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王城の天使さま、現る

初投稿作品です。よろしくお願いします。

「あー、だるい」


休みの日の早朝だというのに、俺は今日から同室になる他人のために部屋の掃除をしていた。

午前中にそいつは荷物を持ってくるらしい。


「はあぁ」


埃を掃きながら、俺は昨日、上司に指摘されたことを思い出した。


「なんで、俺ばかりに」


棚の埃を拭きながら、細かい指摘を反芻する。どれもこれも、言われること自体が仕事のような内容でうんざりする。


ここはトートリア王国、王都ツインベルクにある王城仕えのための寮棟だ。

俺は王城仕えの身といえば聞こえはいいかもしれないが、ただのしがない事務員である。

18才から勤めて、はや3年半。

人の出入りは意外に多く、新年度の人事異動につき、数日前に同居人は出て行って、

今日は新しい入居者がやってくる。

普段の休みなら、昼下がりまでだらだらと布団にくるまっている俺だ。

朝からシャワーを浴び、身綺麗にし、掃除をすることは苦痛でしかない。

だが、第一印象でこれから来る同居人とギクシャクするのはもっと苦痛だ。

とはいえと、俺は窓のサッシを拭きながらこうも思う。

もう、3年半も勤めたのだ。

市街地に出た方がもっと稼げるのではないか。

まだ20代なのに、このまま老害達や貴族様の相手をして人生を浪費していいのだろうか。

幸い、少しは蓄えができたし、いっそのこと、


「もう、仕事辞めっかなぁ」

「辞めちゃうのかい?」


なんの気配もなく唐突に視界の右側からかけられた声に、不甲斐なくも声をあげることも出来ず、俺はびくっと身体をこわばらせた。


「おはようございます。今日から同室になる、魔法省魔法科所属のウィリアム・アレクセイです。」


にこにこ笑顔で右手を差し出される。

しれっと声をかけてきたが、俺は顔をひきつらせるしかなく、右手を差し出す余裕がない。

なんだったら雑巾を持ってる。

この男のことを王城仕えで知らない奴は誰もいないのだ。

仕事は優秀、上から下まで顔がきき、3年の間にいくつもの斬新な魔法理論を城内に定着させ、全体の作業効率を格段にアップさせた。

普通は煙たがられようものだが、見た目と存在感が圧倒的だった。

曇りない金髪にクリアブルーの瞳。透き通った白い肌に、無邪気な笑顔と物腰の柔らかさ。

ついたあだ名が「王城の天使さま」。


「君は、本当に天使みたいな人だね」


そして今、俺はその天使さまから、天使呼ばわりされている。

さっきまで窓のサッシを拭いていた雑巾が、俺の手からパサっと落ちる音が、

いやに寮室に響いたのだった。

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