヶ月で辞めて、また適当にお金を貯めて、高校の資格を取ろうか。

 先を示唆してくれる者が私にはいない。

 こっちに行ったら、こういう事ができるかもしれないよ。

 こっちを選んだら、こんなリスクがあるけど、それでもあなたはそっちを選ぶの?

 いろんな選択肢があるけど、あなたはこれが昔から得意だからこっちの方が合っているんじゃない?

 そんな言葉があれば、もしかしたらこんな事になっていなかったかな。

 高校中退と同時に、初めてしたバイトも同じタイミングで辞めた。

 でも高校を辞めて、すぐにバイトでもしなければ、携帯料金が払えなかった。

 家にお金も入れなくてはならない。

 取り急ぎ、どこかで働かなければ……

 友達と遊んだ帰りに、適当に駅の立て付けの求人情報誌の束から一枚冊子を取った。

 最寄駅から一番栄えているのは、三駅先の田町駅。

ここは友達とプリクラ撮ったり、居酒屋行ったり、ショッピングしたり何をするにも便利だ。

 だからこの場所を選んだ。

 ここの定期が手に入れば、いつでも遊びに来れる。

 交通費支給で、髪色自由なことを条件に探した。

 すぐに目に入った、居酒屋のバイトだった。

 電話をすると早速、面接のアポを取り付けてくれた。

 面接に行くと世間で言われている、普通の店長が面接をしてくれた。

 髪色自由とは言え、最初は受かるために黒髪にした。

 翌日には採用の連絡がきた。

 初日出勤をすると、そこからすぐに金髪に戻した。

 入ってしまえばこっちのものだ。

 しばらく働くとバイトも、客も大学生が多い事がわかった。

 ホールに出ると可愛がられた。

 若いね、可愛いね、金髪がよく似合うね、私が表に出たらそんな言葉が飛び交い、大学生のバイト女子は嫌な顔を見せた。

 そんな中、厨房の四つ上の大学生に告白され、付き合った。 

……というよりも、しつこかったからオッケーを出した私も安易だった。

 初体験ではなかったけど、付き合ってすぐにした。

 後々思えば匂いも、感覚も何もかもがタイプでもなければ、好きでもなかったかもしれない。

 何もかもが強引ではあったけれど、誘われて時間さえあれば会った。

 唯一、彼のモノが気持ち良かっただけなのかもしれない。

 セックスも回数も、重ねるたびに性の快楽が開花していく感覚を一六歳にして知ってしまった。

 挿入時、ついにコンドームすら着けてくれなくなった。

 お願いをしても着けてくれなかった。

 しまいには外で射精した直後、精子を拭き取りもせずに再挿入された。

最後の生理から一ヶ月半が経過した。

 心なしか体も顔も火照る感覚を覚え、食欲が増した。

 けれども、同時に吐き気もあった。

 ……きっと気のせいだ。

 そう思い込ませて、ひたすら生理が来るのを待っていた。

 二ヶ月が過ぎようとした頃、生理不順でもここまでこないのはさすがにおかしい。

 そう思い、彼の家に行く前に薬局へ寄った。

 妊娠検査薬……

 まさか一六歳の自分が薬局コーナーではスルーするような所で立ち止まり、購入するなんて思ってもみなかった。

 一つ入りの一番安い物を買った。

 彼の家に行き、トイレに入る。

 心臓ははち切れそうなくらい、うるさく鳴っていた。

 怖くて怖くて、出したいけど出ない。

 何分経っただろうか……

 意を決して、深呼吸をし、尿をかけた。

(神様、どうか今は妊娠してませんように……)

 初めて神様という存在にすがった。

 震える全身と、今にも溢れそうな涙目になりながら、必死に心の中でそう願った。

 検査薬の反応を心の整理がつくまで見ないように裏返し、床に置いた。

 リトマス紙のようなものが中に入っていて、左右の窓からそれが見えるようになっている。

 左側に線が入ったら、妊娠結果になると書いてあった。

 少し時間を置き、ドクン…… ドクン…… と、今にも破裂しそうな心臓の鼓動と、目を瞑ったまま床から検査薬を取った。

 そして、ゆっくりと目を開けた。

 左側の窓に線が入っていた……

 全身から血の気が引くような、夢なのではないかと思わされるような現実をぶつけられた。

 本当に妊娠したい人のところへ授かるべきだ…… 心からそう思った。

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