平凡な事務員、上司に聞く
「・・・気づきましたか?アースレム事務官」
鼻につく消毒液の匂いに目を開ける。
左側に、ガードナー総務課長が上着を腕にかけた状態で立っていた。
俺はベッドに寝かされているらしい。
「意識が戻ってよかったです。医師を呼びましょう」
「ガードナーさん、俺は一体」
「私のことが分かりますか。それは結構なことです」
ガードナーさんが俺の傍を離れようとしたので、とっさに身を起こす。
「あっ痛っ・・・・」
「急に動くとよくありませんよ?」
彼は歩みを止めて、呆れたように首を振った。
「私も仕事がありますのでね」
「・・・ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。ですが」
「私としては今回の件について一切関わりたくはないのですが」
俺が言いたいことの先手を打つように、彼は言葉を紡ぐ。
「それに、君が話すべき相手は、心配しなくてもこれから沢山やってきますよ。私じゃなくてね」
「・・・いえ、ガードナーさんじゃないとダメなんです」
「それは何故でしょうか?」
「貴方が上司で、私が部下だからです」
こんな心底面倒くさそうな顔の上司を俺は見たことがなかった。
「何が聞きたいのですか?」
「どうして、私はガードナー総務課長の元で働くことになったのでしょう?」
「人事異動ですからね」
「なぜ、王族付けの事務官に私が選ばれたのでしょうか」
彼は小さくため息をついた。
「何故、今、それを聞くのですか?」
「・・・それは」
それは、俺が働いている上で、最も謎だったこと、また、最も誰かに聞くのが怖かったことだった。
気づいてはいたのだ。おかしい人事であると。
なんの後ろ盾もない俺を、急に王族付けにする意味が分からない。
だが、確認をする勇気など到底なかった。
「俺は、使い捨ての駒だったのでしょうか」
ガードナーさんは肩をすくめながら、病室の椅子をベッドに引き寄せた。
「大前提として、組織に属する以上は皆、駒ですよ」
王族も含めてと、彼にしては乱暴に椅子に座り、上着をベッドの手すりにかける。
「これは、面談ということにします」
「よろしいのですか?」
「仕方ないでしょう?君が申し込んだのだから」
まさか私から話すことになるとは思いませんでしたがと、彼は苦笑しながら、俺にベッドに腰かけるよう促した。
「身体は辛くないですか?」
「はい、大丈夫そうです」
「そうですか。では、どこから話しましょうかねぇ」
ガードナーさんは思案するように天井に視線を向ける。
正直、はぐらかされると思っていたが、そうでもないらしい。
一番、知ってしまうことが怖いことだったのだが、意識を失っている間に気持ちが整理されたのか、はたまた、暴行されたことで色々吹っ切れたのか。
俺はひどく冷静な心持ちで、ガードナーさんの言葉を待つことができた。