世界は理不尽で残酷で
ダンジョン配信物の作品を読んでいて拙者も書きたくなってきた。なので見様見真似で書いてみるゾ。
「よーし!今日のところはこんなところかな!みんなー、今日も配信見に来てくれてありがとねー!」
:まだ終わらないで
:そんなー(´;ω;`)
:まぁ初見で中層までソロで行けたし上々か~
:ソロで中層ってやっぱ天音ちゃん強いよな~これでまだ高校生マ?
私の名前は風繰天音。ダンチューバ―事務所【プリズム☆ステラ】所属のダンチューバーだ。そして今日は池袋東ダンジョンに挑戦していた。事前情報を調べていたとはいえやはりソロで潜れるのは中層の3層目でギリギリかな。これ以上も進めなくもないけど安全マージン的にはここが引き際だ。そう思って今日は引き上げようとしたとき、一匹のオークが森から姿を現した。まだ気づかれていないみたいだし、風を操って周辺の索敵をしたけど、他にいる気配も見られないし、はぐれオークかな。よし、今日はあれを倒して終わりにしよう。
「最後にあのはぐれオークを倒しておしまいにするね。【風迅】」
:【悲報】本日最後の犠牲者、ソロオークに決定。
:まぁ天音ちゃんなら今更オークの1匹くらい余裕やろ。
:でもなんかオークにしては体の色おかしくない…?
:気のせいだろ。いっけー天音ちゃん!
:はっや。カメラも追いついてないやんけ!
私はスキル【風迅】で一気に加速してオークに近づく。完全に距離を詰める前にオークの方も気づいたみたいだけど、相手が槍を振るよりも私が攻撃する方が速い。スキル【風切り】を私の武器である片手剣に纏わせて鋭さを上げ、すれ違いざまに振り抜く。普通のオークならこれで倒せているのに、今回の個体は手応えが軽かった。倒せてない!
「ブモッ!モッモッモッモ!」
首筋に確かな傷跡があるのに様子がおかしい。ダメージを負っている感じもなければ傷跡からなにやら影のようなものが出ている。つまり、
「変異個体ッ!」
:変異個体⁉やばくね?
:天音ちゃん逃げてー
:おい誰か探協に連絡入れろって!
:ソロで変異個体は無茶だ!
:推しのスプラッターとか勘弁だぞ……
変異個体。それは稀にダンジョン内に出現する通常の個体とは違う特異個体のこと。その強さは出現階層にもよるけれど、今回の場合は中層の中間層で出現した個体だ。最低でも下層級、下手したら下層フロアボス級もあり得る。……どうにか倒さないと、他の探索者が危険に晒される。幸いなことにここはまだ中層だ。おそらくリスナーによる通報が探索者協会に入っているはず。つまり救援が来るまで耐えられればなんとかなる可能性はある。希望は捨てちゃいけない。
……?
なんだろう…?体が痛い。あ、あれ、背中……か、壁…?ダンジョンの壁⁉ってことは階層の端っこ⁉確かに階層の端は近かったけど…
痛っ…これは血?誰の?私の?
ああ。足から血が出てる。
:おいなんだコイツ強すぎる
:動きが見えなかったぞ⁉
:あいつが消えたと思ったら天音ちゃんが吹き飛んだ!まずいまずいまずい!
:誰か俺たちの推しを助けられないのか⁉
:見たくねぇ、見たくねぇよォ。推しが殺されるところなんてェ。
痛みのおかげでかろうじて意識を保っているけれど…全身が痛い。体が動かない……
それでも前を見据えるけれど。そこに映るのは、不気味な笑みを浮かべて私に向かって悠々と歩いてくるあのオークだけで。もう……私、死ぬのかな。逃げることも出来なくて。助けも期待できなくて…
ごめんお母さん、お父さん。親孝行……できなくて。
ごめん、晴翔。お姉ちゃん頑張って晴翔の治療費稼いで、晴翔がまた外で元気に遊べるように……してあげたかったな……。不甲斐ないお姉ちゃんを……許して…。
はは、もう視界もぼやけてコメントもちゃんと見えないや。
:目を空けて天音ちゃん!
:くそ!だれでもいい!天音ちゃんを助けてくれ!
:嫌だ!また俺は推しを看取るのかよ…⁉
死を覚悟したその時だった。
「ん、邪魔」
そんな声と、ずっしりとした打撃音が響いた。
「お姉さん、大丈夫?」
私の目の前には狐面をした(怪しい!)男性が手を差し伸べていた。それと彼の足元に狐の形を火の魔力の塊?がいた。
「モエ、よろしく。」「コン!」
狐ちゃんが近づいたと同時に私の体がホワッとした温かい感覚に包まれた。
:うおおおい!?火葬にははえーわ⁉
:こやつ!探索者ちゃうんか?
:いや待て。天音ちゃん気持ちよさそうだぞ。それに傷も癒えてる。
:じゃあ探索者か?にしちゃあ怪しい風貌すぎるだろ。なんだよ狐面って。
:探索者にも色々いるからな…(遠い目)
痛みも消えてだいぶ楽になってきた。
「あの……助けてくださってありがとうございます。探索者の方…ですよね?」
「ん。」
返事はくれたけどどうにも生返事というか心ここに非ずという感じかな。目線もさっきオークが居た場所に向いているし。
「あ!私の目の前にいたオーク!どうなりましたか⁉変異個体だったんです!」
「ん?……獲物を横取りして申し訳ない。帰り道に居て邪魔だった。」
「え?獲物…邪魔…え?」
:???
:えぇ、なんだこの人…(困惑)
:帰り道に居て邪魔だった?変異個体なんですがそれは
「ん。でも安心するのはまだ早い。本命が来る」
「本命…?」
「そう。さっきのアレはただの斥候。証拠にほら、ドロップない。」
「ホントだ…」
ダンジョンの魔物は普通、倒されると光の粒子になって消えていく。そして魔物のドロップ品を落とすのだ。私達探索者はそれを探協(探索者協会の略)に持ち込み換金することで収入を得ている。でもあのオークは確かにこの人に倒された。実際に死体が消えている。でもドロップ品は落ちていない。
:ドロップ品がないモンスターとかおるんか?
:現にいるじゃねぇか
「ん。来た。」
お兄さんが言うと同時に、さっきまでオークが居た位置に大きな影溜まり?が広がり、そしてさっきのとは比べるべくもないほどの巨体をした真っ黒なオークが現れた。私は自分の体が恐怖に震えているのを自覚する。私じゃ手も足も出ないのが本能で分かってしまう。
「ブモォッ!」
そのオークが拳を目の前の彼に振るうのが見えた。見えてしまった。私を助けたせいで彼は…!
でも、私が想像した現実は実際には起こらず、彼はオークの攻撃を軽々と片手で受け止めていた。そして気づく。彼の頭には狐の耳が、そして九つのしっぽが彼に生えていることを。さっきまではなかったのに。この人も……私と同じ半妖なのだろう。
:ケモ耳としっぽ⁉九尾の狐か!
:片手で…?カメラ越しにも迫力があったぞ…?
:この人半妖なのか!
【半妖】それは平安時代(だったかな?)には日本各地で色んな妖怪が悪さをしていた。しかし一人の陰陽師に懲らしめられたことで一部の妖怪は改心し、それから徐々に人間と妖怪の共存が始まったらしい。そして半妖とはその改心した妖怪と人間との間に生まれた妖怪の血を引く人間のことだ。かくいう私も家系図を辿ると鴉天狗の血が混じっているらしい。
「ん。こいつはオークキングダム。下層第5層フロアボス、そして6層以降の徘徊系雑魚。」
下層5層ボス⁉
ダンジョンは上層、中層、下層、深層の4つに分かれているけれど、上層中層は5層までなのに対して下層以降は10階層ずつに分かれている。これは多少の階数に前後はあれど、どこのダンジョンでも共通の作りだ。その下層の5層のボスということは国の上位ランカーでもなければ対処は無理に近い。
:下層5層ボス⁉討伐難度S級じゃねぇか⁉なんでそんなのが中層第3層にいるんだよ⁉
:じゃあこの狐の人は何者だ…?軽々と受け止めてるが。
:有名クランにこんな探索者いなかったよな…?
:無名の在野ってことか?
:いやいや、上位ランカー(お忍びの姿)かもダルォ⁉
:こいつが嘘ついてるだけかもしれんぞ。騙されんな。
リスナーも混乱しているのが見て取れる。私も正直、目の前の光景を信じられない。でも、
「少なくとも、この魔物が下層の魔物なのは本当だと思う……実際、私は勝てるビジョンが見えないよ…体も震えてる。」
:天音ちゃんが言うなら、ほな本当かぁ。
:じゃあ本当にこの人何…?(n回目)
:有識者ニキネキおせーて
「こいつは魔力を使って軍隊を生み出す。そしてそれはキングを討たない限り終わらない。だから【オークの王国】。そして、こいつが落とす肉は死ぬほど旨い。」
「え?」
:最後の情報いる?
:最後が一番強調されてて草。
:ま、まぁ…ダンジョン食材が旨いのは周知の事実だし?




