平凡な事務員、現実を突きつけられる
そこは白い世界だった。
恐らくは夢の中なのだろう。
俺は仰向けに寝ていて、天井とも、空ともつかない視線の先は、水面のようにわずかに波打っている。
悶々とした俺の心情は変わっておらず、ただ、現実ではないと確信できるこの世界に、少しだけ安堵を覚えた。
しばらくすると、白い水面に青白い文字が浮かんでいく。
辛い
苦しい
何故俺ばかりこんな目に
俺は何も悪いことはしていない
俺が感じていることが、ただただ羅列され、それをぼんやりと眺める。
どうすればいい
俺は平穏に生きたい
面倒ごとはごめんだ
その通りだ。どこか遠いことのように、同意する。
逃げればいい
どこへ
逃げたところで解決するとは限らない
浮かんでくる文字を見て少し苦しくなる。
変化は嫌だ
淡々と同じことを繰り返す
それしか望んでいないのに
どうして、周りはそれを許してくれないのだろうか。
それしか望まないだって?
ここで急に淡いピンクの文字が現れ、俺は目を見開いた。
変わらないでいることができると思っていることの方が甘いんじゃない?
何故周りが合わせてくれると思い込んでいるんだい?
俺はいつだって、周りに合わせてきた。
たまには俺に合わせてくれたっていいじゃないか。
何も多くは望んでいない。出世も、給料も、待遇も。
俺は何も多くを望んでいないのだ。
周りに合わせてきたのは、自分の選択だろう?
俺の心を読んだかのように表れた一文に、思わず口元を押さえた。
急な吐き気を感じたからだ。
その選択の結果がこれなんだよ
結果が、この結果が、俺が選んだ結果だって?
突き付けられた事実に悪寒を感じ、小刻みに身体が震えてくる。
自分に合わせることすらしないで、どうして望む結果が得られると勘違いをした?
最後の文は青白く光る。不意に視界が歪み、目から熱いものが零れ落ちた。
そもそも、俺の望む結果はなんだ。
本当に変わらないことなのか。
本当に現状維持なのか。
現状維持のために俺は何かしたのか。
何か、全てが手遅れなような焦燥感が、俺の心を焼いていく。
ああすればよかった、こうすればよかった。
後悔ばかりが胸を締め付けていく。ただ、その後悔すらも正しいものか分からないのだ。
押し寄せる不安、吐き気に口元を押さえ、小刻みに震え、無様に涙を流す俺は目をつむることしかできなかった。そして、意識を手放す直前に、誰かの声が聞こえた気がした。
「グレルはグレルの為に優しさを使ってみなよ」