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王城の天使さま、素早く解決する

部屋に着くなり、魔法省のローブやら制服やらを脱ぎ去り、あっという間に部屋着になったウィリアムはいそいそとベッドに潜り込み、布団から顔を出した。


「僕はすぐに第二皇女殿下の処置にあたろうと思う。グレルには悪いけど、僕の身体の方を見ててもらっていいかい?無いとは思うけど、犯人が来たときに助けを呼ぶなりしてくれると助かるかな」


言っていることと行動の温度差に色々と突っ込みたくなったが、時間もないので、ため息で返す。


「転移魔法で部屋に帰ってるから、俺たちが部屋にいることも分からないんじゃないか?」


消灯のままで、カーテンの隙間から漏れる光のみが部屋を照らしている。鍵も閉めて部屋を出ているから、このまま静かにやりすごせば気づかれにくいはずだ。


「相手が魔法師の可能性が高いから、探知されちゃうとどうにもならないけど、そこをケアしだしたらキリがないからね。今の最善はきっと処置に時間をかけないことだから、ちゃっちゃと終わらせてくるよ。」


おやすみぃ、とウィリアムは布団の中に頭ごと潜り込んだ。

寝顔を見られたくなかったんだろうか。

そもそも、転移魔法しか使えないと自称する魔法師が、今回の件をどうやって解決するつもりなのか、魔法を使う技術のない俺には見当もつかない。


「はぁ」


今回、様々な人を巻き込んだのは俺だが、刻刻と進むこの案件に一番ついていけていないのも俺だった。


言われた通り、ウィリアムの身体を座して見守るしかない。

そう思った矢先、寝返りを打ったウィリアムと目が合った。


「・・・え?」

「え?」


俺と天使の疑問符後、しばし部屋に静寂が漂った。

そして、ちょっと待って、と身をよじりながら、ウィリアムはくすくすと笑いだした。


「え?ちょっ、これっ、無理!」


笑いをこらえることができないらしく、文字通り、腹を抱えて笑っている。

俺には訳が分からない。


「お、おい、処置の方は・・・」

「う、うん、そっちは大丈夫。もう終わった、終わったんだけどっ」


おそらく、1分以上は笑っていただろう。ようやく収まったのか、彼は布団から抜け出し、ベッドに腰かけた。目じりの涙をぬぐいながら、ウィリアムは息を整えた。


「いや、今のはグレルが悪いよ」

「はぁ?言われた通り、お前の身体を見てただけだろ?」

「でもさ、せい、正座って・・・」


座して待つ。俺はウィリアムのベッドの脇に正座をしていた。


「いや、うん、僕も悪いんだ。君が生真面目であることは分かっていたんだ。でもさ、さすがに起きぬけに、正座した男の顔が目の前にあったらさ」


俺はウィリアムの言いたいことがなんとなく分かった。

ただ、俺にとっては緊迫した状況だった。

天使さまのこいつの危機感とは違う。

言いたいことが分かったところで、憮然とした表情にもなる。


「悪かったよ。・・・とりあえず解決したんだな?」

「ああ、問題なくお姫様はお目覚めさ。ありがとう、グレル」

「俺は何もしていない」

「そんなことはないよ!全部君のおかげだろ?」


全部?まさか?そんなわけないだろう。俺は本当に何もしていない。


「ウィリアムの手柄だと俺は思っているよ。さすがだな」

「僕は僕にできることをしただけだ」


俺は所在なく立ち上がり、着替えに向かう。


「それに、僕には君みたいな判断はできない」

「どういう意味だ?」


直帰で良いと言っていた上司。

これ以上天使と同じ空間にいることはひどく疲れる気がした。

外の空気でも吸おうと、制服を着替えにクローゼットに向かう。

背後のウィリアムの表情は見えない。


「グレルは僕が人の意識に転移できることを知っていたから、僕を呼んだんでしょ?」

「はぁ?」


俺が知っていた?知るわけもないだろう。


「初耳だがな?」

「身をもって知ってたから、国王に提案したんだよね?」

「あれは、国王がお前の名前を出したからで・・・」


そこから俺は言葉が出なかった。

身をもって知っていた・・・。

以前見た夢が俺の中でフラッシュバックする。


「お、お前・・・」

「君は僕のしたことに気づいた上で、僕の能力を今回の件に活かしたんだろ?グレル、君の人間性を僕はとても尊敬しているんだ」


誰にでもできることじゃないんだよ。


振り返った先にあったウィリアムの真剣な表情を、俺はまともに見ることができなかった。

これ以上対峙していると、殴ってしまいそうだ。

ふつふつとこみ上げる怒りに身が震える。

罵倒する言葉を辛うじて残っている理性で飲み込めたことを俺は褒めた。


事務官の制服のまま足早に部屋のドアへ向かい、素早く開ける。

一刻も早くここから離れたい。


「待ってよ、グレル。一緒に打ち上げを・・・」

「・・・お前、最低だな」


背後で、え・・・、という声が聞こえた気がした。

だが、俺の沸騰した頭は、その聞こえたか分からない声にさえも強いいら立ちを覚え、振り返ることもなく部屋を後にした。

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