無色透明
『どこだろう。ここ、寝てたはずなのに不思議だな』
自分しかいない白い空間に大きな球体が一つ浮かんでいる。中には赤や青・黄色などカラフルで小さい玉がいくつも浮かんでいる。
『綺麗だけど、どうやって出るんだろう』
そのとき、青色と水色の玉がキラキラと光った。なんでだろう、と思いつつ、理由は分からず、眠くなってたため抗わずにゆっくりと意識を落としていった。
ピピピピッ 『ふぁ〜、部屋に戻ってる』なんだったんだろう。とりあえず、害が出るわけでもなさそうだからいいか。
それから、毎日のように寝ると光る玉を見るようになった。
そんなある日、いつもと同じように寝たのに浮かんでいる玉は一つも光っていなかった。
なんの前触れもなくそれは起こった。黄色の玉が割れたのだ。球体の中に破片が飛び散っている。大切な何かが少し欠けた気がした。
違和感を覚えたのは、教室で友達にお菓子を貰ったときだ。嬉しいはずなのに、何も感じなかった。
『大丈夫?もしかして、苦手なやつだった?』
『大丈夫、ちょっとぼーっとしてただけ。これ、好きなやつだし』
『そっか、良かった』
私は内心焦りつつ、偽りの笑みを浮かべた。作り笑いが上手かったのか、気味悪がられたのか知らないが友達からも親からもバレずに一日やり過ごした。
昨日の夜から球体の中は不安定になっているらしく、玉は次々と割れていった。
黄色の次は緑、その次は水色、次は桃色。次は、次は…パリンッ パリンッ パリンッと毎日、毎日、割れていった。そのたびに大切な何かが欠けていった。
とうとう、球体の中には青色の玉だけとなった。この時、私は何も思わなかった。
…ピキッピキッパリンッ最後の一つも割れた。中には無色透明になった破片しかなかった。
朝起きて、私はようやく気づいた。あの光る玉は、自分の感情だったから、割れるたびに大切な何かが欠けていたんだなと。
昨日の夜、球体の中は無色透明だった。
つまり、感情はもう…無色透明となってしまったのだろう
この日から私はバレないように感情のあるフリをした。
彼女が感情を無くしてから数百年後、海の近くのある市ではこんな言い伝えがある
『白い空間に気をつけろ、入れば全てが無色透明になるまで終われない』