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平凡な事務員、2年前を思い出す

「君は2年前のフリューゲル帝国の内乱については覚えていますか?」

「はぁ、まぁ・・・覚えてはいますが」


俺が王城で勤めだして1年と半年ぐらいのときだった。

隣国の内乱なので、覚えているのは当然なのだが、それ以上に、


「あの時は朝も夜もなく働いていましたので、よく覚えています」

「そうですね。君は大変尽力してくれました」


ガードナーさんの言葉に俺は目を見開く。


「なぜ、ガードナーさんがご存じなのですか?」

「君が残業をしていた理由と、私が無関係ではなかったからですよ」


驚く俺にガードナーさんは続ける。


「あの時、君はフリューゲル帝国帝室からの物資、人員などの援助依頼、ならびに難民受け入れ要請などの書類担当をしていましたね」

「はい、その通りです」

「そして、フリューゲル帝国から送られてくる書類に違和感を覚えた」


俺は、言葉が出なかった。


「フリューゲル帝国帝室から我らがトートリア王国への正式な依頼でもありましたから、私のところにも、記入済みの申請用紙は数部送られてきていたのです。あくまで、サンプルとしてですが」


彼は遠い記憶を辿るように外を眺めた。


「その数部を確認したところ、申請用紙の様式自体が僅かに異なっていました。本当に数文字のことでしたが。私は違和感を感じました。ただ、私の手元にサンプルが届いたのは、担当部署、つまり君達が仕事を開始して3か月も後のことでした」


俺も思い出していた。あの壮絶な日々を。


「3か月も経っていたのです。この違和感が何をもたらすのか、私には分かりませんでしたが、当時はとても焦りました。最悪の事態を考えずにはいられなかったのです。もうすでに、我々からのフリューゲル帝国への輸送支援は始まっていたのですから」


ガードナーさんは俺の顔に視線を移した。


「気づいたのは夜中の3時頃でしたが、私はいてもたってもいられず、君達の部署へうかがいました。せめてもう少し多くの書類を確認したかった。部署には書類に囲まれ、机に突っ伏したままのアースレム事務官がいました。私は君の周りの書類を見て驚きました。様式の違う申請書類は分類され、更に、支援要請元、物資供給先、など細かく分類されていたのですから。数千部の書類が全て整理されていたのです」


職場で寝てしまっていた時にガードナーさんが来ていたのだ。

あの時のことを俺は思い出したくもなかった。本当に大変だった。

当時、母国語以外知らなかった俺は、フリューゲル語の辞書を片手に、書類と格闘していたのだから。


「その整理された書類を確認し、私は戦慄しました。一方の様式に書かれた支援先が、フリューゲル帝国帝室から提示された支援先と異なるものばかりだったからです。当時、貴方方の部署に任されていたのは、支援先ごとに支援物資の量と必要人員をまとめること、そして難民受け入れ先の割り振りだったと思います。支援部隊に対し、どの支援先の必要量を提示していくかは、君達の進捗に合わせる形となっていました」


そうなのだ。つまり、ある程度必要物資の総量の計算ができた支援先から、支援を送る仕組みになっていた。どうしてそのような仕組みだったのか。それはフリューゲル帝国帝室とトートリア王国の間で完全に取り決めが成立していたからだ。申請様式も、支援方法も、細部に渡り両者が合意していた。

つまり、帝室が指定した支援先であれば順不同でよかったのである。


「帝国からの申請書類の受け渡しも厳格に行われていました。ですから、支援先について敢えて確認するシステムはわが国にはなかった。これは我々の甘さが招いたことでしたが。私はこの事実を翌日すぐに支援部隊と軍部に伝えました。ところが、支援部隊はこの3か月、帝室から提示された支援先にのみ派遣されていました。それ以外の地域の支援先について、君達の部署から総量が上がってきていないと」


2国間の取り決め通りに事が進んでいたのだ。

誰も気づくはずはない。


「私は君の上司にも確認をとりました。彼は事の重大さを理解していませんでした。君については大変ご立腹で、申請書類に不備はないはずと何度言っても聞かないと。数文字のことの為に毎日残業をしていて手を焼いていると。私からも説明しましたが、帝国と王国との間で決まっているとことに口を出すなの一点張りでした」


当時、上司に俺は説明をしたつもりだった。

だが、全く取り合ってもらえなかった。

他につての無かった俺は、上申するという選択肢など思いもつかず、ただ、ガードナーさんの言う最悪の事態を予想してしまい、自身の正義感に抗うこともできないまま、日々同僚から白い目で見られ、上司には罵倒され、それでも、自分が関わる限りは最善を尽くそうとしていた。


「数日後、軍部からの提案で、偽物と思われる申請様式に書かれた支援先へのおとり作戦が決行されました。勿論、帝室同意の元です。この時に、支援部隊からおとり作戦に参加することになったのが、ウィリアム・アレクセイ魔法師でした」

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