平凡な事務員、傷心する
最後にR15の残酷なシーンが入ります。
部屋を出てからの記憶は曖昧だ。
どこをどう走ったのか。王城の門番に何と言って出てきたのか。
何一つ覚えていないが、気づけば俺は城外の街外れの丘に転がっていた。
日が陰っている。
門が閉まるまでに王城に帰らなければ、今夜の寝床もままならない。
頭では分かっていたが、身体は動かなかった。
感情も言うことを聞かない。とにかく今は人と会いたくはなかった。
少しだけ収まってきた怒りを抑え、俺はこれまでのことを整理する。
変化を拒み、周りに流されて生きていた頃。
急な異動の話と、嫉妬する気も起きないほど優秀な同居人と。
状況の変化に耐えられなかったあの時、俺は自分の行動を、考え方を、捉え方を変える選択をとった。
あれから、それほど時間は経っていないが、自分でも以前に比べ大分変化したと思う。
仕事を円滑に、迅速に行えている。
今回の件だって、立場を超えたことだったが、もやもやとしたものを抱えながら仕事をしていた頃よりはずっと良かったし、結果も出た。
自分の気持ちに正直に行動し、なおかつ、それを他者と分かち合っていくことに少しずつ自信がついてきていたのだ。
この変化のきっかけはなんだったのか。
俺にとってはあのときに見た夢こそがきっかけだった。
自身の内面を見つめるいい機会だった。
初めて内面というものに意識を向けたといってもいい。
辛辣で厳しい現実に気づくことになったが、それを受け止めることができたことは、今となっては誇らしくさえ思っていたのだ。
自分の力で成長したのだと。俺は思い込んでいた。
だが、違った。
あの夢は、ウィリアムが作り出したものだったようだ。
あいつは、俺が気づいていると思っていたらしい。
ショックだった。
俺はずっとあいつの手のひらの上で踊らされていたのだ。
俺の葛藤も、情けなさも、そして、自分で考え、乗り越えたと思っていたことも、自身を誇らしく思っていたことさえも、全部、あいつは知っていたのだ。
何故なら、あいつが俺にそうさせたのだから。
さぞかし滑稽だっただろう。
あいつの笑っている姿を思い出す。ずっと同室で、俺のことを嗤って見ていたのだろうか。
「ああん?なんだこれ」
唐突にわき腹を蹴られ、飛び起きる。
「こんなとこで寝てんなよ!くそがっ」
気づけば日は落ち、松明をかかげた男達に取り囲まれいた。
「・・・悪かった。移動する」
「悪かったで済むと思ってんのか??ああん?」
地面についていた右手を力の限り踏みつけられた。
激痛に身をよじらせながら、逃げようとするが、胸倉をつかれ、無理矢理立たされる。
嘘だろ・・・なんて日なんだ・・・。
次の瞬間、脳みそがはじけ飛ぶような感覚と同時に意識が暗転した。