平凡な事務員、救出される
残酷な表現が続きます。ご注意ください。
ふと意識に灯がともり、徐々に感覚が戻ってくる。
ひどい頭痛と身体の痛み。
冷たいタイルの感触が、体温を奪っていくようで、寒い。
目を開けることさえ億劫だ。
少しずつ覚醒する中で、知らない男達の声がする。
「一体これはどういうことだ」
「これを着た男が潜伏していました」
「この紋章は!王城関係者か・・・なぜここが!」
「分かりません」
切迫した様子。言葉が、この国のものと違う・・・。
これは隣国フリューゲル帝国の言語。
ここはどこだ?なんで俺はこんなところにいるのだろうか・・・。
「そこに転がっている男がそうか?」
「はい。対応したものの話では、戦闘訓練を受けてはいないだろうと。グレル・アースレムと制服に刺繍がありましたが、こちらの情報に該当者はおりませんでした」
「最近入宮したのか、あるいは・・・王宮の状況は?」
「潜入部隊からは、第二皇女殿下に関する計画は成功した、と早朝に報告が」
「予定通り、ということか・・・」
王宮、潜入・・・。
まさか、この男たちが、第二皇女殿下を・・・。
タイルを靴底が叩く音が近づいてくる。
まぶたの裏が明るくなったと思うと、急に髪を引っ張られた。
「があっ・・・!」
たまらず目を開けるが、視界がマーブル状に歪み、気持ちが悪い。
「・・・おい、お前は誰だ?」
気持ち悪さと頭部の激痛で、口をはくはくさせるしかなかった。
「吐かせようとしたそうですが、頭をやりすぎてしまったようで」
「ふん・・・」
頭部の痛みがふっと消えると、顔がタイルとぶつかる。
痛みと口の中の血の味にしばらく咳こむしかなかった。
「どのようにいたしましょうか」
「酒を飲ませて、川に放り込んでおけ。王宮職員のスキャンダルにでもなれば、計画も運びやすい」
「こちらの衣服については?」
「後々使えるかもしれない。潜入部隊にでも渡しておけ」
「御意に」
「閣下!衛兵に囲まれています!」
「何!?」
タイル越しに突然振動が伝わってきた。多くの人間が走っている気配だ。
「一体、どうして・・・」
「どうしてだろうね?」
急に、知っている声が俺の頭上で聞こえた。
「隊長!人が一人倒れています!」
「王国騎士団だ!貴殿らを暴行罪の疑いで連行する」
「・・・転移魔法・・なのか。そんな、こんな人数を」
ぼんやりとした視界でも分かるほどの人影が急に目の前に現れた。
俺の髪を掴んでいただろう男と、その部下はあっという間に取り囲まれ拘束されていた。
「離せ!王国にこんな魔法技術があるなんて聞いたことはないぞ!外交問題にしてやる!」
「貴殿の顔には覚えがあります。フリューゲル帝国の大使殿。なぜ、こんな場所に」
「尋問は尋問室でいいよね?とりあえず送っていこうか?」
「ああ、通常連行ではそれこそ外交問題になりそうだ」
やはり、一人だけ声に聞き覚えがある。
「意識はありますか?グレル・アースレム事務官っすよね?」
誰かに声をかけられている。が、反応できない。頭痛がひどい。
「隊長!アースレム事務官の様子が・・・」
ああ、痛い。逃れたい・・・。
激痛から逃れるように、俺は意識を手放した。