平凡な事務員、問い詰める
「・・・帰ってきていたんだね、グレル」
数日後、俺は晴れて退院した。この部屋を後にしてから1週間が経過していた。
寮室で荷解きをしていると、背後から声をかけられた。
見なくたって分かる。ウィリアムだ。
だが、いつもは耳元にかけられる声が、遠くから聞こえる。
結局、入院中、ウィリアムは一度も病室に顔を見せなかった。
正確には見せていたのかもしれないが、俺の意識のある間に来ることはなかった。
「ああ、さっき戻った」
「そっか。お帰りなさい。なんか大変だったみたいだね」
白々しく彼は近づいてくる。
「なぁ、ドアを閉めてくれないか」
「え?」
「話があるんだ」
俺が振り返り、彼の顔を見ると、いつもの笑顔はそこにはなかった。
パタン、と乾いた音が部屋に響く。
「これで、いいかい?」
「ああ。こっちに座ってもらっていいか?」
俺は彼の机の椅子を指さす。
「・・・どこまで聞いたの?」
「大体、全部だ」
「そう・・・」
彼は椅子にかけながら、苦笑した。
「じゃあ、話すことはないんじゃない。全部僕が悪いんだ、ごめんなさい」
「俺は聞きたいことがあるんだ」
勝手に頭を下げてくるウィリアムに、俺は言葉を重ねた。
「なんで、俺の夢に入った。あれはお前が仕組んだのか?どこまでが俺で、どこまでがお前だったんだ」
「え、そこ?」
「あれはお前の催眠術みたいなものなのか?俺は魔法なんか使えないからさっぱり分からん」
一度口にすると、疑問がするすると沸いて出る。
「お前は転移魔法しか使えないと言った。あれは嘘か?後、昔から俺に目をつけていたらしいが、何故だ?同じ寮室になったのはお前の希望か?何か意図があったのか?なんで、俺に黙って転移先を付与した?どうやって王女殿下を助けた?」
疑問を口にする度に、俺の声は震えてくる。
「なんで俺に協力した?なんで俺に寄り添おうとした?なぁ、何も分かっていない俺を見て、お前は」
さぞや滑稽に見えていただろうな、と思うと泣けてきた。
悔しい?いや、違う。
これは裏切られたと、俺が思っているからだ。
「なぁ、ウィリアム、お前は俺をどんな気持ちで見ていたんだ?」
多分、俺はどこかでお前を信じていたんだ。
「・・・僕は、君を失いたくなかったんだ」
俺はとてもじゃないが、彼の顔を見ることはできなかった。
「でも、同時に、君の気持ちをこれっぽっちも考えていなかった。改めて謝罪するよ。本当に申し訳なかった」
許してくれるかは分からないけど、と彼は続けた。
「君の疑問には全て答えるよ」
ウィリアムの声も、俺と同じように、震えていた。